第23話 魚を取るには釣り竿

 少し早い昼食に焼き魚を食べると3人は再びストンリッツへ向けて歩きはじめた。ノルとチラは森を突っ切るルートで良いと言ったが、サミューは普通の道を歩くと言って譲らなかった。


 歩いていると時々馬車や旅人と出会う。お互い知らない者同士だが、同じ旅人という立場のためかノルは親近感を感じて挨拶をしていた。そのため何人かの旅人とは食料の交換をすることができ、腐らせてしまう前にファディックでもらった生のオレンジを交換に出すと、思いのほか喜ばれたのだった。


 それからしばらく歩いていると小さな湖沿いの道に出た。湖に浮いていたカモが慌てたように飛び立って行く。ちょうど陽が傾いてきたため、今日はここで野営することにした。


 サミューとチラは焚き火に使う小枝を拾いに行く。ノルはランタンを取り出し、火をつけた蝋燭を入れると近くの岩場に置いた。


 空が暗くなってきた中、木々に囲まれ黒く見える湖は吸い込まれそうに感じて少し怖い。するとサミューが来て釣りをはじめた。


「昼に魚を食ったせいか、また食いたくなってしまった。お前たちも魚でいいか?」


「ええ、大物を期待してるわ!」

「チラも、チラも!」


「それでは焚き火を作っておいてくれ」


 ノルは小枝を組んでマッチで火をつける。その後サミューはあっという間に魚を釣り上げた。


「(やっぱり魚を取るには釣竿よね?)」


 ノルがそう考えているとサミューは魚を捌きながら言った。


「お前が買ったオレンジのソースを使いたいのだが少しもらえるか? 確か柑橘には魚の臭みを取る効果があったはずだ」


 その申し出にノルは喜んでソースの入ったビンを差し出した。サミューは魚の切り身にオレンジのソースをかけながら指示を出す。


「俺が魚にソースを塗っている間に、そこのパンを切ってフライパンで焼き目を付けてくれ」


 サミューが指さした方には硬いパンがあった。ノルはパンを1人前の厚さに3枚切り、フライパンに乗せてじっくりと焼けるのを待って裏返す。ちょうどパンが両面焼けるとチラが皿を持ってきた。


「えへへ、チラえらい?」


「えらい、えらい」


 ノルが頷きながら褒めるとチラは満足気に笑った。パンを皿に取っているとサミューが来て覗き込む。


「上手くできているじゃないか」


 サミューに褒められ、ノルは「(お兄ちゃんがいたらこんな感じなのかしら)」と嬉しくなった。ノルがそんな事を考えている間に、サミューは空いたフライパンで魚を焼き始めた。


 ジュワジュワと音をたてて焼け、香ばしい匂いを漂わせている。魚が焼き上がったときには初めより一回り小さくなっていた。


「パンに乗せてしまっていいか?」


 ノルとチラが頷きながら皿を差し出すと、サミューは湯気の上がる焼き魚をパンの上に乗せた。いい匂いに待ちきれなくなったノルは早速かぶり付く。


「おいしー!」


 ノルとチラの声が合わさった。スカベル村を出て思ったのだが、なぜ外で食べる食事はこんなにも美味しいのだろうか? そんな事を考えている間に夕食を食べ終わっていた。食器を片付けながらサミューが尋ねる。


「今夜も交代で見張りをしようと思う。昨日と同じ順番でいいか?」


「うん。今日は美味しい料理をありがとう、おやすみなさい」



 ♢♦︎♢



 それから見張りを交代する時間になるとサミューが起こしに来た。ノルは昨日と同じようにサミューから時計を受け取ると、その物音でチラが目を覚ましたようだ。眠たそうに目を擦るチラにノルは尋ねる。


「私はこれから見張りをするんだけど、チラちゃんはどうする?」


「うん……ボクもやるよ。チラは立派なお兄ちゃんだもん」


「それでは頼んだぞ」


 サミューにテントから送り出されると2人は目の前に広がっていた絶景に目を見張った。


 ──夜空を満天の星が埋め尽くしていたのだ。


 寝る前は空に薄雲がかかっていたが今は風が少し吹いているためか、綺麗な星空が見える。2人は髪を軽くそよがせながら空を見上げた。


 まるで透明の光るガラスを細かく砕いた、小さな小さな粒をばら撒いたかのようにまたたいて見える。外の暗さに慣れたためか星空の様子がさらによく見えてきた。


 濃紺の夜空の中に細かい星々があるのだが、密集している箇所や少し大きな光を放つ星の周辺は夜空の色が青や紫色に少し明るく見える。その星空の中には斜めに入った太い光の帯もうっすらと見えた。


 美しい星空にノルが見とれていると、チラがノルの服を引っ張った。チラが指さす方を見ると湖に満天の星々が映り込んでいる。 


 気がつくと風が止んでいた。先ほどまでは風でさざ波がたっていたため気付かなかった奇跡の光景だ。夜空を埋め尽くすような星々と鏡のような水面に映る満天の星々が見せる絶景にノルとチラは言葉を失った。


 だがすぐに再び風が吹き湖面の星々は、さざ波と共に水に溶けるように消えていった。それからノルは焚き火のそばに座るとかんざしを横笛に変えおもむろに演奏し始めた。美しい景色を見てなぜか演奏したくなったのだ。ノルの横笛の音は静かにゆったりと星空へ溶け込むように響き渡る。


 演奏が終わり一息つくと見張りを交代する時間になっていた。ノルとチラはテントの中で眠るサミューを起こす。


「ああもうそんな時間か。今夜はよく眠れた気がする」


 伸びをしているサミューを見ると薄暗いテントの中で定かではないが、確かにいつもより血色がいい気がする。そんなサミューの様子に安心してノルとチラは眠りについたのだった。

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