2-1

―それはそれはとても仲睦まじい夫婦のお話でございます―


その夫婦はとても仲睦まじいことでご近所でも有名だった。


どこへ行くにも常に一緒で手を繋ぎ、隣で微笑み合い歩く姿はまるでドラマのようだと噂する者もいた。

夫婦共に容姿端麗、美男美女。

性格も優しく人当たりもいい。

まるで作り物のようなその夫婦は、ある日、妻の死をきっかけに姿を見せなくなる。

元々、妻は身体が弱かったらしい。

風邪をこじらせそのまま起き上がらなくなってしまった妻の横で、夫は悲しみ絶望した。

「私が死んでも幸せに暮らして欲しいな」

かつて夫に向かって微笑む妻に馬鹿なことを言うなと怒ったこともあった。

それが現実になろうなどと思ってもいなかったのだ。

しかし、妻が悲しむ姿を夫は決して見たくはなかった。

妻が望み、妻が夫の幸せを願いのならば叶えなければならない。


夫は静かに立ち上がった。

幸せになろう。妻のために。


妻の葬儀が終わり、会社に出社した夫は今まで以上に働いた。

元々、仕事も優秀で次の管理職候補に若いながらも選ばれていた。

又、容姿と性格も相まって老若男女に人気だった夫はあっという間に新たなパートナーを見つけることとなる。

ご近所の方々が言うには、夫よりも背が低くふんわりとした可愛らしい方。

職場の方が言うには背は夫と同じくらいできりっとした仕事が出来る雰囲気の方。

同僚が言うには夫よりも年上で笑顔が素敵な方。

目撃証言が全て一致しない。

とはいえ、それを同一人物かどうかを判断する者もいない。

あくまでその場の会話であり、噂話でありごく一部の人間の暇つぶしの話題でしかない。

気づいたところで夫はもてるのだから、当たり前だと納得するだろう。


その頃、この街には女性の行方不明事件が発生していた。

争った後も事件に巻き込まれていた痕跡もない。

ある日突然、ふっと姿を消し、そのまま連絡がとれなくなっていた。

夫の会社の上司の娘も一人行方不明となっていた。

夫は上司を励まし、上司に付き合い捜索にも協力していた。

上司の分の仕事までこなし、目の下には隈をつくり献身的に上司を支えるその姿は部下の鑑などと言われるようになっていた。


「君も少し休むといい」

疲労困憊の上司はそう言い、夫にホテルのチケットを手渡した。

上司の精神状態を支えていたのは部下である彼だった。

「私の代わりに仕事もして、捜索まで手伝ってくれて感謝している。しかし、君が倒れては元も子もない」

奥さんを亡くしたばかりなのに申し訳ない。

そう上司は疲れ果てた顔で微笑んだ。

夫は上司に労りの言葉をかけ、大切に使わせていただきますとホテルのチケットを受け取った。

上司の計らいで長期休暇を取得した夫はホテルへと向かう為、準備を始めた。


夫がホテルに泊まる日、行方不明の女性は十人になっていた。

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