第2章

第8話 フェーベ帝国

 ラスベラ王国から脱出に成功した俺は、ひとまず転移先の自室で休憩することにした。


 「バレないようにとか考えながら威力調整できてないとかありえないよなあ」


 バレてしまうのはスキル鑑定の時点で覚悟していた。

 だが、予想以上にバレるのが早すぎる。


 「とりあえず脱出できたし陛下に挨拶でもしに行こうかな」


 そう考えて【闇保管庫アイテムボックス】からローブと仮面を取り出した。


 皇帝の住む帝都へはここから馬車で行こうとすると3日は余裕でかかるのだが、俺の城から固定式転移魔道具によって一瞬で転移できる。


 「久しぶりに使うなあこれ」


 呟きながら魔道具の上に立つ。この魔道具はとてつもない量の魔力と転移結晶が必要であるのだが、俺は魔力が無限にあるので大した問題ではない。


 《転移魔道具起動完了。5秒後に転移を開始します。5 4 3 ...》


 どこからともなく抑揚のない音声が聞こえてくる。声の正体はこの城を管理するために導入したAIであるアイシャのものだ。


 アイシャによるカウントダウンのあと、魔道具に蓄えられた魔力が一気に魔法陣に送り込まれる。

 起動した魔法陣が光だし、転移された。


~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~


 ここフェーベ帝国は、5年前に建国された比較的新しい国である。

 俺は建国後のラスベラ王国との戦争の際に敵の魔術師師団を1人で壊滅させた功績によって、公爵位とこの国の軍務卿の座を貰っていた。


 (ここも久しぶりだ)


 帝都の宮殿にある俺の仕事部屋に転移した俺は、そのまま皇帝の執務室に向かった。


 執務室に着くと、扉の前に立つ皇室直属の騎士に謁見の旨を伝える。騎士がノックすると、扉が自動で開かれ、中に入った。


 「ラークか?」

 「ご無沙汰しております。皇帝陛下」

 「敬語はやめて。私との関係でしょ?」

 「わかったよ、エルザ」


 フェーベ帝国の皇帝エルザは元々、俺の親友だった。俺が軍務卿になったのも彼女の強い意向があったからである。


 「それで何の用?リョウがここに来る時はそれなりに急な用がある時だと思っていたんだけど」

 「用は何個かあるが、簡潔に言うとラスベラが勇者召喚をやった」

 「それは本当か!?」

 「ああ。現に俺が呼ばれたしな」

 「え?てことは本当にクレシダに来ちゃったの?」

 「そうなるね。突然だったから頼まれてたお土産持って来てないけど」

 「お土産ないのか...」


 こいつお土産がないって言った瞬間しゅんとしやがった。


 「ハッ!お土産じゃなくて、ラスベラがやったってことはあなた狙われたんじゃない?向こうの国では邪賢者とか言われてるらしいし」

 「そうだね。召喚した王女とやらも俺の討伐を依頼して来たし」

 「それ大丈夫そうなの?異世界人ってみんな軒並み強い固有スキル持ってたって言われてるじゃん」

 「まあ今は何とかなるだろうけど数年とか経てばわからないかもね。クラス2が2人いるし」

 「うわぁ。それは早急に対策打たないとね。とりあえず王国の情報収集をやらせないと」


 フェーベ帝国の諜報部隊はこの世界でもトップクラスの諜報能力を持つ。どうでもいい国相手ならば彼らに任せればいいのだが、情報を集める際に取る方法がえげつないのでここは俺がやりたい。結衣を殺されたら困るし。


 「それは俺がやる」

 「構わんが、どうしてだい?リョウは基本的に何でもできるけど、諜報能力では流石にあいつらには敵わないでしょ?」

 「殺されたくない人がいるんだ。あいつら任務のためなら見境ないだろ?」

 「たしかに。それならリョウがやってもいいよ」

 「ありがとう」


 一礼して執務室を出ようとすると、後ろから声をかけられた。


 「あぁ、それと。西のエリス王国と戦争になるかもしれないから気をつけといてね」

 「わかった」


 そのまま部屋を出る。

 戦争の前に王国の情報収集だ。本命は情報収集ではなく結衣の救出だが、問題はないだろう。



―――――――――――――――



 最後までお読みいただきありがとうございます。


 第2章が始まりました。

 事情によりしばらく毎日更新はストップし、2.3日に一度の更新になります。


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