第17話 君の〇〇声
ゴッセの町地上で出会ったあの女の子は、メルルと名乗った。
あとを追いかけるのは大変だったようで、可愛らしい洋服がさらに汚れて、栗色の髪もくすんでいる。
俺たちに疑惑の視線に見つめられて、メルルは顔を青ざめさせた。
「わ、わたし……お外で隠れていたけど……。い、いきなり頭がうわーってなって……。き、きづいたらおねーちゃんたちを追いかけていたの……」
パニック障害だろうか。
リリィが少女の隠れ場所に魔除けの結界を張っていたが、両親も町の人もさらわれて、一人の恐怖がとうとう耐えられなくなった。
ってーゆー、考え方もできるっちゃーできるが……。
リリィが怪我はないか心配したようで、メルルの診察をはじめた。
少女に怪我らしい怪我はなかったようで、俺はこっそりと聞く。
(催眠や精神汚染の類いは?)
(ありません。身体も……人間でございますね)
やっぱり調べていた。
さっすがー、善性と合理性を同時になす子。
しかし、それなら、うーん…………倒したモンスターは道しるべになるし、今のところ複雑な分岐もなし、フィリオのおかげで打ち漏らしもない。自分より強い冒険者を察して逃げるモンスターも多いし、俺たちを追いかけることはできる、か?
メルルへの警戒はとくか……一応。
俺が剣の柄から手をはなすと、場の空気がゆるんだのを感じた。
「お、おとうさん、おかあさん……。この先にいるのかな……?」
メルルは奥につづいている道を心細そうに見つめた。
フィリオがすぐに優しく微笑んだ。
「きっと無事でいるよ」
「わ、わたしも……ついていっちゃ、ダメ……?」
「それは困ったなあ。ご両親はメルルちゃんをきっと心配するよ」
フィリオは王子様スマイルを崩さなかったが、相当困っているようだ。
すると、メルルが胸元をまさぐってペンダントを取り出した。
「あ、あの……これ……思い出して……」
「これは……見つけな草を加工したものだね」
ペンダントの飾り部は琥珀石だ。花弁が埋まっている。
見つけな草、正式名はフォーリン草だったかな。
一つの茎に色が対になる花が咲き、互いを感知する特色がある。親が子供に渡して、迷子のなったとき探しやすいようにするお守りみたいなものだ。
ただ、日ごろから微量の魔力を花弁に馴染ませておかないといけないし、馴染ませた本人にしか感知できない。……これもあるから追いかけてこれたのか?
「お、おとーさんの見つけな草……わ、わたし、ちょっとわかるの……」
「そっか…………メルルちゃんもご両親を助けたいよね」
フィリオは思うところがあるのか、なにか決意を固めたように唇をむすんだ。
こりゃあ一人でも行くな。
進むべきか、戻るべきか。
メルルの説得にも骨が折れそうだ。リリィにメルルを眠らせてもらう……目覚めたときに、もし家族が助からなかったと知ったら、心に大きな傷ができかねない。リリィだけに汚れ役をさせるわけにもいかんか。
……しゃーない、身体をはるか。
飛びこまなきゃひらけない活路もある。それに勇者だったときに比べたら、こっちも卑怯な手を使える分いくらかマシだ。
俺が考え終わったのを察したのか、リリィがたずねてきた。
「いかがいたしましょう?」
「みんなで隠れながら前に進みましょーか」
みんなが俺を見つめてくる。フィリオは特に嬉しそうだ。
「ほんと⁉」
「フィリオが先導で、モンスターは俺と二人で処理しよう。リリィは信仰力温存で、メルルの保護優先。いざとなれば聖術で乗りきろう。……時間はかかることになるけど、後続と合流できる可能性もあがるでしょ。たぶん」
「ハルヤ君、指示にも慣れているね!」
俺は気だるい感じで言ったが、フィリオはニッコニコだ。
そりゃあ前世で君たちと組んでいたしさ。
「あ、ありがとう……おにいちゃん」
メルルが嬉しそうに俺を見あげてくる。
勇者を見つめる眼差しを思い出し、俺は腰ヘコヘコしておちょけようと思った。
「まっかせなー! 俺は女の子の味方だからさー!」
「ひっ……⁉」
ぐはっ⁉ ガチヒキしていらっしゃる!
こ、こんぷらいあんすーー……。
ま、まけるな……ハーレムを作ると決めたときから、そんなもの捨てただろう⁉ だが、しかし、うぐぐぐぐぐぐっ……。
「お、俺たちが絶対に君のご両親を助けてあげる。大丈夫。なにせ俺たちは……世界で有名な最強冒険パーティーだからね」
目線を合わせるために膝をつき、勇者らしい笑みを浮かべる。
子供が大好きな最強というワードを強調することも欠かさずに。それがよかったのかメルルは安心したように微笑んだ。
だが、安心できなくなったのは俺だ。
リリィの瞳は『やればできるのですね』とギラギラと妖しく光っている。
フィリオにいたっては『もっと評価をあげなきゃ』みたいな瞳だ。
うごごごごご! 俺は、俺の運命に負けないからな!
