第13話:祠への道と、暴走する守護ゴーレム(と村長の若かりし頃の武勇伝)
翌朝、ミストラル村は新たな決意に満ちた空気に包まれていた。
聖女セシリア、彼女の頭脳たるティアラ(優)、そして村の若き剣士エドガー、さらには護衛と道案内を兼ねて村長ゴードン自らが加わり、一行は呪いの森の最奥に眠るという「
ティナをはじめとする村の子供たちは、不安と期待の入り混じった表情で、聖女様たちの後ろ姿が見えなくなるまで手を振っていた。
再び足を踏み入れた呪いの森は、以前ケント少年を捜索した時よりも、さらに
(この
優は、ティアラのセンサーで周囲の環境データを収集しながら、セシリアに警告を送る。
今回は、森の地理に詳しいゴードン村長が先導役を務めていた。彼は、若い頃に狩人としてこの森を駆け巡った経験があり、険しい獣道や危険な場所を巧みに避けながら、一行を祠へと導いていく。
「この辺りは、昔はもっと開けておったんじゃがな……。わしが若い頃な、この先の谷で、村を襲おうとした巨大な牙猪(きばいのしし)を、たった一人で仕留めたことがあってのう。あの時は、三日三晩、猪と睨み合いじゃったわい」
ゴードンは、道すがら、そんな若かりし頃の武勇伝を、少し誇らしげに語り始めた。
(村長、その話、さっきから微妙にディテールが変わってるぞ。猪の牙の長さとか、睨み合った日数とか。記憶の改竄バグか、それとも単なる盛った話か? まぁ、士気高揚にはなってるからいいか。それにしても、このジジイ、意外とタフだな)
優は、内心でそんなツッコミを入れつつも、ゴードンの老いてなお
一行は、ティアラの《
(この
優の分析は、ますます祠の異常を示唆していた。
そしてついに、一行の目の前に、苔むした古びた石造りの建造物が姿を現した。
それが、伝説に語られる「
祠は、小高い丘の上にひっそりと佇み、周囲は不気味な紋様が刻まれた石柱で囲まれている。入り口は、巨大な一枚岩の扉で固く閉ざされており、そこからは濃密な
「ここが……
セシリアは、その異様な雰囲気に息を呑む。エドガーも、緊張した面持ちで剣の柄を握りしめた。
ゴードンは、複雑な表情で祠を見つめている。「まさか、この目で再びこの場所を見ることになるとはな……」
一行が、祠の入り口に刻まれた古代文字を調べようと、慎重に近づいた、その時だった。
ズズズン……!
突如として地面が激しく振動し、祠の前に鎮座していた一対の巨大な石像が、まるで長い眠りから覚めたかのように動き出したのだ。
それは、岩と土でできた人型のゴーレムだった。その
「あれは祠の守護者『古き岩人(いわひと)』じゃ! 何百年も動かなかったはずなのに……! やはり、祠に異変が……!」
ゴードンが叫ぶ。
二体のゴーレムは、敵意を剥き出しにし、その巨大な岩の腕を振り上げ、一行めがけて襲いかかってきた。一体が正面から重い拳を叩きつけようとし、もう一体は少し遅れて側面から薙ぎ払うような攻撃を仕掛けてくる。その連携は、まるで予めプログラムされていたかのようだ。
(やっぱり来たか、中ボスのお出ましだ! こいつ、完全に制御システムがバグって敵味方の区別がつかなくなってるな! しかも二体同時で連携攻撃とは! いきなりクライマックスみたいな展開だな!)
優は、ティアラの内部で戦闘モードへと切り替える。
「聖女様! お下がりください!」
エドガーとゴードンが、咄嗟にセシリアを庇うように前に出て、ゴーレムの攻撃を受け止める。エドガーが正面のゴーレムの拳を剣で受け流し、ゴードンが側面のゴーレムの薙ぎ払いを
セシリアも杖を構え、援護の魔法を放とうとするが、ゴーレムの硬い岩の装甲には、彼女の初級魔法などほとんど効果がないように見えた。
(まずいな、物理攻撃も魔法攻撃も通りにくいタイプか……! しかも、あの赤い目…あれが魔力コアか? いや、単純なコアではなさそうだ。二体とも同じ構造に見えるが、動きに微妙な差異がある。片方が攻撃特化で、もう片方が防御・支援型か? もっと複雑な制御システムが組み込まれている可能性があるぞ!)
優は、ティアラの分析機能をフル稼働させ、ゴーレムたちの弱点と行動パターンを探ろうとする。
(セシリア、ゴーレムの動きをよく見ろ! どんな強固なシステムにも、必ずどこかに脆弱性(バグ)があるはずだ!)
正面から迫っていた一体のゴーレムが、再び巨大な岩の拳をセシリアめがけて振り下ろしてきた。その影が、絶望的なほど大きく彼女を覆い尽くす。
絶体絶命のピンチ。
セシリアは、恐怖で目を閉じることしかできなかった。
(鉄壁の守護者(バグ持ち)出現! このままじゃパーティ全滅だぞ! セシリア、お前のドジが奇跡を起こす……なんて展開はもう期待できんからな! 頭を使え、頭を! ……お前の頭脳(CPU)でどこまで処理できるか知らんがな!)
優の焦燥に満ちた念話が、セシリアの意識に叩きつけられた。
その声に、セシリアはハッと目を見開いた。
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