第2話 好き

 それから日は流れ春になろうとしてる。

「…もう1月かぁ」

 授業前、そんなことをつぶやいた。

「おい。神奈ぁ来いよ」

 びくっ

 …あ…ああっ〝また〟おもちゃにされる…っ。

 そう思いながら白鳥紗蘭率いるクラスメートにイジメられた。

「あんた、わかってるんでしょうけど誰にも相談しないでよ?」

「は…い」

 心無い返事をする。

 トボトボと教室に戻り、窓の外を眺める。

「あ…1年生だ。」

 雅ちゃん、いるかな…。

 あ、いた。

 こんなに早く見つけられるとは思っていなかった。

 サッカーするんだ…。

 かっこいいだろうなぁ…。

 運動神経いいもんね。

 ……え?!かっこいい?!なんで?!

 …これは重症だなぁ…。

 ほんとに好きになっちゃったりして。多様性だもんなぁ。今は。

 …海斗に相談してみようかなぁ。


 わぁ…かっこいいっ。

 あ、もう決勝かな?

 授業を放ったらかしにして見に入っている。

 あ、大丈夫だよ?!意外と頭いいんだから!

 こちらを指さした雅ちゃんの隣の男の子。

 キャーッと叫んでいるように見える。

 思わず手を振った。

 再び叫んだような顔をしてから手を振り返してくれた。

 そうだ。

 やりたいことがあったんだ。

『雅ちゃん、お疲れ様。かっこよかったよ』

 私の思うままに打って送った。



 部活の時間。

「こんにちはー」

 雅ちゃんが何かを言いたそうな顔をしている。

「珠羽、ここって―」

 春乃ちゃんに聞かれた。

 部活のことなので仕方なく、説明をする。

 あっ、雅ちゃん行っちゃった…。

 それを追うように春乃ちゃんが出ていった。

 ……もしかして。


 予感は的中。

「何してるの?」

 思いの外、冷たい声が出た。

 …雅ちゃんと春乃ちゃんが抱きついてる。

 後の状況が何故かもやもやする。

「あっ…珠羽…先輩」

「珠羽。雅ちゃんと、付き合ってもいいかな」

 なんで私に聞くのか。

「好きなの。雅ちゃんが」

 …雅ちゃんが何を言うのかが一番気になった。

「雅ちゃん。春乃のこと好き?付き合う?」

 呼び捨てしていることは気づかなかった。

「…春乃先輩、ごめんなさい。私、世界で一番好きな人がいるんです。でも、先輩のことは先輩として、大好きです」

 正直で、優しくて。すごく好き。本当に。

 ああ…私、雅ちゃんが好きなんだ…。

 初めて自覚した日だった。

 同性を好きになった日だった。


 初恋の相手にまた恋をしてしまったことを、私はまだ知らなかった。

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