第10話 地獄の門番

 地獄の門番と恐れられているケルベロスは、魔国にはいないらしいのだが、どうやら今はこの魔国の門番をしているようだ。


 大きなその姿は遠くから見ても圧倒的威圧。


『ガルルルル……』


 大きな牙を剥き、私たちをこれでもかと威嚇してくる。


 ケルベロスでこれなら魔王はどれほどの圧があるのだろう。


「恐れることなどない! 我がドンバッセル領の赤い騎士たちは最強だ」


 お父様がみんなを鼓舞し、赤い狂騎士たちがケルベロス討伐の態勢になった時。


『ありぇ〜。ノリマキぃ何してるっち?』

「はぇ!?」


 おもちさん? 今、ケルベロスに向かってノリマキって言った!?


『こんなところで何してるっち?』


 私を背に乗せたまま、おもちがケルベロスに向かって走っていく。


「おもち!? 地獄の門番を知ってるの!?」

『地獄の門番? 知らないっち、あの目の前の三つ顔がある奴は友達っち』

「ととととっ、友達ぃ〜!?」

『プククっあるじ変な喋り方っち』


 最前線にいた騎士たちを颯爽と追い越し、ケルベロスの真ん前に。


『あんれぇ、おもちどんじゃねぇべか。どしたん?』


 三つあるうちの真ん中の顔がおもちを見て、さっきまであった威嚇を解いた。雰囲気からして本当に仲良しみたいだ。


『ノリマキこそこんな所でなにしてるっち? 前はこんな場所にいなかったっち?』

『あったらしく魔王になったやつに急に連れ去られて、この場所に縛り付けられたんんだべ』


 中央の顔がそう答えると、両横にある顔も頭を縦に振る。

『そうなのよ〜』

『ここ嫌、帰る』


 どうやら顔ごとに話し方や性格が少し違うようだ。

 メインは真ん中の顔が話してるって感じかな?


 二匹は仲良く会話している。


 後ろに集まってきたお父様たちも、ポカンと口を開け二匹のやりとりを見ている。

 気持ちはきっと私と同じだろう。


 フェンリルとケルベロスが友達って、情報が多すぎて頭に入ってこない。


 しかもこのケルベロス、厳つい見た目に反してかなりクセが強い。

 三つの顔の喋り方の訛りが独特だ。特に真ん中。まぁ、おもちもそうだけれど。


「おもちとケルベロスはいつから友達なの?」

『んん? こいつはケルベロスじゃなくてノリマキっち! 名前がないっていうから、わりぇがつけてやったっち。黒くてあるじがよく食べてた海苔まきみたいっち? だからノリマキ』

『おいどんこの名前、気に入っどるべ。おもちどんありがとうな』


 そうか、フェンリルやケルベロスって名前は、昔に人がつけた名前なんだろう。本人たちにその認識がないのは、納得だ。


『んで、おもちどんは何しに来ただ?』

『わりぇは、この奥にいる魔王を倒しにいくでち』

『フォエ!? 奥にいる魔王は厄災の魔王ってぇ言んわれでで、もっぱらつえーど!? おいどんを飼い犬みたいにしやがったやつだべ!?』

『大丈夫っち! わりぇはやっと会いたかったあるじに会えたっち。そのあるじが魔王を倒すって言ってるでち。わりぇはその願いを叶えであげたいっち』


 おもちの気持ちが嬉しくて泣きそう。そんなことを考えてくれていたなんて。


『ぞおがぁ、その背中にのしとる女子おなごがずっと探じでいだあるじなんだな。良がったなぁ〜おもちどん』


 自分のことのように喜びポロポロと涙を流す。この姿を見て地獄の門番なんて誰も思わないだろう。心優しい魔獣にしか思えない。


『んだら、厄災の魔王はこの奥に見えるでっかい塔におるがら、おもちどん頑張っでくんべ』

『まかせるっち! わりぇに勝てないものなどないでち』


 おもちのおかげで、地獄の門番ケルベロスがあっさりと道を開けてくれた。


 一体この二匹はどうやって友達になったんだろう。

 また後でその辺の馴れ初めを聞かせてもらいたいものだ。


 魔王国に一歩足を踏み入れるとより瘴気が強くなった。灰色の瘴気のせいで視界が見えずらい。

 そんな中、魔王の手下である魔人が姿を現す。その姿は紫色の大きな体に目が三つだったり、青い体に腕が四本あったりとさまざま。


 赤い騎士たちは統率のとれた動きで、軽快に魔人たちを討伐していく。


 その華麗な動きに見惚れる。


 今まではお父様や赤い騎士たちが戦っているところを、危険だからと近くで見ることは出来なかった。

 だけれど今は、最強のおもちの背中に乗っているので、余裕で近くをうろつくことが出来る。


 近くに来てもおもちが瞬殺するのだ。


「ん?」


 魔王城が近づくと、魔人の強さがレベルアップしたように感じる。

 屈強な騎士たちが、魔人の討伐に時間がかかっている。


 そんな中


「あれは!? 四天王の一人バフォメット!?」


 長男アレクサンダーお兄様が一際大きな体躯の魔人を指差す。

 四天王……聞いたことがある。

 魔王の側近で、確か……魔人の中で強い四名が選ばれるんだよね。

 バオメットの姿は頭に大きなツノがありライオンみたいな顔をしていて背中に羽が生えていて空を飛んでいる。


 魔人たちは私たちが苦手な瘴気を吸って強くなる。

 瘴気を吸った動物が魔人へと進化するのだ。

 魔王だけは特別で初めから魔王として誕生する。

絶対的な王。それが魔王。


「レティ!?」


 四天王バフォメットの一番近くにいたのが私だったので、こちらに飛んで近づいてきた。


『ケケケッ小さな子供がこんなところにぃぃぃ? 子供はうまいんだァァァ。食ってやるぅぅぅ』

『はぁ? あるじを食うだと!? 許さないでち!』


 プチッ。


 近寄ってきた四天王を前足で叩き潰したそれはもう、近寄ってきた蚊を叩く感じで叩き潰した。

 おもち……まじで最強なんやが。


 流石にこれにはお父様たちも驚愕。

 最強フェンリルだとは分かっていたけれど、四天王を蚊を殺すかの如く簡単に討伐してしまったのだから。


 圧倒的おもちの強さで、魔王がいる部屋にあっという間に到着してしまった。

 おもち……魔王も倒せてしまうんじゃ。


 厄災の魔王は私たちが部屋に入ってきても、椅子に座ったまま動揺もせず口角を少しあげ嫌らしく笑った。

 余裕の笑みといったところか。

 近くに来ると、魔王の覇気なのかオーラなのか、得体の知れない強さに圧倒される。


『ほう……我が塔に侵入者とはのう。何ようぞ? とは聞かなくても分かる。我を倒しに来たいたのだろう?』

「そうだ! 厄災の魔王、お前はこの世界を滅ぼす存在だからな。討伐させてもらう!」


 お父様の言葉を皮切りにみんなが戦闘態勢に入る。


 とうとう始まるんだ。



★★★



 やっと魔王登場です。


 

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