第27話 いざテーバイへ


「テーバイに行くの楽しみですね」

「だね、アレク兄様たちとか、メチャクチャ悔しがってたもんね。ししっ」

「ふふっ、学園に向かう馬車に乗るの、ゴネてましたもんね」

「んで、お父様にゲンコツ貰ってたよな」


 時が経つのは早いもので、ドンバッセル領に戻りゆっくりしたのも束の間。

 アレクお兄様達は学園の準備、私とジュエルお兄様はテーバイへの旅の準備と忙しない数日を過ごし。


 今、ジュエルお兄様と二人で魔導船の甲板に出て、空の景色を一緒に楽しんでいる。

 今回はお母様も一緒。お父様と久しぶりの旅行気分で楽しそうだ。

 最近は本当に色々と忙しかったから。

 厄災の魔王討伐から始まり、その後からドンバッセル領でゆっくり落ち着くひまもなく、一人残されていたお母様は、寂しかったみたい。


 今日からは、ゆっくりお父様との旅行を楽しんでくださいね。


 テーバイへの旅は三日間。馬車なら三週間の旅だ。

 三週間の時間を三日に短縮出来ちゃう魔導船。


 魔導船って本当にすごい。外の甲板にでても、風の抵抗が全くない。

 魔導石を使って、風の抵抗がないように設計されているのだとか。魔導石には無限の可能性があるらしく。


 今も、色々な研究がされている。すごいなぁ。


『あるじぃ、ここにいたっちぃ。わりぇはお腹がすいたでち』


 お昼寝をしていたおもちが目を覚ましたようだ。一日の半分は寝てるんじゃない? ってくらいよく寝ている。それは前世と変わらないね。


「何が食べたいの?」

『肉っちぃぃ!』


 お肉かぁ……何がいいかな?


 そうだ! せっかく空にいるんだから、甲板でバーベキューとか楽しいかも!

 すぐに食べられるしいいよね。


「レティ、なんの準備してるの?」

「この甲板でバーベキューをしうと思って」

「それって最高じゃん! 僕も手伝うね」


 ジュエルお兄様が焼き台を並べてくれているので、私は焼く材料の準備に取り掛かる。

 お肉串焼きにして……っと、ん?

 頬に何か当たる、これって水? 雨!?


 ぽつぽつと水滴が空から降り注いできた。


「雨だー! 晴れているのに雨が降ってきた。せっかく用意した焼き台やお肉が台無しになっちゃう」


 私が慌てていると、ジュエルお兄様が「大丈夫だよ」っとニッコリどうして慌てないの?


 あれ? そういえば今は雨が当たらない。どうして!?


「上を見て」

 

 ジュエルお兄様が空を指差す。

 何があるの?


「ああっ!? 透明の膜が貼ってある!?」

「そうだよ。空の天気は変わりやすいからね。雨が降ると、ああやって薄いまくのバリアを張って雨を凌ぐのさ」


 魔導船ってすごい。こんな事まで出来るんだ。


「ははっ、レティの目がキラキラしてる。そんなに感動した?」

「はい! だってなんだか不思議で……ワクワクします」

「じゃあもっとワクワクしてもらおうかな」

「お父様!? もっと!?」


 お父様がやって来て、私の頭に手を置いた。

 何が怒るって言うの!?


「天気なのに雨が降る時はな、あいつが現れるんだよ」

「あいつ!?」

「ほら、ご登場だ!」


 お父様が指を指した方を見ると、電気を帯びたニョロニョロと長い生物が空を泳いでいた。それも何匹も! 十匹以上いそう。


 あれは何!?


「ビックリしたかい? あいつは電気ウナーギィーって言ってね。あいつが来ると晴れなのに雨が降って来るんだよ」


「空を泳ぐ魚? 初めて見ました」


 しかも電気を纏ってるからか、金色に輝いているみたい。

 雨に電気の光が反射して小さな虹があちこちに現れてて綺麗。


 電気ウナーギィーの見た目は、鰻が大きくなったような姿をしていて気持ち悪いのだけど。

 

「電気ウナーギィーこっちに近づいて来てますがどうするんですか?」

「ああ。大丈夫だよ、アイツらはああやってウヨウヨと泳いで雨を降らせているだけで何もしないさ」


 そうなんだ……あれって食べれないのかな。

 私、鰻大好物なんだよね……


「ゴクッ」


 食べたら電気ビリビリしちゃうかな?



「《叡智》電気ウナーギィーって、食べられる?」


 ピコン


 電気ウナーギィーは食べると美味しい。

 身はホクホク、タレを使った蒲焼がおすすめ。肝も食べれる。肝吸いや肝串などがお勧め。骨は唐揚げで食べられる。捨てるところがない魔魚。

 血は煎じて毛生え薬が作れる。

 

 なんですって!? 

