第18話 君の笑顔

 フィリオは頬から玉のような汗を流して、下品な声をもらした。


「おほおおんっ♥ いいのっいいのっ♥ 先っちょいいのう♥ お腹の芯まで響くのううう♥ お固いのグリグリ気持ちいいのぅ♥」


 彼女は短剣の柄を股間にグリグリして、己を高めている。

 いつもの爽やかな笑顔はどこにやら性欲に屈しきった顔。だらしなくも気持ちよさそうな表情だ。我を忘れるように巨乳をゆらし、オナ〇ーに励んでいる。


 童顔なのもあって、本人のいけないことをしている感がやばい。

 高貴なフィリオのドスケベ顔と下品な声に、俺も一緒にシコシコ励みたくなる。


 やっば‼ 目が合ってまう‼


「おほほほ……ん⁉⁉⁉ あっっっん♥♥♥」


 フィリオは俺と視線が合うと、限界まで目をみひらく。


 それがトドメとなったのか、びくびくっと身体をふるわしたあと少し前のめりになり、舌をだして「はぁ……はぁ……♥」と荒い息を吐き、涙目になっていた。


 今すぐ俺も我を忘れてフィリオの痴態で超シコりたい。

 だが場を支配する空気は重苦しく、フィリオは顔が真っ赤だった。


「い、いつから、かな……? ハルヤ君」

「…………おほおおおん、から」

「そう……」


 フィリオは使用済みの短剣をスラリとぬく。

 殺されると思ったが、彼女はリリィとはまた違った反応を示す。


「介錯、お願いしていいかな……?」


 あまりにも潔すぎて、俺は慌てて止める。


「オ〇ニーだって誰ぐらいするって! 俺だってよくシコるぞ⁉」

「ダンジョン攻略中に無我夢中でする人なんている⁉」

「そ、それは……」

「ほらぁ‼‼‼ いないよう‼」

「だ、だがムラムラが溜まりすぎたら、俺も下品な声で下品オ〇ニーするって!」

「げ、下品下品言わないでよぅ⁉」

「下品でも変じゃないって! 俺だって気分を高めるために『リリィのマ〇コいいよ! 超キレイ! 超きもちいいよ!』って口走りながらシコるときあるし!」


 フィリオは顔真っ赤になりながら信じられなさそうに言う。


「な、な、仲間をそんな目で見ているの⁉」

「仲間だからだよ! 気持ちいいぜ⁉」


 人類みんな同じなんだ‼ 同じはず! ……はず!

 だからそこまで思いつめなくていい!


「仲間だからオカズにするんだ! リリィ射〇管理ネタなんて何度使ったか!」

「君たち別に付き合ってないんだよね⁉ 申し訳ないと思わないの⁉」

「手を出さないための妄想オ〇ニーなんだ! それが仲間ってものさ!」


 仲間ってそういうものさ!

 ……仲間かな? わからん‼


 フィリオは仲間という言葉に、夢も希望もなくしたような表情をする。


 いかん! 話の方向性がズレてきた! ならば!