〇〇〇
地下採掘場の攻略は、かくれんぼに切り替わった。
行進は静かなものとなり、フィリオには感知に集中してもらう。
モンスターがあらわれたときは気配を殺して、先制からの一撃必殺で倒しきる。かなり安全な行進だ。
通路が分岐するたび、メルルが感じるという方角へ進んでいった。
と、フィリオが驚いたように言う。
「……すごいね、ハルヤ君。専門職並に気配を殺せる」
「ガチの本職には負けるって」
「それでもすごいよ。誰に習ったの?」
リリィが背後から「それも村のお婆さんですか?」とたずねてきたので、俺は「これはお爺さん」としらばっくれておいた。……このままでは、俺の故郷が達人ばかりになってまう。
ちなみに斥候技術はフィリオから学んだ。
本人すごいすごいみたいな顔してますが、成長したフィリオはもっとすごい。単騎で一切の音を立てずに、魔性の拠点をつぶしたぐらいだ。
そうやって、奥の奥まで進んでいく。
すると、フィリオが辛そうに眉をひそめた。
瘴気のせいで感覚が鈍っているようだし、感知で体力も精神も想像以上にすり減ったか。
なので、俺たちは小部屋に入る。
ランダムダンジョン生成中に発生した小部屋のようで、中にはなにもなかったが、休憩するには十分だ。リリィに魔除けの結界をはらってもらい、ちょうどいいので全員で休むことにした。
しばらく、そうして部屋で休んでいたのだが。
フィリオがおもむろに立ちあがる。
「体力が回復したよ。……外で警戒している」
「おいおい、まだ休んでいろって」
「休みすぎても感覚が鈍くなるんだ。大丈夫、すぐ近くにいるよ。危なくなったら助けを呼ぶから」
そう言って、フィリオは爽やか、しかしそそくさと小部屋から去っていった。
まだ辛そうだな。ハリきっているのかね。
……これも、しゃーないか。
「俺ちょっと、もよおしてくるー」
「かしこまりました。フィリオ様を支えてあげてくださいね」
リリィは膝で休ませているメルルの頭を撫でながら言った。
弁解しようとしたが、弁解すれば余計そうだと言っているようなものか。
俺は「……少しでも異変を感じたら呼んで」とだけ伝えておいて、やけくそ気味にだらしない冒険者らしく腰をヘコヘコしながら小部屋を出た。
小部屋を出ると、空気が変わった気がした。
瘴気が増したのか?
けど痛みはない、魔王クロノヴァのような害を及ぼす瘴気ではないか。フィリオもごく微量と言ってたし、過敏になりすぎずにいよう。
……しかし、ムラムラする。
ダンジョン攻略中はモンスターとの戦闘もあり、生存本能が刺激されるのか非常にムラムラしやすい。だからといって迂闊なオナシコは危険をまねく。仲間とオセッセー中にモンスターに襲われてパーティー決壊なんてのも稀に聞くな。
普通は我慢。
だが俺は元勇者! 即ヌキすることは造作もない!
仲間や女神の監視があったので、一瞬でヌく技術を覚えるしかなかった。
なにかしらの障害にならないか不安になったものだが、俺は今も無事にオナシコできている。
……フィリオに会う前に、即ヌキするか。
オカズは問題ない。ほら。
『ハルヤ様……♥』
一瞬で、リリィのオ〇声が脳内再生できた。
ふっ……迂闊だったな、リリィ。ハニトラしかけるつもりが安易にオカズを提供して……君は君の魅力をもっと知るべきだ。
リリィのオ〇声で、しばらくは困らんな。
オカズに苦労していた前世の旅を思い出す。勇者をやめられて本当によかった。
少し歩いて、別の小部屋に向かう。
休憩中の場所より小さな部屋だったのでさっきは無視したが、一人オナシコするにはもってこいだろう。
俺は周りをたしかめながら静かに扉をあける。
先客がいた。フィリオだ。
フィリオは壁にもたれるようにして中腰になっている。やはりまだ辛かったのか、頬から玉のような汗をかいて、荒い息を吐いていた。
「はぁ……はぁ……♥」
フィリオは、短剣の柄を股間にそえている。
身体が熱を持っているのか、蒸すような空気が離れているのに伝わってきて、はちきれんばかりの巨乳がやけに艶めいて見えた。
子供のようなあどけなくて愛らしい顔立ちが、今や性にまみれている。
そして彼女は短剣を小刻みにゆらし、やわらかそうな巨乳も一緒にゆさゆさとゆらしながら、限界とばかりに下品な声をもらす。
「おほおおんっ♥ いいのっいいのっ♥ 先っちょいいのう♥ お腹の芯まで響くのううう♥ お固いのグリグリ気持ちいいのぅ♥」
………………………。
…………おほうっ⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉
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