鏡
夏融
鏡
鏡の世界には音が無い。
なら目の前の僕にこの喧騒が届くこともない。
「やあい。アイノコ、アイノコ」
世間は僕の研究室のすぐ外で警鐘を鳴らしている。
反対に鏡の中の僕は僕の落とした針の音にすら振り向かない。
「二十世紀父さあん!二十一世紀母さあん!どうして沈んでいくの?どうして飛んでいくの!置いていかないで、僕は星に触れることもできないのに」
僕は目の前の僕に懇願した。目の前の僕もまた僕に懇願した。僕と彼の僕の接続に関する研究は凍結されたままなのだろう。
「やあい。アイノコ、アイノコ」
何と恐ろしき世間かな!全ての女は経産婦であり、全ての男は寡夫なのだ。では僕はどちらか。
僕は脇の下に重鈍な芽吹きを思う。一個の蝉として。或いは人間として。
僕よ立て!さもなければ自殺しろ。
鏡の世界には音が無いのだから(前研究主任李箱氏の献身に心より哀悼の意を)。
鏡 夏融 @hayung
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