第44話 影の再誕
夜が更け、
神社には冷たい風が吹き荒れていた。
優李は布団の中で寝息を立てるが、
その胸の奥では小さな闇が蠢いている。
「……目覚める時が来たようだな」
零禍の声が、意識の奥深くから響く。
まだはっきりとは姿を現さず、
しかし力は確実に増していた。
優李の意識がわずかに揺れる。
夢の中のような、
現実のような不安定な感覚。
「……俺は……優李……だよな……?」
心の中で自問するたび、
零禍の囁きが重なる。
――「お前はもう、俺と切り離せない。」
その瞬間、優李の体が小さく痙攣した。
布団の上で腕が震え、声も漏れる。
「……やめ……やめろ……!!」
しかしその声は、
自分のものではないかのように響いた。
外では澪が気配を察する。
「……優李……!」
彼女は布団をめくり、顔を覗き込む。
その目に映るのは、
微かに黒い光を帯びた優李の瞳。
「……どうしたの?」
澪の声には恐怖と不安が混じる。
優李の唇が震える。
「……俺は……俺じゃ……っ、!」
その瞬間、
零禍の意識が強く優李を押し潰そうとした。
「そうだ、俺の力を受け入れるんだ。」
黒い霧が身体の内側でうねり、
全身に寒気と痛みを伴わせる。
優李は必死に抗おうとするが、
零禍の力は以前より強く、
息が詰まるほどの圧を感じた。
朧も異変を察して駆けつける。
「……優李!」
剣を構え、影を斬り払おうとする。
だが零禍の力は、
物理では触れられない深い精神の領域に、
ただ、根強く潜んでいた。
澪は泣きそうになりながらも、
優李の手を握る。
「優李! しっかりして! あなたはあなたでしょ!」
優李は苦しそうに目を閉じ、
震える唇からもれたのは零禍の囁きだった。
――「お前は弱い。お前は俺なしでは生きられない。」
だが、澪の手の温もりが微かな光を作る。
優李の意識の奥底で、
彼女の存在が闇に抵抗する光になった。
「……澪……俺……負けない……!」
優李の体が小さく跳ね、黒い霧が揺らぐ。
零禍の声が怒りを帯びる。
「…お前はまだ、俺を抑えるのか……!」
朧が声を荒げる。
「もう少しだ、澪! 力を合わせろ!」
夜風が樹々を揺らし、暗闇がざわめく。
その中で三人の心は、強く結びつき始めた。
だが――闇は完全には消えない。
零禍の残りの意識は、
優李の意識に残り続け、次の瞬間、
さらなる危険が訪れる予兆をはらんでいた。
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