第47話 アクダマス侯爵たちの後始末
大好評だった肉祭りも終え、私たちは再びアクダマス侯爵邸に戻ってきた。
と言っても、この場所に領主だった人たちは居ない。
関係者は全てテーバイ王都に連行されて行った。
驚きなのが、この侯爵邸で働いていた人たちの半数以上が、悪い事をしていると分かっていて手伝っていたこと。
中には、お金のために仕方なく手伝っていた人たちもいるが、全て法の元で審議され裁かれると、お父様が教えてくれた。
そして……今の私は、どす黒く濁った大きな水槽の前に立っていた。
その大きさは高さ三メートル以上、横の長さは五メートルはある大きな水槽。
「これが、妖精の湖を汚した元凶の水だ」
そう言いながら皇帝陛下は水槽を指差す。
どうやら呪具作りによって出来た水が、まだ残っていたようで、処理に困っていたらしい。
それは……どす黒くって変な匂いがする水。湖の時は分からなかったけれど、原液? だからなのか物凄く臭い。おもちなんて『臭くてむうりっち』と言ってこの部屋に近寄りもしなかった。
触れるのも嫌なくらい臭い………
そんな訳で、肉祭りのあと、皇帝陛下に頭を下げられること再び!
「すまないレティシア嬢。一緒にアクダマス侯爵邸に来てくれないか」
「頭を上げてください皇帝陛下! せっかく綺麗になった湖がまた汚れてしまったら意味ないので、もちろん行きます」
そうして、アクダマス侯爵邸に来たと言うわけ。
まぁ、王都に帰るにも時間が遅いので、今日はアクダマス領で一夜を過ごすことになるんだから、ついでと言ったらまぁ別に良いんだけども。
さて、浄化しますか。
「《浄化》」
浄化魔法を放つと濁っていた汚水がキラキラと輝き透明な綺麗な水へと変化した。
魔眼で確認しても清浄な水と書かれている。
「これで大丈夫だと思います」
皇帝陛下に向かって微笑む。
「ありがとうレティシア嬢。褒美は城に戻ってから沢山渡すからね」
え? たくさんは要らないんだけれども……断れないような雰囲気。
にこりと微笑む皇帝陛下の笑顔が、孫にプレセントをあげるおじいちゃんのようだ。
「レティ、浄化終わったのかい? お疲れ様」
「疲れてない?」
皇帝陛下と一緒に一階の広間に降りていくと、お父様とジュエルお兄様が駆け寄ってきた。
ジュエルお兄様が私の頭をポンポンと優しく撫でる。
「えへへ」
お父様たちは、呪具を作る魔道具や材料などを、確認していたようだ。
テーバイの騎士と赤い狂騎士が協力して、集められた物を分類している。
ライオスも忙しそうにお手伝いしている。
そんな中おもちは、腹天で気持ちよさそうに寝ている。
肉祭りでしこたまジュエルボアのお肉を食べてたからなぁ。
おもちさん、欲望に忠実でなにより。
集められた呪具をよく見ると、まだ未使用の物がかなりある。
【魔力消失の呪具】
この呪具を使われた相手は、魔力欠乏症になりジワジワと体が弱っていき十年後に死ぬ。
【味覚消失の呪具】
この呪具を使われると何を食べても味がしなくなる。
【1日一回お腹をこわす呪具】
この呪具を使われるとその名の通り1日一回お腹をこわす。
何これ! 魔眼で呪具の情報が入ってくるんだけれど、ヤバいのがいっぱい。
中にはしょうもない嫌がらせみたいなのもあるけれど。
これは使えないようにした方がいいよね。
皇帝陛下に相談しなくちゃ。
「皇帝陛下はどこに……」
テーバイの騎士と一緒に、紙に描かれている何かを見ていた。
「皇帝陛下、この集められた呪具で、未使用の物を使えなくしても大丈夫ですか?」
「それは助かるが……いいのかい? さっき鑑定士に見てもらったら、危険な呪具も残っていたから、これを作った者に分解させて、使用出来なくしないとと思っていたところだよ。アクダマスに誰が作ったのかも、全て尋問して吐いてもらうつもりだ」
これを作った男——アクダマス三男マイキーは私を匿っていた隠蔽された邸で眠っている。一人では無理だろうから長男テイルズの錬金術を使って二人で作っていたんだろうな。
あの隠蔽された邸見るに、かなりの錬金術使いだと思うんだよね。
きっとあの邸にもかなりの魔道具や呪具があるはず。
お父様たちと再会してから、あの邸ことや三兄弟の事などまだ詳しく話していない。せっかくし、今伝えておこう。
また急に何かあって、バタバタして伝えられなくなるかもだし。
私は邸であった事や三兄弟のスキルについて詳しく皇帝陛下に話した。
聞いた内容を執事の人が細かくメモっていた。
「まさか……アクダマスの息子たちのスキルが、呪術や錬金術だったなんて……」
どうやらアクダマス侯爵は、息子たちのスキルを偽って虚偽の報告していたらしい。
三兄弟全員、武術系のスキルという事にし、裏では呪具をコツコツと作っていたようだ。
報告も終わった事だし。
「よし! 解呪しますか」
呪具の数は十二個、一つ一つに手を翳して解呪していく。
すると一瞬煌めき、壊れていった。
魔眼で見ても【呪具だったただのガラクタ】と記載されている。
もうこれで大丈夫!
