クロワッサンは逃げるのか②


学校を出ても未だ、突き刺すような日差しが南海町に降り注いでいた。

この時期の南海町はザ・日本の夏、といったふうでムシムシ暑く日差しは強い。


「てかてか遙、幽霊ってのはどう思う」


 唐突に言われた言葉に遙は笑って肩をすくめる。


「なわけないでしょ、葵」


 小さく「そうだよね」と言う葵の横顔は何かを考えているようにも見えた。

 葵は幽霊を本気で信じている。なぜかというと、葵は以前、「幽霊がいた!」といっており本人いわくしっかり目で見たらしい。しかし、遙はその全く逆だ。よく「非科学的話は意味がない」といっており、葵はそれに対してムッとする。それも、2人の性格の違いだろう。葵は何事も躊躇せず、前に前にでるタイプだが遙は物事を俯瞰してみるタイプだ。そのため遙が葵を静止することもしばしばある。

 そうしているとパンのいい匂いが香ってきた。まもなく、パン屋さんだ。


 パン屋さんに入ると店主さんと先程話した店員さん、常連さんのグループと勢揃いだった。店主さんは気まずそうに目を逸らしている。


「あら、葵ちゃん、遙ちゃんどうしたの」


 常連さんのグループの中にいたおばちゃんの1人は2人の知り合いだったみたいで、元気よく話しかけてくる。


「あ、おばちゃん。クロワッサンの件で来たよ」

「大変ねえ」


 葵がそういうとおばちゃんはあまり気にとめない様子で軽く返事をした。

 すると、店主さんが2人の所へ来て事件の顛末を話し始めた。

 基本的に依頼人さんが話してくれた内容とほとんど同じだが、葵にはひとつ気がかりなことがある。


「クロワッサンを置いていたのはここなんですね」


 それは何かと言うとクロワッサンの置いていた位置だ。店主さん曰く、店外の棚のところに並べていたらしい。

 葵が引っかかったのは看板商品で大事なクロワッサンを外なんかに置くのか、ということだった。


「そうなんだよ、いつもここに置いてクロワッサンを冷ますんだよ。集客にもなるし一石二鳥なの」


 そういうことか、と納得する葵の横で遙は並んでいるパンを眺めていた。


「このカレーパン、美味しそうですね」


 遙が眺めていたのはクロワッサンと同じく人気の高いカレーパンだった。カレーパンも目を引くため、クロワッサンの隣に置いてある。


「うちの看板商品のひとつなんだ、辛いのいけるかな」


店主さんが優しく言うのにコクリと頷いた遙は貰うやいなやすごいスピードで食べ終えてしまった。


「辛くておいひいですね」

「遙、行儀悪いよ……」


 口の中にカレーパンをぱんぱんに詰めた遙を葵が注意するという不思議な場面だ。いつもは逆の立場なのに今日は何故か違ったのはおばちゃんたちも分かっていたのか、その光景を見てふふふ、と笑っている。


「美味しく食べてくれてありがとうね」


 店主さんにそう言われ満足そうな顔をしている遙を横目に、葵はある事に気づいた。


「何故クロワッサンだけなのだろう」


 ボソッと言ったあと、葵は考え込み始める。

 そうして葵の謎解きは進んでゆく。

 

 

 


 

 

 

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