パート23: 予期せぬ乱入者

 セレスティアは、僕が差し出した手と、僕の顔を、葛藤に満ちた瞳で見つめていた。

 プライドが、素直にその手を取ることを許さない。

 だが、僕のプロデュース能力への興味と、強さへの渇望が、彼女の心を揺さぶっている。


「わたくしは……」


 彼女が、何かを言いかけた、その時だった。


 ドッゴォォォン!!!


 突如、訓練場の壁が凄まじい音を立てて破壊された。

 土煙が舞う中、瓦礫を吹き飛ばして姿を現したのは――銀色の髪に、もふもふとした狼の耳と尻尾を生やした、一人の少女だった。


「グルルルル……アアアアッ!」


 その瞳は赤く充血し、理性の光はない。

 口からは涎を垂らし、獣のような唸り声を上げている。

 明らかに、暴走状態だった。


「獣人……!? なぜこんなところに!」


 リナが驚きの声を上げる。

 僕の記憶が正しければ、彼女は確か、下級生のフェンリル。

 スキル【獣化】の制御に失敗し、たびたび問題を起こしていると聞く。

 三人目の最高傑作候補の一人だ。


(まさか、こんな形で会うことになるとはな)


 暴走したフェンリルは、最も近くにいた僕たちを敵と認識したらしい。

 その鋭い爪を振り上げ、僕に向かって一直線に突進してきた。

 リナは魔力が尽きかけていて、すぐには動けない。


(仕方ない。僕が前に――)


 僕が身構えた、その瞬間。

 僕の前に、すっと銀髪の少女が割り込んだ。

 セレスティアだ。


「――させませんわ!」


 彼女は、残った最後の力を振り絞り、僕とリナを守るようにして【絶対守護】の壁を展開した。

 ガキンッ!と鋭い音を立てて、フェンリルの爪が防御壁に弾かれる。


「セレスティア……!?」


 僕が驚いて彼女の名を呼ぶと、彼女は僕の方を振り返らずに、しかしはっきりとした声で言った。


「……勘違いなさらないで。プロデューサーであるあなたが、こんなところで無様にやられては、わたくしの目が曇っていたことになりますから」


 その言葉は、彼女なりの言い訳。

 そして、僕のプロデュースを受け入れるという、彼女の答えだった。

 僕の口元に、満足の笑みが浮かぶ。


「ああ、そうだな。僕の最高傑作たちに、傷一つつけるわけにはいかない」


 こうして、僕のチームに最強の「盾」が加わった。

 そして目の前には、新たな「原石」が、その荒々しい才能を僕たちに見せつけている。

 ショーは、ますます面白くなってきた。

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