「全てただのガラクタになりました!」
「ありがとうレティシア嬢」
皇帝陛下がお礼を言いながら、お辞儀をしてくれた。
毎回思うんだけど、皇帝陛下に頭を下げさせるなんてっと申し訳なく思ってしまう。
本人は頭を下げることに対し、躊躇などしてない。それだけ皇帝陛下が素晴らしい人徳者なんだろうな。
私の住むエンディバン王国の国王陛下なら、きっと頭を下げないだろう。当然だって顔しそう。私たちが辺境で、魔獣たちから国を守っているのだって、当たり前だと思ってるし。
大きな違いだわ。
この後アクダマス領にある宿屋で宿泊するために、私たちは宿屋に向かった。メンバーは、お父様とジュエルお兄様、それにおもちとキューちゃん、皇帝陛下とライオスたち。
テーバイの騎士や赤い狂騎士たちは、まだする事があるからとアクダマス邸に残った。本当にみんな働き者だなぁ。
赤い狂騎士たちも一緒に宿屋に泊まろうと皇帝陛下は言ってくれたのだけど、テーバイの騎士たちと仲良くなったらしく、この後アクダマス邸で酒盛りをするようだ。
連れていってくれたのはアクダマス領の中では一番大きな宿屋。
「ほえ〜……前に泊まった所も豪華だったけれど、ここもすごく派手だなぁ」
中にはいると。私を見た宿屋の人が驚き、バタバタと走って来て頭を下げる。
「天使さま! 治癒していただきありがとうございます。肉祭りも楽しかった……」
「夫はもう死を待つだけだったのに、こんなに元気になって! 本当にありがとうございます!」
どうやら助けた人の中に宿屋の店主さんが居たようだ。
そんな訳で、一番豪華な部屋を無料で泊まらせてくれた。
皇帝陛下やお父様は払うと言ったのだけど、「天使さまに助けられた命、恩を少しでも返させてください」と店主さんは頑なに譲らなかった。
皇帝陛下だと分かっていたら、言い返すなんて事はしなかっただろうけれど、今は一般人に偽装しているので、店主の好意を受け無料でお部屋で寝ることに。
「わぁー! 広い」
部屋に入ると、テーバイ独特の刺繍が施されたカーテンや絨毯が、ドーンとお目見え。
「この部屋も豪華だね」
ジュエルお兄様も、私と同じ気持ちのようだ。
疲れていたのか寝台に入ると、私はあっという間に眠ってしまった。
この前、私が急にいなくなったのがトラウマになったのか、いつもは寝台の下やソファーで寝ていたおもちは、私を包むように一緒に寝た。
キューちゃんなんて私のお腹の上。
そんな二匹に包まれぐっすりと眠った。
次の日は豪華な朝食を頂き朝からお腹いっぱい。
「くるしい……」
テーバイの料理は香辛料が強めなんだけど、それがまた癖になる美味しさでついつい食べてしまった。
それはお父様やジュエルお兄様も同じで、私と同じようにお腹をさすっていた。
この後は、アクダマス領をお昼に出発し、森の中にある隠蔽された邸に案内し。
スキル【牢獄】を解いた。
すると、中から扉が勢いよく開き、次男のブドーが転げるように飛び出してきた。
どうやら全員起きていて、必死に窓や扉を叩き出口を探していたようだ。
そのまま赤い狂騎士やテーバイの騎士たちに拘束され、中にある魔道具なども全て没収するとの事。
邸を調べるのに一時間ほどかかると言うので、その間に私はおもちと一緒にジュエルボア狩りに出かけた。
昨夜の肉祭りで、全てのジュエルボアがなくなったからね。
エンディバンにはジュエルボアと出会った事ないし、テーバイの魔獣なんだろう。
「狩れるだけ狩るぞー!!」
『わりぇに任せるっちぃぃぃ』
おもちの勢いは凄かった……ヨダレを垂れ流しながらジュエルボアを次々と倒していった。ついでにジュエルボアたちがいる近くには、ジュエルボア大好物のリリンの実がなっていることが多いのでそれも収穫した。
「キュキュ〜♪」
リリンの実はキューちゃんが気に入ったみたいで、口をベトベトにしながら頬張っていた。
「ふふ、美味しい?」
「キュウ♪」
こんな風に私が狩りを楽しんでいた時。
王国からドンバッセル領に緊急の知らせが届き、ドンバッセル領が大慌てとなっていた。
そんな事など知るよしもない私は、のんきに狩りを満喫していた。
★★★
久々の更新となってしまいました。
楽しんでいただけると嬉しいです
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