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エレベーターを降りた城守と男は静かな廊下を足音も立てずに歩いていた。

ロビーと同じ深紅の絨毯が二人の足音を包み込み、吸収している。

その柔らかさと心地よい反発に、男の肩の力は更に抜けていく。

突き当たりの扉の前にたどり着くと、城守はこちらですとにこやかに微笑んだ。

ゆっくりと扉を開き、男を中へと促す。

扉が開くと同時に部屋の中の電気が自動で点灯した。

暖色系のその照明は明るすぎず暗すぎず、男の心の何かを少し緩和した。


男は部屋の中に入り、リビングであろうその場所のソファーに腰を下ろした。

自身が濡れていたことも忘れ、そのまま心地よく沈み込むソファーに身を任せる。

雨の中、山道を走っていたのもあるのか一気に疲れの波が彼に押し寄せた。

彼の姿を城守は無言で笑みを浮かべたまま見ている。

「お気に召していただけたのなら何よりでございます」

一礼をし、城守はそのまま去ろうとしていた。

しかし、男はそれを何故か引き留めた。

「この部屋にはテレビはないのか?観たい番組があるんだが」

眠気を我慢し、男はそう尋ねた。

どうしても確認したいことが男にはあった。

それはテレビでないと確認できない。

「申し訳ございません。本日、雷雨の影響でテレビが故障してしまいまして」

わざとらしい程の謝罪に男は慌てて首を横に振った。

「気にしないでくれ。少し楽しみしていただけでなんてことはないんだ。それにスマホを忘れてしまってて暇つぶしが欲しくてな」

男は自身のスマートフォンをどこかに忘れてしまっていた。

それも踏まえてテレビを観たかったのだが、壊れてしまっているなら仕方ないと男は笑った。

それを聞いた城守は少し考えた後、では、と口を開いた。

「暇つぶしになるかは分かりませんがホテルにまつわる物語などいかがですか?」


私でよければお話ししますよ?


城守はそう微笑んだ。


なんとなく断ることが出来ない雰囲気が漂っていると男は思った。

「それならせっかくだしお願いしようかな」

本当は遠慮したいところだったが、口が勝手にその言葉を紡いだ。

眠気で頭と心の連携が上手く出来ていないのかもしれない。

「かしこまりました」


それでは最初のお話はとある夫婦のお話でございます。


城守は微笑み、優しい暖色の明かりのなか物語は始まった。

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