「自害したらメルルに申し訳ないだろ⁉ ご両親を助けるんだろ⁉」


 正論すぎたか、フィリオはがくんと力なくうなだれた。一番効果的な説得だったらしい。初めからこう言えばよかった……。


 彼女は相当落ちこんだようで、口もひらけない状態になっている。


 …………はあ、高貴な出だからなのかな。

 下品なオ〇ニーは許せないのかもしれない。

 王族貴族に関わるのはイヤだが、今ここで戦力ダウンは困るか。


「別にいいじゃないか、フィリオが何者であってもさ」

「…………え?」

「正体を隠していることぐらいわかる。気に病みすぎなんだ」


 高貴な人でもオナ〇ーはする。

 いやオ〇ニーの存在を教えない厳格な家柄もあると聞いたことはあるが。


「気づいていたんだ。……さすがだね」


 彼女は困ったような、申し訳なさそうな笑みを浮かべた。


「全部お見通しってわけじゃないけどな。……それがもし、フィリオの重荷になっているのなら、きちんと明かしてもいいんじゃないか」


 まあ全部知っているが。

 フィリオ・ヴァルシェイド。

 本当の名はフィリオ・ヴァル・エーデルシェイドだ。


 エーデルシェイド家は、南方の国にある魔祓いの一族だ。古代魔具にも精通していて、遠縁ではあるが王家の血縁にもあたり、高貴な血を引いている。こっちでは知る者は少ないが、魔祓いの筋では有名らしい。


 フィリオは幼い頃から当主をつとめる才女とも聞いていた。


「…………ハルヤ君、聞いてもらえるかな」

「もちろん。気が楽になるのなら」

「うん……ボクにはね、普通じゃない血が流れている」


 フィリオは重々しそうに口をひらく。

 知っているよ、エーデルシェイドの当主さまだろう。


「………実は、淫魔の血を引いているんだ」


 …………。


 ?? いんま? インマ?????

 ????????????????


「これが、ボクの本当の姿だよ」


 フィリオを中心にした風が吹く、いつもの爽やかさは感じさせない禍々しい風。

 すると彼女は頭に角、腰に翼、お尻に可愛らしい尻尾を生やした。


「これがボクの……サキュバスの姿だよ」


 いつもの笑みが、弱弱しく見えた。


 ……………………えっ、え? え? え???

 はえーーーーーーーーーーー⁉⁉⁉

 フィリオ、サキュバスだったのか⁉⁉⁉⁉⁉⁉


「ハルヤ君、全然動じてないね」


 動じすぎて、言葉を失っていました。


「……それ、翼とか尻尾はどうなっているんだ?」

「魔力が形になったものだね。身体から離れた位置で生えるから服は破れないよ」


 へえー………。フィリオがサキュバス……。


 あっ! なんか諸々つながったぞ⁉

 勇者にならなかった理由だとか、感知能力や気配殺しもサキュバス由来か⁉ 寝室に忍びこむためのスキルだな⁉


 待て待て待てっ、エーデルシェイド家の当主が淫魔⁉⁉⁉


「フィリオは人間、だよな?」

「祖母がサキュバスなだけで、ボクは人間……ううん、魔の血は引いているか」


 フィリオは自分の翼に目を細めていた。

 その姿が好きではないようだ。


 心を閉ざすかのような笑みに、聞いていいものかためらう。

 だが死にかけても、高貴な血の義務と責任を果たそうとした前世の彼女を思い出す。


 ……俺はもう勇者じゃない。

 それなら無遠慮に聞くことができるはずだ。


「人と魔が交わったのか?」

「先々代が戯れにね」

「先々代? フィリオは高貴な生まれでもあるのか?」


 フィリオが話しやすいように、こっちからも話はふろう。

 本人、言いたそうな顔ではないが。


「……うん、ボクの本名はフィリオ・ヴァル・エーデルシェイド。魔祓い一族の当主だよ」

「エーデル……聞いたことがあるな。……王家の遠縁だとか」

「遠い遠い縁だけどね。ほぼ他人…………自慢できることではないよ」


 フィリオは家柄を好ましく思ってなさそうな口ぶりだ。

 なら、どうしてあれほどまで義務と責任を?


