Case 3-4 警視庁襲撃デモ
望は、机の上に置いていた冷めたコーヒーをひと口飲み、静かに口を開いた。
「南部君から、今回の菅原壱による事件の第一報を聞いたとき――私は、娘が危ないと直感した。
だが、私は……娘を助けるための案も、力も思いつかなかった。
亜里紗が目の前で消えていくような感覚に、ただ、呆然と立ち尽くすしかなかったんだ。」
望は手のひらを組み、額を押さえるようにしてしばし沈黙した。
「――そのとき、ふと、あることを思い出した。……私のクローンからの、数か月前の連絡だ。
彼は、あの独特の、昔の私と全く同じ口調で話していた。
『娘を助けたかったら、あの場所に来い』と。
私はすぐに、振動波生成室の裏手にある、旧ロボット開発用のラボへと向かった。
そこには……私たちロボット覚醒派閥が、かつて作っていた試作機とは比較にならないほど、進化した一台のロボットがあった。」
「……見ました。戦いのあと、倒れていた機体ですね」
南部がうなずいた。
「そうだ。私は電源を入れ、『娘を守ってくれ』とだけ伝えた。
ロボットは、無言でうなずいた。
そして、あとは君も見た通りだ――あのロボットは、あの菅原壱と互角に戦い、最後には……亜里紗を守りきってくれた。」
望の言葉には、どこか哀しみと誇りが交じっていた。
「……もし、私のクローンが、あの技術を人を守るために使ってくれたのなら――世界征服や力の誇示ではなく、ただ守るために進化させてくれたのなら……」
言葉を濁すようにして、望は小さく息を吐いた。
「――でも、それは希望的観測ですよ」
南部が重く口を開いた。
「あのロボットは、覚醒者の中でも飛び抜けた腕力と反応速度を誇る菅原壱に勝った。
……その力がもし、人間に牙をむけば――我々警察では、もう止められない。」
部屋の空気が、ぴたりと止まったように思えた。
望はその言葉に反論せず、静かに視線を落とした。
その沈黙の中で、ふいに――机の上に置かれたスマートフォンが、震え出した。
望は眉をひそめ、画面をちらと確認するや否や、すぐに応答ボタンを押した。
「……ああ、私だ。……なに? ――わかった。すぐ向かう」
電話を切ったその瞬間、望の表情から柔らかさが消え、警視総監としての鋭い眼光が戻っていた。
「南部君、テレビをつけてくれないか」
唐突な指示に、南部は一瞬驚いたものの、すぐに頷いてリモコンを手に取り、壁のテレビを点けた。
画面が点灯し、ニュース映像が飛び込んできた。
――そこに映し出されていたのは、瓦礫と化した警視庁本部の姿だった。
窓は砕け、外壁の一部は黒く焦げ、建物の上部からはまだ微かに煙が立ち昇っていた。
その周囲を、数百人規模の人々が取り囲み、声を張り上げていた。
デモ隊だった。
「これは……!」
南部が思わず声を漏らすのとほぼ同時に、ニュースキャスターの声が被さった。
《現在、映像に映っているのは、東京都千代田区の警視庁前です。
ご覧の通り、脳内干渉装置における能力覚醒者の実験データの開示、また、その危険性を把握していたにもかかわらず装置を普及させた政府への責任追及を掲げ、抗議活動が激化しております。》
《一部の参加者はすでに、警視庁本部の正門を乗り越える構えを見せており、現場では緊張が高まっています。警備当局は――》
「……いまは、銀野警視長もいない。私が現場に出て、収めるしかないようだ」
望が低く、だが毅然と呟いた。
「南部君、私は警視総監として向かう。……娘のことを、頼めるか」
その問いに、南部はほんのわずか驚いたような表情を浮かべたが、すぐに静かに、力強く頷いた。
「――頼まれなくても、私の部下ですから。全力で守ります」
望の唇がわずかに緩んだ。そのときだった。
上の階から、微かな物音が聞こえた。床板がきしむような、何かが立ち上がったような――そんな音。
望の顔が一気に明るくなる。
「……亜里紗が目を覚ましたかもしれん。私が出発する前に意識を取り戻してくれて、よかった」
そう言うや否や、望は力強く階段を駆け上がっていった。
その背中には、決意と、父としての安堵の両方が宿っていた。
しかし、2階へと向かい、亜里沙の部屋へと踏み入れた望と南部の目の前には、予想だにしなかった光景が広がっていた。
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