【短編】幼馴染がチャラ男に寝取られたことをビデオレターで知ったけど、その動画が違う意味でもマ゙/″ひ″っ<丶)だった話

八木耳木兎(やぎ みみずく)

【短編】幼馴染がチャラ男に寝取られたことをビデオレターで知ったけど、その動画が違う意味でもマ゙/″ひ″っ<丶)だった話






『ウェーイ! オタク君、見てる~~?? キミの彼女、今俺のベッドで寝てまーす!!!』

「なん、だよ……これ」





 差出人不明のUSBに保存されていたその動画に、俺は呆然とするしかなかった。


 



『ごめんね、れん君……でも田中センパイ、すっごくいいんだ……♡』

『だってさァ!!! ギャハハハハハハハハハ!!!!』

「これ、千代、だよな……???」




 PC越しに見る認めたくない現実に、俺はただただ震えることしかできなかった。

 あまりにも突然のことに、思考が混乱している。

 だが、間違いなく言えること。

 それは、幼稚園以来兄妹のように仲良しで中学に入ってからは彼女にもなってくれた俺の幼馴染―――山田やまだ千代ちよが。

 俺の知らぬ間に、別の男―――悪いうわさしか聞かない高校の先輩・田中たなかしげるの女になっていたということだった。







 幼馴染と過ごした10年が、ほぼ見ず知らずの先輩にいともあっさりと打ち砕かれた事実。 

 動画が始ってまだ10秒ちょっとにもかかわらず、早くもどす黒い絶望が、俺の脳を支配していた。








 しかし、その動画はまだそこで終わりではなかった。







『いやー、アイツに千代の写真を見せてもらって正解だったぜぇ……あ、俺、さえないオタク君と違ってさァ、顔が広いからセフレのギャルが沢山いるわけ。で、ある晩に千代の写真を見せてくれたのが、俺のセフレ1号ギャルの、【まべこ】だったわけ』

「……」







『その後俺、千代についての情報を探ってさぁ、こりゃあ彼氏いようが俺の門にするしかねーなって思ったんだけど、その時情報をくれたのが、オタク君と同じクラスにいた、セフレ2号ギャルの、【のぼっぺ】だったわけよ』

「……」









『そんなこんなで、俺を彼女に紹介する仲介役を担ってくれたのが、千代と同じ部活にいる、セフレ3号ギャルの【みどちゃぱ】だったワケ』

「……」









『センパイ、あの娘のことも忘れちゃダメですよぉ。あの時いいデート場所を紹介してくれた、後輩君のセフレギャルの、【らりもっも】さんも♡』

「……」








『この娘、誘ったらその気になってくれたからさァ。速攻でホテル行って、今こうやって寝取ってるってわけさ。その時このホテルの一室を予約してくれたのが、ここの管理人相手にパパ活してる、先輩ギャルの【らじょじょげげ】サンだったワケ』

「…………」








『ムードを盛り上げるための最高のクラブを紹介してくれた影の立役者が、センパイのいとこギャルの【な】さんでしたねェ♡』

「…………」






『つーわけでオタク君、今回の件でやっぱり持つべきもんはセフレのギャルトモだって再認識したわけよ俺……疎遠ギャルだったにも、今度久々に付き合ってやんねーとなァ。【ドブみふぁどーなっつ】や【ふぉるてぃぴぴぴぴ】や【すぃっすぃっすんすんすーん】たちにもよォ。あ、そうだ、千代』

「…………」










『来週さァ、ツレとギャルを沢山呼んでパーティしてようって話になってるわけ。何人かに声かけてるんだけどさァ、この際大々的にやろうってことで、雑誌にも載ってるような超カリスマギャルを大勢呼ぼうってプラン立ててんの。候補に挙げてるギャル、数名教えてやろーか? 【てょこてょこはんとう】に【ぐりぐりぼんぼん】に【デヴィッド・ボウイ】に【ぐーちょこものらん】……どうだ、雑誌にも載ってるイケイケカリスマギャルばかりだろォ?』