「魔祓いの一族がなんだってサキュバスと……」

「新しい魔術体系を創ろうとしたと聞いている。幸いにも先々代とサキュバスの子供には……母さまには引き継がれなくてね。……ただ」

「フィリオには遺伝したのか……」

「……うん、でもサキュバスの力しか遺伝しなくてね。ご期待の新しい魔術なんて生まれなかった。だから……ボクの処分にずいぶんと難儀したようでね」


 処分。

 文字通りの意味だと察してしまい、俺の顔がこわばる。


 フィリオは怖いぐらいに爽やかに笑う。


「……放逐されたボクと母さまは、地図にもない小さな集落で過ごすことになった。誰にも正体を悟られず、偽名でね」

「二人で別の人生を歩むことになったのか」

「一応、家の者が監視していたよ。……不安がるボクに、母さまは『エーデルシェイドの血が守ってくれる。エーデルシェイドはみんなの笑顔を守る尊い血』だとよくあやしてくれたよ。……母さまは、いつか屋敷に戻れると信じていたみたい」


 フィリオは笑顔を崩さない。

 爽やかに、明るく、絶対に笑顔を崩すものかと執念を感じる笑みだ。


 ひりひりと肌がしびれる。彼女の怒気がもれていた。


「ある日ね……どこで話を聞いたのか、エーデルシェイドに恨みを抱く魔性が集落に襲いかかってきた。でも怖くはなかったよ」

「…………どうして?」

「エーデルシェイドの者がきてくれる。母さまが最期までそう信じていたから」


 フィリオもそう信じたとばかりに、笑顔のままでいる。

 ただほんの一瞬でも、彼女の瞳に深い怒りと悲しみがのぞけた。


「ハルヤ君、。はは」


 乾いた笑いに、一生ぬぐえきれない傷を内に秘めているのだと察する。


 監視の人間はどうしていたのかと考えていた俺に、フィリオが答えを告げる。


「彼らはボクたちを守るよりね、懇意にしている商団の護衛を優先した。金払いもいいし、珍しい魔道具を見つけてくるからね」

「……」

「その商団は面白そうな箱を発掘してきてね。幾重にも封印された箱だよ。……エーデルシェイドの者がそれを迂闊にも開放。箱の中身は……血族を根絶やしにするとびきりの呪術具だったらしい。……ボクは魔の血を引いていたせいか対象外だったみたいだ」

「……誰もいなくなったんだな」

「うん、有力な当主候補まとめて呪い死んだ。だからボクが呼び出された」

「どう……」


 どうしてそれで当主の座についたのか聞こうとして、やめた。


 深い怒りと悲しみが、彼女の笑顔から漏れでている。

 都合のいい英雄はいないと、フィリオは俺よりも知っているんだ。


 彼女は前世で都合のいい英雄であろうとし、力ある者の責務を果たそうとした。恨みを一番ぶちまけたい相手もこの世にはもういないのに。


 癒されない傷を抱え、負けてなるものか、ふざけるなと、世界へ抗ったんだな。

 だから誰よりもみんなの笑顔にこだわったんだな。

 命をかけてでも義務と責任を果たそうとしたんだな。


 そうして……みんなも、自分をも救おうとしたのか?

 光であろうとしたから、前世では俺に正体を明かさなかったのか?


 都合のいい英雄だった勇者おれにどういう感情を抱いていたか……もう聞くことはできない。

 すべて死に戻ったから。


「聞かないでくれて、ありがとう。ハルヤ君」


 理由を聞かれたら光を保てない。

 フィリオはそう言わんばかりに爽やかに笑う。


「俺にとってのフィリオは……明るくて爽やかな、ドスケベな子だよ」

「……さっきの醜態は忘れてくれると嬉しいな。ムラムラしすぎたんだ」

「いんや、大事な仲間だから、しっかり使うさ」

「今その、だらしない態度……ちょっと救われるかな」


 フィリオはここで初めて笑顔を崩しそうになっていた。

 泣いたら盛大に笑かしてやろうと思っていると、声が聞こえる。


「ハルヤ様ーフィリオ様ー、来てくださいませー」


 リリィの声に、フィリオはサキュバス姿を解除した。笑顔も普段通りになったので、俺はなにも言わずに仲間と合流する。ダンジョン最奥に向けて攻略の再開だ。


 このとき、俺には予期することができなかった。

 ダンジョン最奥で、まさか、自分が勃起おち〇ぽマンになることを――

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