探偵の過去


「おかえり、2人ともお疲れ様」


 顧問の羽鳥先生がジュースを手渡しながら2人を労う。

 あの依頼を解決して帰る頃にはもう日が傾いていた。


「大変だったね、遙」

「そうですね、何もしてないけど」


 そういって2人は笑い合い、感想戦に移った。


 2人ともソファに腰掛け、今日の出来事を話している。


「てか葵、どうしてあんなこと分かったの」


 遙がそう聞くと、葵は笑いながら答えた。


「実は幼稚園の子達をずっと候補には入れてたんだ、依頼人さんとここで話した時あったでしょ?その時に声が聞こえたじゃん、その時から」


 そう言って葵は1口ジュースを飲む。

 遥は「すごいね」と小さく言って外を見た。夕暮れの南海町がそこには写っていた。オレンジ色の太陽に照らされてキラキラしている海をながめる。


「そういえば遙、私の話したっけ」


 急な言葉に遙の目線は海から葵に移る。そこには目を細めた葵が居た。


「葵の話?なんですか、それ」

「いやぁ、このタイミングで話すのもあんま良くないかもだけど無性に話したくなっちゃって」


 そうして、葵の過去が話される。


 葵は元々4人家族だった。両親と弟と幼い頃は仲良く暮らす。

 しかし、ある夏の朝葵が起きるとそこには手紙と朝ごはんが置いてあっただけで両親はいない。


「姉ちゃん、お母さんとお父さんは?」


 葵が呆然と立ち尽くしていると、後ろから起きてきた弟の声が聞こえてくる。この幼い弟にどう説明したものか。


「あ、ああ。お母さんたちはね、旅行にいっちゃったの」


 すぐ気づかれるだろうが、葵が短時間で考えられた嘘はこれくらいだった。


 その出来事以来、2人は祖父母のもとで暮らしている。


「あれ、葵弟いましたっけ」


 遙の知るかぎりでは葵に弟がいるのは初耳だ。


「遙知らないよね、実は一昨年くらいにいなくなっちゃったんだ」

「いなくなった?」

「うん、急にある日失踪したんだ。山も学校も全部探したし、警察にも相談したんだ。けど、いない」


 そういって葵は顔をふせた。

 正直、遙は聞いたことを後悔している。葵にどう声を掛ければいいのかも、わからない。


「葵、すみません、そんなこと聞いちゃって」


 そう言うと葵は苦笑にも感じ取れるような小さなため息をついて言う。


「私自体もあんまよくわかってないからね、謝る必要はないよ」


 しかし発言とは真逆に、葵の目は潤んでいた。


 

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