放課後、ドアの前で①
「暇ですね、葵」
そう言うのは、扇風機の前を占拠している遙だ。
あのクロワッサンの事件から数日が経ち、日常へ戻っていた。
部室の中にも夏の空気はひろがっている。
「暇が一番だよ」
微笑みながら葵が返す。葵は今、ファッション誌に没頭している。
「この人、あの先生に似てない?新任の」
葵が読んでいた雑誌を遥かに見せると遙も納得したようだ。
「確かに、あの人みたいですね、理科の」
そこまではわかっているが2人とも名前が出てこない。
ちなみにこういうことはよくある。2人は推理の才能はあるが、人の名前を覚えると言うことがめっぽう苦手だ。
「ジュース飲みたいな」
先程まで雑誌を眺めていた葵が急にポツリといった。いつの間に、冷蔵庫を漁っている。
「ないんですか」
「うん、ない、自販機行かない?」
その言葉に遙も「いいですよ」 と返し、2人は部室を出、自販機へ向かう。
外へ一歩出た瞬間、湿気を多く含んだ暑い夏の空気が2人を包む。
部室から自販機まではあまり遠くない。少し歩けば着く距離だ。
蝉の鳴き声を聞きながら2人は歩く。そうして自販機に着く、と言う時に2人は呼び止められた。
「あの、葵さんと遙さんですよね」
声からして、小学生だろうか。そう予想して振り向くと小学五年生くらいの女の子が立っていた。
「どうしたのかな」
こう言う時、葵は遙より先に行動する。目線を彼女に合わせ、優しく返した。こういう細かな気配りができるのも葵の優しさだろう。その姿を見て遙は感心していた。
「あの、話したい事があって」
「お部屋の中で聴こっか」
葵の言葉に女の子はぺこっと小さくお辞儀をする。
そうしてジュースを買うことなど忘れ、三人は部室へ戻っていった。
* * *
「まず、お名前、聞いてもいいかな」
「相葉結奈です」
結奈、と名乗った女の子は少し悲しそうな目をしていた。
「OK、結奈ちゃん。何があったか教えて欲しいな」
そう葵が優しく尋ねると、結奈は小さく頷き話し始めた
結奈は南海高校から近くの小学校の5年生だ。この小学校にはかつて遙も通っていた。そんな小学校である不思議な事件が起こったらしい。
ある日の登校中の出来事だった。登校はいつも駿、と言う同じクラスの男の子としている。
「なあ、結奈。あれなんだと思う」
急に駿が立ち止まり、前方を指差す。そのことに驚きながらも前方を見るとそこには古びたドアがあった。
「何あれ、ドア?いつもないよね」
いつもはそこにない異様なドアに結奈の警戒は上がった。しかしこの時違ったのは駿。彼は「ただの悪戯だろ」と一言いい、そのドアをくぐってしまった。
「結奈も来いよ!」
そう言って駿は「すっげえ」とドアを何回もくぐる。正直結奈はこのドアが怖かった。そのため結奈はドアをくぐらずそのまま学校に行ったらしい。その日は何事もなく終えたそうだ。
ここまで話して、遙が葵に話しかける。
「なんか都市伝説にありましたよね」
遙が言う都市伝説とは、南海長の中ではある程度広まっている潜ったら消えるドア、のことだろう。この話はっちょっと前に流行ったもので、夕暮れに急に謎のドアが現れくぐった人はいなくなってしまう、と言うもだ。
「確かにあったね、でも流石に違うよ」
結奈が話した内容により、そう考える葵だったがこの後結奈が話したことにより一気に考えは変わってゆく。
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