第26話 新しい獣魔


 どうしよう、お話できるだけで良かったんだけど。

 どうやらテイムとは名の通り使役する事だったみたい。


「あの……黒竜さん、急に使役してしまってごめんね。私、お話できたらと思って、すぐに使役を解除するからね」


『かまわないのじゃ。我は其方が気に入った。なんの得もないのに我の子を治癒してくれた。そんな人族がおるとは思わなんだ』


「そんな……いいの?」


『長い人生、ほんの少しの時間、人族と共に生きるのも良いだろう』


 黒竜は目を細め悪戯っ子のように笑う。


 こんな大きな黒竜を使役してしまった!


 お父様達は私たちの会話が分からないから、強張った表情で私たちの様子を静かに見ている。

 その視線が痛い。

 この説明をどうしたら良いんだろう。

 ケルベロスのノリマキの時はおもちの友達だったから、連れて帰ることに騒がれなかったけれど。

 今度は違う、私が使役して連れて帰るんだもの。


「はぁ……」

 

 言いづらいなぁ……


「ねぇ、黒竜。私の名前はレティシアよ、貴方のことを黒竜って呼ぶのも堅苦しいから、あだ名を付けていい?」


『ほう? 我に名か、其方……いやレティシアが付けてくれるなら良かろう』


 なんて呼ぶのが良いかな? 黒い竜……う〜ん。黒いといえば餡子とかチョコレート……チョコといえば……


 よし! 決めた。


「貴方の名前はブラックサンダーよ」

『ほう……ブラックサンダーか。気に入った』


 ふふ、チョコの王様といえばブラックサンダー一択でしょ。

 なんだか強そうだし。


『なるほど……名を与えられると、よりレティシアとの繋がりが強くなるな。其方の魔力は心地が良い』


『ぬううん!? あるじとの繋がりが強く!? 一番繋がってるのはわりぇだっちぃぃ。急に現れたやつが偉そうにするなっち』

『フゥン? お前は使役されておらんのだろう? 我のがレティシアの一番だ』

『ぬうううううううううううっ!? わりぇが一番っちぃぃぃぃ』


 ブラックサンダーがおもちを、わざと煽っている。

 怒っているおもちをニヤニヤと楽しんでいるよう、なかなかに性格が悪いぞ。

 でもまぁ……本気で喧嘩してないから……良しとしよう。


 さて、おもち達がわちゃわちゃしている間に、ブラックサンダーのことを上手にお父様たちに説明しないと。

 上手くと言っても……なんて説明したら……あっそうだ!


「あの、お父様……あの黒竜なのですが、おもちの友達らしくて……一緒についてくると言ってます」

「はぇ!? ケルベロスに続き、またおもちの友達だって!?」


 お父様が目をまんまるにして驚き、素っ頓狂な声をあげる。

 だって、おもちの友達ってのが、一番無難だと思ったんだもの。

 私が使役したなんて言うと、もっとビックリするだろうし。

 何だかおもちが、やたらと【強い友達多い奴】になってるけれど、悪い称号でないし許しておもち。後で大好物の唐揚げをいっぱい作ってあげるから。


「ええと……そうなんです。だから……その、友達のおもちが居たから、黒竜は攻撃をやめてくれたんです」

「なるほどな、確かに仲良さそうにしているね」


 お父様がおもちとブラックサンダーの方を見て、納得している。

 遠目から見たら、二匹が楽しそうにしているようにしか見えない。


「……しかし何でいきなり襲ってきたんだろう。竜は強く賢い生き物なので、無理な争いはしないはずなのに……」


 そうなのだ。この世界の最上位にあたる種族たちは毅然とした意志があり、頭もかしこい。なので無闇矢鱈に喧嘩など売ってこない。低位の魔物達が私たち人を襲うのだ。


「それが、あの黒竜はどうやら魔導船を敵だと思ったらしく、後ろにいる子供たちを守るために攻撃してきたみたいです」


「なるほど。子供達を守るためにか。さすが賢い竜種だね」


 そう説明すると、お父様は納得してくれたみたいで、赤の騎士たちにも説明してくると言って騎士達が集まる方に走って行った。


 その後にはお兄様達がやってきて、再び同じような説明をするのだった。


「はぁ……なかなか大変だわ」


 この後。ブラックサンダーは空を飛びながら魔導船の後をついてくる事になり、小さな子供達は魔導船の速度に合わせるとついて来れないので、魔導船に一緒に乗ってドンバッセル領に向かう事となった。

 一日も飛び続けることは大丈夫なのかと聞いたら一週間くらいは余裕で飛び続けられるらしい。さすが最強種。


『キュッキュ』

「はいはい。よしよし」


 なぜだか、羽を元通りにしてあげたちびっ子竜が、私の事を気に入ってくれたのか、ずっと後をついて来ては甘えてくる。

 正直ものすごく可愛い。


 後の二匹のうち一匹は自由に飛び回り、赤の騎士達に混ざって遊んでいる。もう一匹はずっとご飯を食べている食いしん坊さん。

 三匹の性格が個性的で面白い。


 可愛いチビ竜に癒されながら空の旅は終わった。


 ドンバッセル領に戻ると、お母様達がブラックサンダー達を見て、腰を抜かしたのは言うまでもない。


 さて、次はテーバイへと出発だ。

 どんな楽しい旅になるのか、今から楽しみでしかない。



★★★



 読んでいただきありがとうございます。

 次はテーバイ編が始まります。ゆっくり遊べるかと思いきや、また色んなことに巻き込まるわけで。楽しんで頂けると良いなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る