第9話 情報収集

 俺は皇帝の執務室を出た後、そのまま自分の居城に戻った。


 「アイシャ」

 《はい。ラーク様》

 「諜報部隊にラスベラ王国の情報収集を行うよう伝えてくれ」

 《かしこまりました》


 結衣の救出を行うにしろ王国の情報収集は必須なので、とりあえず俺の直属部隊を王国内に放つことにした。

 俺の直属部隊とは、ラーク直属軍と呼ばれるフェーベ帝国軍の一師団で、全員が選りすぐりのエリートで構成されている。一般の師団だと2万人ほどいる中で、この師団は5000人と少数だが実力では全軍でもトップクラスの実力らしい。


 (俺はもったいないからいらないと言ったんだけどなあ。エルザに半ば強制的に作らされたけど、今のところ諜報しかやらせてないよな)


 そんなことを考えながら、諜報部隊の報告を待つことにした。

 

~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~


 それから1ヶ月ほどが経過したところで諜報部隊からの報告が入った。


 報告書を読んでいくと、どうやら結衣たちに危害を加えた様子はないようで安心した。だが、国民には勇者が召喚されたことを隠しているようであるため、今後何が起こるかはわからない。

 それと一部の魔法系スキルを持っていたクラスメイトは第1魔法師師団に配属されたらしい。王国の第1魔法師師団は大陸でもかなりの強兵として知られているので、もし戦うことになったら他の敵と共に知らぬ間に殺してしまうかもしれない。


 「とりあえず報告だな」


 一応エルザから情報収集の任を貰っているので報告は必須だ。通信魔導具ファックスを使って報告書を送りつけておこう。


~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~


 報告を受けた翌日。


 俺は早速ラスベラ王国に再侵入することにした。


 結衣を助け出すためには侵入する城の構造や隠し扉などを調べておく必要がある。ついでに転移結晶の地点登録も済ませておこう。


 俺は魔導馬車に乗り込んだ。

 ぶっちゃけ空を飛んだ方が早いのだが、この国は魔力を使って空を飛ぶ飛行機のような魔導機が実用化されているので自由に空を飛べないのだ。


 ちなみにこの魔導馬車も馬車という名前をしときながら馬がついておらず、搭乗者の魔力を使用して動いている。長時間使用するとバカにならない量の魔力が消えるのだが、魔術師ならば誰でも国を余裕で横断できるレベルの魔力は持っているので問題ではない。


 そうこうしているうちに国境から20kmほどの町である『インス』に到着した。


 この街は王国を監視する帝国軍とその関係者しか住んでいない。単純に国境から近すぎる上、帝都の方に抜けるには険しい山脈を超える必要があり戦時になると一番に狙われるためだ。

 軍人しかいないが、補給に来た人のために宿舎が存在する。今日はそこで泊まろう。


 「これはこれはラーク様。本日は何用で」

 「ただ泊まりに来ただけだ」

 「かしこまりました。では来客用の部屋をご用意させていただきます」

 「普通の部屋はないのか?」


 来客用の無駄に豪華な部屋に案内されそうになったので断る。ある意味旅行なのに変に豪華な部屋だと落ち着かない。


 「ではお言葉に甘えて…と行きたいのですが、本日だけはご勘弁いただけますでしょうか」

 「なぜだ?」

 「師団長がいらっしゃるんです」


 俺はそれで察した。

 ここインスにいる第8魔術師団の師団長、ロイドは身分や位を重視する人であると有名であった。その考え方が原因でこんな危険地帯に実質左遷されたのだが。

 そんな人に俺が普通の部屋で寝ているのが見つかれば、案内したこの人に罰が与えられてしまうだろう。


 「ロイドがいるなら仕方ないか。じゃあその部屋に案内してくれ」

 「かしこまりました。ではこちらへ」


 案内された部屋に入ると俺は、毎度恒例のベッド飛び込みを行う。

 そして膝を抱えて悶絶した。


 「なんでこのベッドこんなに固いんだよ!」


~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~


 翌朝


 硬いベッドのせいで全身バキバキになりそうだがなんとか起き上がる。


 (【治癒ヒール】)


 痛すぎるので治癒魔法を使った。


 来客用なのになぜ硬いんだろうと思ったが、そういえばエルザが硬い方が好きとか言ってたことを思い出した。

 おそらくこの部屋を使うのは視察に来たエルザが大半なので、ここのベッドも硬くしたのだろう。


 それはそうと今日は早く出てラスベラ王国に入りたい。

 ベッドに文句をつけながら前日のうちに越境のための作戦を練ったので、問題なく越えられるはずだ。


 とりあえず朝食を食べようと思い部屋を出た。



~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~


 == side ???==


 「ラスベラ王国が勇者召喚をしたというのは本当か?莉奈」


 光がほとんど差さないような暗い部屋。そこには一つの椅子と2人の人がいるだけだった。2人のうち莉奈と呼ばれた方は膝をつき頭を下げているため、2人の間には主従関係があることが伺える。


 「はい。現に私が召喚されました。王国の目的は大賢者ラークの討伐らしいのですが、他にも目的があるかと」

 「やっと莉奈がこっちに来たか。勇者のクラスは?」

 「召喚された勇者はクラス2.1です。固有スキルは勇者なのですが、スキルの情報がいまいちわかりません。それと他にクラス2.3の剣聖とクラス3が数人います。」

 「わかった。最大限警戒するとしよう。他にはあるか?」

 「はい。彼らは現在、クラス2の者を除いてそれぞれ軍の部隊に配属されました。私も配属されておりますが、正直言って軍が弱すぎて話になりません。」

 「君はクラス1.8だろう。この世界で莉奈に勝てるのはクラス1.5の私だけだ。それよりも奴らは勇者たちを兵器として使用するつもりなのか?」

 「その可能性が高いと見ていいでしょう。どうされますか?殿下」

 「しばらくは様子見だ。今行動を起こしても軍の規模や勇者の実力がわからない以上失敗する可能性が高い」

 「かしこまりました。では工作員にもそのように伝えておきます。」


 そう言うと莉奈と呼ばれた女は一礼して部屋を出た。

 部屋を出たあと、彼女は涼介が使用したものと似た転移魔導具を取り出して魔力をこめてラスベラ王国の自室に戻る。

 部屋を出るとクラスメイトの真央がいた。


 「あ、莉奈。どこ行ってたの?」

 「ちょっと散歩に行ってただけだよ」

 「あれま。散歩に誘おうと思ったけど行っちゃったか」

 「一緒に行く?」

 「いいの?さっき行ったばっかなんでしょ?」

 「いいよ。明日は忙しそうだし」


 そう言って2人は散歩に出かけて行った。


 

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