第24話 寒い日の楽しみ
「雪が降って来たぞー!」
翌朝ノルとチラはサミューの声で目覚めた。2人がテントから顔を出すとハラハラと雪が降っている。
「お前達も、防寒着に着替えてしまえ」
ノルとチラはまだ少し眠い目をしばしばさせながらテントに戻り着替えた再び外へ出るとサミューがテントを入れるための袋を出している。
「テントを少しでも乾いているうちに撤収したい。朝飯は少し後になるがそれでもいいか?」
「うん、私も手伝うわ」
「チラも、チラも!」
3人で急いでテントを撤収してから朝食の準備を始めた 皿を出していたチラの鼻の頭に雪がくっ付く。
「へぷちっ!」
思わずくしゃみをして体をぷるっと震わせるチラに、サミューは用意していた飲み物を差し出した。
「昨日会った旅行者と交換したココアと言う飲み物だ。体が温まるはずだぞ」
「ありがとう」
チラは湯気の上がるコップをあおる。
「熱っーい!」
舌を出して顔をキュッとさせた。
「チラちゃん、熱い飲み物はフーフーしなくっちゃ」
ノルがそう言うと、涙目になりながらも笑顔でチラは返した。
「熱かったけと、体が温まるよ」
チラにそう聞いたノルは熱い視線をサミューへ向ける。
「私も欲しいなー」
「ほら、熱いからお前も気をつけて飲めよ」
ノルはココアを受け取ると念入りに冷ましてから飲んだ。
「ほろ苦いけどまろやかで、不思議な香りがして美味しいわ!」
「それはよかった、この前のマシュマロを入れてみた」
「そうだ! これにあれを足したら……」
ノルは荷物からゴソゴソと包みを取り出した。
その中から角砂糖を2つ摘むとココアの中に入れた。
「えへへ〜甘くて美味しい」
その様子を見たチラはすかさずおねだりする。
「チラも、チラも!」
「はいどうぞ、サミューさんも入れる?」
ノルはチラのココアにも角砂糖を2つ入れながらサミューに尋ねた。
「俺は結構だ、甘いものはあまり──」
「おかわり!」
サミューが話終わらないうちに、ノルとチラはおかわりを催促した。
「……朝食の後にまた作るからそれまで待っていろ」
それから朝食を食べているとサミューが口を開いた。
「想定外に雪の降り始めが早かったようだ。雪の中での野宿の回数は極力減らしたい、少しペースを上げて歩いても大丈夫か?」
ノルはパンを飲み込み答える。
「私は問題無いよ」
「チラも頑張る!」
食後に再びココアを少し飲むと3人はストンリッツへ向けて歩き始めた。しばらく歩くと眼前に雪化粧をした山が連なっている様子が見えてきた。
「もしかしてあれがルカミ山脈?」
ノルが尋ねるとサミューは頷いた。
「ああそうだ、ストンリッツまではだいたい半分弱進んだくらいだな」
「分かってはいても遠いわね……」
そんな話をしている横を馬車が通り過ぎて行く。
「馬車で行けたら楽なのに。なんでここは乗り合い馬車が無いのかしら……」
ノルがぼやくとサミューは苦笑する。
「どうやら領主の意向で採算の取れない路線は廃止しているそうだ。……偉い人間の考える事は理解し難いものだな」
そう言うとサミューは深いため息をつく。チラはそんなサミューの手を取り繋ぐと心配そうに見上げた。
「大丈夫サミュー? 頭がこんがらがっちゃったの?」
その真っ直ぐな視線に、サミューはチラの手をキュッと握ると再び前を向いて歩き始めた。
♢♦︎♢
雪は降り続き、歩みを進める毎に雪は深くなっていく。この辺りは雪が積もってからまだ歩いた人がいないのか足跡が無い。ノルとチラはまっさらな雪面にペタペタと足跡を付ける。キャッキャとはしゃぎながら夢中で辺り一面を踏み締めていると、甲高い音が聞こえた。
