第9話 おもちの秘密


 今日は少し早めの夕食だったので、ご飯を食べ終えたらみんなは自由行動をしている。


 自由行動とはいえ、さすが赤い狂騎士と言われるだけあって、ゆっくり出来る時間さえ訓練を怠らない。

 お兄様たちもその訓練に混ざっている。


 みんな凄いなぁ。


 私はというと、大きくなったおもちに埋もれ犬吸いを堪能していた。

 久々のおもちの匂い……はぁ癒される。

 おもちに癒されつつふと思う、おもちの色んな謎。

 そもそもいつこの世界に来たんだろう。

 

「ねぇおもち、いつこの世界に来たの?」

『ぬぅん……わかんないでち。あるじが大きな火からわりぇを守ってくれて、目覚めたらこの場所にいたでち。あるじを探し回ったけれど会えなくって、わりぇはずっと寂しかったでち』


 過去を思い出し、おもちはポロポロと大粒の涙を流す。

 そんなおもちのお腹をヨシヨシと撫でる。

 多分……話を聞く限り、予想だけれどおもちは私と同じ時期に、この世界に転生して来たんだ。


 何か運命を感じる。


「ずっとひとりでいて、ご飯とかはどうしていたの?」

『ぬぅん? その辺にいる奴らの肉や魚を、そのまま食べてたっち』

「そのまま!?」


 生肉や生魚を食べて平気なの!? あ、今は犬じゃないから大丈夫なんだ。


『そうでち、それなりにウンマイでちが、今日食べたシュテーチが一番でち! 前の時のあるじのご飯もうんまかったでちが、今日のは絶品でち』


 さっきまで泣いてたおもちは、尻尾をフリフリさせながら、ステーキを思い出しヨダレを垂らしている。今泣いたカラスがもう笑うと、赤ちゃんに使ったりするけど、まさにこれ。おもちも赤ちゃんか。


 前世でおもちに作っていたご飯はすっごく薄味、ほとんど素材の味だもんね。

 今からはいっぱい美味しいご飯を作ってあげるね。


 夜もふけてきたので、そろそろ就寝の時間。


 いつもならお兄様たちと一緒のテントで眠るのだけれど、今日はおもちがいる。

 なんせ再会してから、おもちが一時も私の側を離れようとしない。

 前世でも私が家に戻ると、赤ちゃんの後追いのように、どこに行くでも後をついてきていた。トイレやお風呂に入ると前で待っている。

 可愛い私のストーカー様。


 そんな訳で、おもちと私が一緒に寝れるように、少し大きめのテントを設営してくれたのだ。


 お兄様たちは別のテントで寝るみたい。


 最強の「ボディガード【おもち】がいたら、僕たちがいなくても大丈夫だね」っと次男リンネお兄様が、私とおもちのテントを用意してくれた。


 普通に仲良く兄妹で一緒に寝ていたんだと思っていたんだけれど、どうやら私を守るために一緒に寝ていたらしい。

 優しいお兄様たち。


 という訳で、今日はおもち布団を堪能して寝させてもらいます。


 前世だと私が横になると、シュタッとおもちが私の脇の間に入ってきて腕枕して寝ていたのだけれど、今日も同じような行動をして来て、大きなおもちはもちろん私の脇の間になんて入れないわけで、私がおもち枕で寝ている。

 ふかふかのおもちに包まれて眠るのは最高に寝心地が良かった。


 朝目覚めると横におもちがいて、姿は大きいけれど、おもちがいるんだなぁって実感する。異世界で再会できて本当に幸せ。


 朝食を食べていると、「もう魔国の近くまで進んだ。これから先の旅、気を引き締めていくんだぞ」とお父様が皆を鼓舞していた。


 そうか……もう魔国は近いのか。

 ちゃんと魔王の力を封印できるとは分かっていても、恐怖が全くない訳ではない。

 未知の強さを持っている魔王に会うのだから。

 

『あるじぃ〜? どした。そんな顔して』


 私の表情を感じとったおもちが、心配そうに私を見つめる。

 前世でも色んな嫌なことや辛い時、おもちに愚痴を聞いてもらってたな。


「ん? んん? ちょっと魔王のことを考えてただけ」

『ほぇ? あるじは魔王に会いに行ってるっち?』

「そうだよ、私たちは厄災の魔王を討伐しに行ってるの」

『分かった! わりぇがチャチャッとやっつけてやるっち』


 おもちが得意げに顔を上げる。

 本当にやっつけそうだ。だけど私は魔王の力を頂かないといけないので、封印を使ってから思う存分に戦って欲しい。


 昨日までの私の移動手段は馬車だったのだけれど、今はおもちの背中に乗っている。

 馬車に乗るとおもちが寂しそうな目で私を見るので、そんな目で見られちゃ仕方ない。

 だけど実際おもちに乗って移動すると、なんて快適なんだろう。フワフワに包まれてお尻だって痛くない。

 あとは振り落とされないようにしなくちゃ。


 魔国……どんな場所なんだろう。


 強い魔素と瘴気に包まれていて、普通の装備で入ると瘴気酔いして立てなくなるらしい。

 なのでみんなは一メートル以内の瘴気を吸い取ってくれる魔導具を身に付けている。

 これがなかったら、魔国では三十分くらいで倒れてしまうのだとか。


 前を見ると、空が真っ黒になっている場所が近づいてきた。

 あれが魔国なんだろう。


 とうとう魔国に着いたんだ。


 魔国に繋がる大きな橋を渡り終えるとそこには。


「ケケケッ、ケルベロスだ!」

「地獄の門番がなんでこんな場所に!?」

「前に来た時にはいなかったぞ!?」


 なんと目の前に大きな顔が三つある黒くて邪悪な顔をしたケルベロスという魔獣が立っていた。

 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る