閑話 騒ぎの後で(三人称視点)

 == side 結衣 ==


 涼くんがいなくなった。


 あの後お城の中は大騒ぎになり、私たちの授業も中止になってしまった。

 フィリアさんに各自部屋に戻るように言われ、部屋に戻った。部屋に戻るとすぐ、話があるとサーシャさんがやってきた。


 「ユイ様」

 「はい...」

 「単刀直入にお聞きしますね。リョ...邪賢者ラークとはどういう関係でしょうか?」


 わざとらしく涼くんを邪賢者と言い直したことに不快感を憶えたが、顔には出さず答えていく。


 「涼くんとは幼馴染です」

 「なるほど。では、彼が邪賢者であると知っていましたか?」

 「彼は邪賢者なんかじゃありません!」


 ついカッとなって言い返してしまった。


 「質問に答えてください。知っていましたか?」

 「...知りませんでした」

 「ふむ...」


 サーシャさんは何か考えているようだったが、気になることがあるので聞いてみる。


 「あ、あの!涼くんはなぜ邪賢者なんかと呼ばれてるんですか?」

 「簡単な話です。彼は1人で5年前の戦争で我々の持っていた魔法師師団の8割を再起不能に追い込み、今でも残る爪痕を残しました。」


 5年前?どういうことなの?


 「彼は5年前にこの世界に来ていたのですか?」

 「わかっているのは我々の前に姿を現したのが5年前になるというだけで、彼が何年前にクレシダに来て活動を始めたのかはどの国の誰も知りません」


 涼くんが以前にもこの世界に来ていたことに驚いた。彼が過去に来ているならばどこかの資料に名前ぐらいは載っているだろう。

 そんなことを考えているとサーシャから質問された。


 「それよりも彼は逃亡の前にあなたに話をすると言っていましたね?」

 「はい。今は余裕がないから後で話すと言われました」

 「あなたのために一つアドバイスをしておきましょう。彼の話を聞いても真に受けてはいけません。悪人はどこまで行っても悪人なのです。失望する前に覚悟を決めておくことですね」


 サーシャさんはそう言うと部屋から出ていった。


 彼女はそう言ったが、自分は涼くんが邪賢者などと呼ばれて狙われているのは何かの間違いではないかと思ってしまう。


 (涼くんにちゃんと話を聞かないと)


~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~


 == side サーシャ ==


 ユイ様に話を聞いた後、私はその足で父上のいる執務室に向かった。


 「父上」

 「ん?サーシャか。どうした?」

 「はい。邪賢者ラークとそれを匿うフェーベ帝国を討つためにあの計画を全軍に実行したいのです」

 「あの計画か...例の実験は?」

 「順調と言えるものです。一部適合できずに物理的に爆散した者と精神が死んで廃人になった者がいますが、8割以上は成功しています。」

 「9割を超えるまではリスクが大きすぎるな。だが、実践のデータも必要だろう。実験部隊を第3魔法師師団に与え、フェーベ帝国に侵攻する準備をさせよ」

 「かしこまりました」

 「あぁ、それと。

 勇者たちには絶対に計画を漏らすでないぞ。じきに投与することにはなると思うがな」

 「承知しております」


 一礼して部屋を出る。

 クラス強化薬の力で軍の力を驚異的なレベルで強化することができる。いくら旧魔法師団を壊滅させた邪賢者であろうがクラス1の魔法師が大量に生まれる我々には勝てないだろう。


 それと、奴の反応を見るに勇者たちは囮に使えないかもしれないが、剣聖の女だけは使えるだろう。洗脳も視野に入れて利用する他ない。


 彼女は王女とは思えない邪悪な笑みを浮かべながら自室へと歩いて行った。



―――――――――――――――



 第2章は6/27からです。

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