 まんま前世の鰻と同じじゃん! 前世だと血は毒があったけれど、こっちのウナギは血まで使えるんですって。


「お父様! この電気ウナーギィー、食べたらめちゃくちゃ美味しんだって! 血で毛生え薬も作れるって、叡智が教えてくれた」

「なななっ、なんだと!? あの気持ち悪いやつ美味いのか!? それに毛生え薬だと!? これは討伐して味見しないと」


 お父様が赤い狂騎士たちを呼びに行った。

 だけどどうやって討伐するのだろう? 空飛んでるから倒しても下に落ちちゃう……


 何やらお父様たちは、難しい顔で話し合っている。

 作戦が決まったのかハイタッチしている。


 すると、弓を持った騎士の人が次々に放ち、トドメを刺す。

 絶命して下に落ちそうな所で、別の騎士が風魔法を使い、ふわふわとこちらに持って来ている。

 最高のコンビネーション。


 一匹も残す事なく、電気ウナーギィーを十五匹を仕留めた。

 さすがです! 

 


 ★★★



 普通の鰻の五倍はある大きさ、うまく捌けるかな!?

 鰻が大好きすぎて、鰻屋さんでバイトしていたくらいなんだから。

 でも流石に大きすぎる。私の手だって小さいし……。


 そうだ! 風魔法でスパッと捌けないかな?


「《叡智》風魔法を使って、この電気ウナーギィー捌けないかな?」


 ピコン!


 可能です。風魔法の応用編で【風捌き】と言う魔法を作ると風が完璧に捌いてくれます。


 作りますか?


「【風捌き】作ります!」


 すごいすごい! こんな便利な魔法創ってしまって料理の幅が広がるう〜!!

 

 風捌き、便利なんてもんじゃなかった。

 十五匹の電気ウナーギィーを、ものの二分で捌き終えた。完璧な状態で。

 しかも熟練のプロですかって出来。


 後は、ちょうどバーベキューの準備が整っているので、鰻ちゃんを串にさして焼いていくだけ。いいタイミングで鰻ちゃんが飛んできてくれたよ。感謝!


 ぐふふふっ、楽しみぃ。


 おっとタレの仕込みもしとかなきゃ。頭と骨を入れると、さらにタレの旨みが増すのよね。

 

 あとは、肝吸いと肝串も作ってと。


 料理長もついて来てくれているから、説明して手伝ってもらう。


 鰻の準備をしている間に、待ちきれないだろうから、先に肉や野菜を自分たちで焼いて食べて貰って。おもちは自分で焼けないから、ジュエルお兄様が焼いてくれるらしい。


「なに!? このいい匂い!」


 鰻を焼いていたら、匂いにつられ人だかりができる。

 みんなこの新作料理が気になって仕方ないんだよね。


 何回かタレに付けて焼いたら、鰻の蒲焼の完成! 


「お父様、その右手に持っているお米が入ったどんぶりを渡してください」

「んん? これを!?」


 お父様が一体なんだ? っと不思議そうにしながらどんぶりを渡してくれた。


 そこにタレをかけて仕上げに蒲焼をのせたら、鰻丼の完成!


「はい、お父様、鰻丼食べて下さい」

「こっ、これが鰻丼……ゴクッ」


 お父様が無言で鰻丼を口に頬張る。

 もぐもぐと咀嚼し、少しの沈黙の後。


「うううううっ、うまいよレティ! 最高だ。父、これ一番好き」


 あまりの美味しさに、お父様の語彙力が崩壊してしまった。


 お父様の反応を見ていた人たちが、「私も下さい」っと長蛇の列ができる。


 ちょっと待ってね。私にも少し味見させて下さい。

 お父様の、あんなに美味しそうに蕩けている顔を見たら、我慢できない。


「どれ……!? もぐもぐっごくんっ。んんん〜〜〜♡」

 

 ちょっと待って! 美味しすぎなんやが! なんなら前世で食べた鰻より美味いんやが!? 電気ウナーギィー美味すぎやろぉぉぉぉぉ!!

(あまりの美味しさにイマジナリーお大阪人が再登場してしまった)


 鰻ちゃんは大成功に終わった。


 この後、電気ウナーギィーを見かけたら涎を垂らしながら電気ウナーギィーを討伐っしている赤の狂騎士たちの姿が見えたのは、言うまでもなく。


 テーバイ帝国まで後二日。





 ★★★



 読んでいただきありがとうございます。

 自分で書いていて、鰻重が食べたくなって大変です。

 あああああ鰻、食べたい。

 

 少しでも「鰻が食べたい」「面白い」「続きが楽しみ」だと思って頂けたなら、ブクマや♡、★評価など頂けると嬉しいです。コメントも大好物です。

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