不遇

 パラレルアイランドがネットで話題になるのも、このめちゃくちゃな価格設定だけで納得してしまった。


「それさ、表記ミスだろ。で、お前らネット民が揚げ足取って叩いてんだろ?」

 ゲームに興味のない啓祐でも、その価格はさすがに誤りであるとわかる。しかし中村はそうではないと返す。


「いや、ガチらしい。俺のPCでも40万円だったのに、ゲームアプリだけで100万円とかやばいよな。

 しかもオンライン専用ゲームなんだぜ? 一部の大富豪は買えるかもしれないけど、絶対初日から過疎って即サ終だな」

「っていうか、お前のPC、40万円もしたのかよ。ベースより高いだろ」


「そんなことはいいんだよ。

 もう発売日が近いっていうのに、オンライン専用ってこと以外、公式からは何もアナウンスされてない。未だにコンセプトアート一枚しか公開されてないんだぜ。

 絶対出す気ねぇってネットで炎上してる」


「それさ……」

 さすがにその状態で100万円のゲームが売れるとは思えない。啓祐はここでもう一つの現実的な答えを出す。

 それは販売元の、話題性だけを重視した炎上上等のハイリスクなプロモーション活動。真の目的は他にあるのではないかと勘繰る。


 が、啓祐が発言する前にここで電車が目的地へ着いた。

「まぁ、いいや。じゃあまた明日っ」

 と、啓祐は重たい荷物を持ち、電車を降りる。



 バンドの練習において最も不遇なのがギタリストであると啓祐は考えている。一般的にギタリストは、ギター本体とエフェクターなどの追加機材が必要になることが多い(アンプに直接繋ぐだけの者もいるが)。このエフェクターを入れるボードが大きく、重たいのだ。

 しかしベーシストは、ギタリストほどエフェクターを必要としないケースが多く、荷物も少ない。また、ボーカルは身一つでなんとかなるし、ドラマーも最悪スティックだけ持ってこればなんとかなる。


 しかもギターは弦が切れたり、ピックが擦り減ったりと、消耗品も多くメンテンナンスが面倒。


 それでも実際にアンプから出る音色は、他のどの楽器よりも多彩な表現を可能とし、脳内麻薬を分泌して人を狂わせる。



 そんなことを考えながら歩いていると、啓祐は家に着く頃には既にパラレルアイランドのことは忘れていた。

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