第3話 助け
「…え?雅…ちゃん?」
雅ちゃんを好きになってから日が経った。
雅ちゃんは、私の親も知る存在になった。
「なんで…!」
私は、イジメられていた。去年から。
つまり…入学してから。
でも…今…目の前に雅ちゃんがいる…。
「…」
雅ちゃんは何も言わない。
ゴッ。
辺りには鈍い音が響き渡った。
「っ雅…ちゃん」
思わず目をつぶった。
「なっ!」
中心人物…の、男は驚きを隠せていなかった。
「よっわ」
雅ちゃんは、そういった。
それに激怒したのか、男は、雅ちゃんに殴りかかろうとする。
「私の先輩イジメてんじゃねぇ…!」
そう言うと、雅ちゃんは、男の拳を片手で止めた。
「雅ちゃん!」
嬉しさと…悲しみがこみ上げてきた。
でも…もう…やめてほしかった。
私が我慢すればいいんだ…。
雅ちゃんが…やる必要はない…。
「ちっちょっと待て!」
「嫌だ」
「ひっ広島…雅?」
わかったかのように男が雅ちゃんの名前を言う。
「そうですけど、なにか」
淡々と答えた。
「なんで…!こんなとこに…!」
「ああ?黙ってください」
「ひっ」
雅ちゃんは、男たちを睨んだ。
「雅…ちゃん?!」
なんで…雅ちゃんを知ってるの?
ゴッ。
また、鈍い音が鳴り響いた。
雅ちゃんが…蹴り飛ばした音…。
「ぐうっ」
男は苦しんでいる。
「なっなんで?!」
「はっよーわ」
軽く鼻で笑って煽る、雅ちゃん。
「まだまだ、ですよ?先輩を苦しめた罪ですもん」
雅ちゃんは…すうっと大きく吸ってから。
「ねぇ?」
と煽るように言った。
「嫌…!」
「なんでうちらが!」
「怖い…!」
「何もしてないじゃん…!」
…少し…頭にきた。
何を言ってるのだろう、この人たち。
今まで…見て見ぬふりを…してきたくせに…っ。
「何言ってるんですか。先輩がイジメられてるの、知ってたんですよね?クラスメートですよね?」
私が言いたかったことを…雅ちゃんが代わりに言うように質問攻めする。
「そう…だけど…!」
「何もしてない?」
「――っ!」
雅ちゃん…もう…いいよ。
雅ちゃんが…つらいよ…。
「笑ったりしたでしょ?〝やめなよ〟って声かけましたか??」
「そんなこと!」
「まあ、できませんよね」
いつもの…雅ちゃんじゃないみたい…。
何も言えずに座ってる私がバカバカしい。
「大丈夫、あんたたちにまで手を出すつもりはありません。誰が中心で、誰がそれに乗っていたのか、先輩が教えてくれて、あなた達がいなければ、ね」
くるりと私の方を向く。
「先輩…教えてください」
優しく声を掛けてくれる。
「…うん、さっき、雅ちゃんが蹴りを入れたのが乗っかってた人たちの中心で、肩組んでたのが本当の中心。
あとの人たちは、さっき雅ちゃんが話した人以外、みんなそう」
…さっきの子は…直接やられたわけじゃない。
あくまで…加害者側の被害者。
「ありがとうございます」
優しい声で言った。
雅ちゃんの風で少し伸びた髪がなびく。
「許さない、あなた達みんな」
ここにいた、私ともう1人の女の子以外、青ざめた。
「ゆっ許して…!」
「ごめんなさい!!」
……なんで…今になっていくんだろう。
他人事のように思う。
「何言ってるんですか?謝るのは私じゃありませんよ?先輩に名前を出されて怯えてた」
びくっと女の子が驚く。
「白鳥 紗蘭(しらとり さらん)さん?」
さっきより、大きく震える。
「なんで…!」
名前を知ってることに驚いているみたい。
「兄さんに聞いたので」
ね、兄さん、と、ここにいない…お兄さんに声をかけた。と、思った。
「まあな、顔見知りってところだ」
「…!」
紗蘭ちゃんは、驚きと絶望を隠せずにいた。
「簡単だったぜ、お前の悪事を探して理事長に送ることは」
「りっ」
理事長?なんで…
たしか…名前は「広島 宏大(こうだい)」
見たことはないけど、すごい人なんだと思う。
広島…雅ちゃんと同じ苗字…。
「ありがとね、兄さん」
「可愛い妹のためだ」
「うるせー」
ほほ笑んでしまうような、軽く言葉をかわす。
「あああっ兄まで来てしまったああああああああ」
男は起き、わめいた。
正直うるさい。
「「ああ?」」
兄妹、2人揃って威嚇する。
「いいか?ここにいる、先輩とその隣にいる人には手は出さない」
「お前らは俺らが全力で叩きのめす」
その言葉を合図に、チャイムが鳴るまでの30分戦い続けた。
怖くてたまらない。
暴力なんて、一回しか。
それも、終わった後しかない。
「もう2度と先輩に手ぇ出すな」
「わかったか?」
…雅ちゃん…なんで私のために…ここまでするの…。
「わかったかって言ってんだよ!」
雅ちゃんが叫ぶと、は…い…
と力のない返事が聞こえた。
「ここであったことは誰にも言うな」
同じように力のない返事が返ってくる。
「先輩、」
優しくて…温かい声が聞こえる。
もう大丈夫だって、思って顔をあげる。
「雅…ちゃん」
「終わりましたよ」
「ありがとう」
優しく返す。
「そこまでする必要あったの?」
泣いてしまいそう。年下相手に…情けない。
「はい、ここまでしないと、なかなか聞いてくれないし、改めないので」
「そっか、」
雅ちゃんに…迷惑かけちゃった…。
その空気をぶち壊すように、お兄さんが来た。
「こんにちは、雅の兄の海來です。妹がお世話になっています。」
…笑ってしまいそうだった。
「始めまして。神奈珠羽です」
にこっと、笑って返す。
このあと…雅ちゃんが事件を起こすことを知らずに。
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