クロワッサンは逃げない


考え込んでいた、葵が急に目を開いた。


「遙、分かったかもしれない」


 急な言葉に遙が慌てるのも不思議じゃない。


「え、もう分かったの」


 遙が慌てて尋ねると、葵はニヤッと笑った。


「まだ、仮説だけどね。ちょっと行ってくる」


 そうして、この場にいる皆を置いて葵は走ってどこかへ行ってしまった。


 ※ ※ ※

「ここを曲がって、まっすぐだっけ」


 私の考えが正しければこの先に答えはある。わんちゃんでもおばちゃんでもなんでもない。

 初めから気になっていたことがあった。通行人が食べてしまった、という可能性だ。しかし、量も多いしそんなに高速で食べることが出来たとは考えにくい。じゃあなんなのか。

 そこがずっと分からなかったが、遙のおかげで分かるようになった。ポイントはカレーパンだ。店主さんや遙が言っていた通りカレーパンは程よい辛さが売りの看板商品だ。

 クロワッサンは食べて、カレーパンは食べられなかった。それは食べた人物が辛いのが苦手、ということを意味する。そして、多くの人数で一気に食べることの出来た人々。答えは高校の近くにあった。


「やっとついた」


 意外と遠かったな、汗かいちゃった。

 まあ、今はそんなことよりこっちだ。


 敷地内に入ると、沢山の子供たちに葵は囲まれる。


「葵姉ちゃん、どうしたの!」

「葵姉ちゃんだ!」


 その声に気がついたのか先生もやって来た。


「あら、葵ちゃんどうしたの」

「ちょっといいですか、先生」


 そうして葵と先生は話し始めた──────

 

※ ※ ※

「あ、葵!」


 遙の目には歩いてくる葵ともう一人の女性が見えた。


「ただいま遙、待たせたね」


 そういう自信に満ちた顔の葵は解決を示唆している。

 遙は隣の女性に目を向けた。


「あれ、先生?」


 遙も顔なじみの先生は苦笑しながら挨拶をする。


「こんにちは、遙ちゃん。迷惑かけてごめんなさい」


 その様子を見て店内に居たおばちゃん達も続々と集まってくる。

 遙はもう大体察したようだ。


「じゃあ、葵。犯人って」

「うん、幼稚園のみんなだよ」


 その言葉におばちゃん達はポカン、としている。

 葵の解説によるとこうだ。


 今日は天気の良い夏の日だったので、幼稚園のみんなは散歩をしに1列になって歩いていた。そして、パン屋の近くに来た頃、中ほどに居た男の子が試食だと思いクロワッサンを食べてしまう。「試食だよ」その言葉に後ろの子達は彼の真似をしてひとつずつ取ってゆくが、カレーパンを取った子がかぶりつくと「うわ!」と声を上げたため、他のみんなはカレーパンは取らずにクロワッサンばかりを取った。そのため、クロワッサンだけ綺麗になくなりカレーパンだけ残ったそうだ。


「店主さんすみません、私の不注意でこんなことになってしまって」


 そう言って先生は店主さんに向けて頭を下げる。それを見て周りは静かになったが、店主さんは笑いながら返した。


「頭を下げないでくださいよ、先生。子供たちは美味しいと言ってましたか」


 その言葉に先生はハッとし、あたふたしながら答える。


「みんな、美味しかったと言っていました」

「そうですか、なら僕たちは満足です。ねぇ?」


 そう言い店主はおばちゃん達の方をむく。

 すると、おばちゃん達はお互いに笑いながら「もちろん」と次々に言った。


「ありがとうございます、すみませんでした」


 そう言って、また深々と頭を下げる先生だが怒っている人は誰1人居ない。

 その様子を見ながら依頼人さん、葵、遙の3人は満足そうな顔をしていた。


「ありがとうございました、葵ちゃん、遙ちゃん」

「いえいえ、これくらい朝飯前ですよ、ねぇ遙」

「まぁ私何もしてないですけどね」


 その言葉に3人はふふっと笑いあう。

 そして、葵と遙は依頼人さんの方をむく。


「またいつでもご依頼くださいね、私たちは探偵ですから」

 

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