その音に2人がキョロキョロしているとサミューが制止する。小声のサミューが示す方向を見ると、森の外れからじっとこちらを見つめる鹿がいた。体格が良く、立派な角を持つ牡鹿だ。
「この時期は近付くと危険な事が多い、刺激しないようにだが目を離さずそっと離れるぞ」
3人は静かに極力急いでその場を離れる。特に鹿が追ってくる様子も無く、見えない場所まで来ると緊張感から解放されたのか力が抜けた。
それから3人は黙々と歩いていたが、しばらくするとノルのお腹が大きな音をたてて鳴った。テヘッと少し照れくさそうに笑ったノルにサミューは苦笑しながら言う。
「少し早いが昼飯にするか?」
「ええ、そうしましょう」
「はーい!」
ノルとチラが頷くと3人で昼食の準備を始めた。やかんを手にしたノルの横を馬車が通り過ぎて行く。そう思ったが、その馬車はノルたちから少し離れた場所で止まった。ノルが見ていると馬車から誰か降りて来る。そしてこちらを見つめ、ノルと目が合うと嬉しそうに手を振った。
「ああ、やっぱり君たちだった! 馬車の上から知った顔を見た気がしたんだよ」
そう言って3人に笑いかけた人は、ファディック村でオレンジ農家をしているおじさんだった。
「お久しぶりです、おじさん腰の調子はどう?」
ノルの質問におじさんは腰に手を当てながら答えた。
「あれからみるみる良くなってね、今ではこの通りさ! 妻の調子も良くなったから畑は妻に任せて、ストンリッツへオレンジを卸に行く途中だったんだよ」
「えっ、ストンリッツへ行くの? ……できたらで良いんだけど、馬車の空いている場所に乗せてもらえないかしら?」
ノルの言葉におじさんは頷く。
「やっぱりストンリッツへの道中だったんだね、良いよ乗っていきな。君たちには随分助けてもらったしね」
「ありがとう!」とおじさんに抱きつこうとするノルをサミューが抑える。
「かたじけない。ストンリッツまでよろしく頼みます」
「いいってことさ。これで君たちに受けた恩を返すことができるから嬉しいくらいだよ」
おじさんは微笑む。
「これからお昼ごはんを食べる予定だったのだけど、おじさんもいかが?」
ノルの誘いにおじさんは頷いた。
「おっ、それでは御相伴に預からせてもらおうかな。その前に僕は馬に昼飯をあげてくるよ」
「チラも行くー!」
チラは元気に手を挙げた。
「それじゃあ頼むよ、さあ行こうか」
おじさんはチラの手を引いて馬車の方へ歩いて行く。そんな2人を見送るとサミューは言った。
「それでは俺たちは昼飯の準備を再開するか」
「うん。ところでさっき『かたじけない』って言ってたけど、どんな意味なの?」
首を傾げるノルにサミューも考えながら答える。
「簡単に言えば『ありがとう』という意味だ。師匠が使っていたから俺も自然と言うようになっていたな」
それからノルとサミューが昼食の準備を終える頃にチラとおじさんも帰って来た。
「お馬さんがよろしくねってボクの顔をたくさん舐めてくれたの!」
チラは顔を拭きながら嬉しそうだ。それから4人は昼食を食べ始めた。
「ネロリ……うちの馬が初めて会った人にあそこまで気を許すなんて珍しい。チラくんは本当にすごい子だね」
そう言って目を細めるおじさんにノルは自慢げに言った。
「うん、チラちゃんは自慢の弟なのよ」
それを聞いてすかさずチラが言い返す。
「違うもん、チラはお兄ちゃんなの!」
ノルはふふっと笑って訂正した。
「そうね、立派なお兄ちゃんだったわね」
「うん!」
サミューとおじさんはそんな2人のやり取りを温かく見守っていた。
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