パラレルアイランド
ギターは
「バンドを人間に例えると、ドラムは心臓。ベースは骨だ。それからボーカルは手足だな」
大型アンプやドラムセットが配置された、バンドの練習スタジオ。
一人の青年がギターを膝に置きながら、椅子に座って音楽について語っていた。
彼の名前は
そんな啓祐と話をしているのは、ベース担当の
「じゃあさ、ギターは?」
「ギターは髪型だな。いや……服装かな」
「服装って。ベースとドラムの例えはわかるんだけど、ギターだけしょぼくなってないか? 人間に例えるなら、せめて顔とかだろ?」
「顔はなんかちょっと違うんだよな。顔っていうほど大事じゃあないというか。
結局さ、ギターなんてカッコつけるための道具なんだ。
でも、ロックならそれが最も大切。だから髪型と服装なんだよ」
「いやー、まぁ、言いたいことはわからないでもないけどさ」
啓祐は幼い頃から、ハードロック好きな父親の影響を受けて育った。カーステレオは絶対に洋楽ロックしか流れず、幼い頃、啓祐が最初に歌えるようになったのは童謡ではなく、
そんな啓祐が実際にギターを始めたのは中学生の頃と、案外遅い。
中村に「女子にモテたいから文化祭でバンドをやろうぜ」と誘われたことがきっかけだった。
反抗期であった啓祐は、父親と同じ趣味のギターに、自分までもが手を出すことに気恥ずかしさがあった。
しかし、初心者にとっての壁である機材の調達は全て父親から譲り受けることで解決し、幼い頃からロックに触れていたおかげもあり、彼のギターテクニックはめきめきと頭角を現していった。
以来、中村とはずっと活動を続けており、バンドは次第にヘヴィさを増していった。
――今日もバンドの練習が終わったのは夜の10時を過ぎていた。
中村と同じ電車に乗った啓祐は、ギターのケースを抱え、足元にエフェクターボードを置く。
啓祐は今手掛けているオリジナル曲のことを考え、ボーッと電車内の広告を見つめた。
こんなリフを弾きたいと考えても、いざ曲にしようとすると何かに似てしまうし、面白みに欠けて単調になりがち。笑えるほどダサいメロディになることも屡々。まだまだ自分には決定的な何かが欠けているのだと、常々悩んでいた。
「なぁ啓祐、知ってるか?」
不意に中村は啓祐へ訊ねる。
「何?」
「今ネットでバズッてる……いや、炎上してるゲームがあってさ」
「あー……ゲームね」
中村は誰もが認めるコアゲーマーで、自宅には高性能PCや高解像度のモニター、ゲーム専用のテーブルや椅子まで完備されている。キーボードやマウスがキラキラと虹色に光っているのを、啓祐は見たことがある。
ベースが無ければ、彼は一日の大半をゲームをして過ごしていただろうと言い切れる。
一方で啓祐は、ゲームなど幼い頃に少し触ったぐらいで、とっくに彼の娯楽は音楽のみとなっている。昨今のゲーム事情に関しても中村から聞く話の範囲しかわからない。
啓祐が話に食いついたと勘違いした中村は、ここぞとばかりに饒舌に続ける。
「パラレルアイランドっていう新規IPなんだけど、オンライン専用ゲームでさ、今めちゃくちゃ話題になってるんだよな。悪い意味で」
「悪い意味?」
中村はいつも新しいゲームが出ると興奮してその内容を語るが、ネガティブな情報で興奮しているのは珍しい。彼はゲーム系の炎上は嫌うタイプのはず。
「
steeeelとは、PCゲームを販売するオンラインプラットフォームのことだ。PCゲーマーでsteeeelアカウントを持っていない者はいないとされるほど。
一方でコンシューマー機でも、各プラットフォームでダウンロード販売は始まっているとはいえ、日本ではまだまだディスクを購入する文化は根強い。
「へぇ、いくらするんだよ。そのゲーム」
最近のゲームの販売価格は、ゲームの開発費の高騰などから、通常の
「通常版で100万円。プレミア版ってのが300万だ」
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