『わァ♡ そんなすごいメンバー集められるなんてセンパイ素敵ですゥ♡』

『もちろんその夜はなし崩し的にホテルへ行ってド派手にヤル予定だァ!!! 楽しみにしとけよォ!!! ギャハハハハハハハハハ!!!』

『ステキィ♡ 一生ついていきますゥ♡』

「…………」






 そこで、動画の再生時間は終了した。









「………………………………………………………………………………………………………………………………………………う……」








 それから十秒ほどの沈黙。








「……うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」








 そう絶叫してから数十分のことは、よく覚えていない。

 気がついたら目の前にあったのは、無惨に破壊されたPCだった。

 それだけ、俺の情緒も、理性も、行き場のない衝撃によって吹き飛ばされていた、ということだ。







「なんで、なんで……!!!」





 

 一通り暴走しても、突然の理不尽に対する俺の衝撃は収まることがなかった。

 それだけ俺の頭の中は、そのことへの衝撃でいっぱいだったのだ。














「なんでギャルの名前は、聞き取りづらいし覚えづらいんだッッッッッ……!!!」










 その前衛性にあふれる名前の数々に、俺はただただマ゙/″ひ″っ<丶)まじびっくりだった。










             (ひとりギャルどころじゃないカリスマいた気がするし……)













◆   三年後   ◆









「断る」

「うぅっ……!!」






 幼馴染の千代の頼みを、俺は一蹴した。

 わざわざ俺の大学前のカフェに来てくれたのに申し訳ないが、だからってさっき彼女が言った頼みを承諾するかというとNOだ。






「よりを戻そうと言われても、俺はもう君とは関わりたくないんだ。ごめんな、千代…………いや」





 

 今の恋人経由で、ここいら界隈のギャルの名前は嫌でも覚える。

 ダメな男になびいてしまった、俺の元カノ兼、現ビッチギャルの名前も。






「……【おてゃてゃちょちょ】さんだったかな? 今は」

「も、もうその名前は捨てたの! ……ねェ、お願い、蓮君……もう一度チャンスを頂戴? また昔みたいに仲良くやろうよ!」

「その昔の思い出を汚したのは、君自身だろ」






 昔と全く変わらないあだ名で、俺のことを呼んで来る千代。

 はたから見れば微笑ましい光景なのかもしれないが、その事実に俺は反吐が出ていた。







 確かに幼稚園の頃の俺たちは、実の兄と妹のように仲が良かった。

 中学に入って、異性として意識し合い始めた結果、付き合うことにもなった。






 


 だが、そんな関係も、あの日すべて打ち砕かれた。

 高一の夏の日、USBの動画越しに田中先輩と寝ている彼女を見た、その日に。

 そう、あの日俺は彼女を寝取られ、彼女は俺を裏切ったのだ。






「大体君には、あのチャラ男の田中先輩がいるじゃないか。あの人のセフレ何号かを続ければいい」

「蓮君も知ってるでしょ……あの人は最低のクズだったのよ! だから麻薬の密売に関わって捕まっちゃったのよ!!」

「三年付き合っておいて、彼を庇う気もないのか。俺のこともそんな風に裏切ったわけだな」

「そ、それは……」





 一度裏切ったとはいえ、仮にも幼稚園からの幼馴染と喋るには緊張しすぎていた。

 田中先輩が逮捕された時、同時に彼のセフレギャルも大勢逮捕された。

 恐らく、彼女も法の網に引っかかるようなことをしたのだろう。興味ないけど。






「あ」

 カフェの窓の外で最先端の流行ファッションに身を包み、行き交う人々の視線を受けるギャルの姿を確認した俺は、席を立った。

 今日俺がこのカフェにいた理由も、彼女とのデートだった。







「待ってた人が来た。じゃあな、【おてゃてゃちょちょ】さん」

「行かないで……レン君……うぅ……」





 崩れ落ちる千代……いや、尻軽ギャルの【おてゃてゃちょちょ】から目を背け、俺は目の前で手を振る彼女の方に向き直った。





「おまたせー、レン君! 遅くなってごめんね!!」

「全然!! 今来たとこだよ。……あれ? 化粧の感じ変えた? 俺今日のキミの感じ好きかも!!」

「気づいてくれるんだ、やさしー! レン君のそーいうところ、大好きだよっ☆」

「うんっ、俺もキミのこと大好き。じゃ、行こうか!」




 一度恋愛で痛い目を見た俺だが、色々あって今は元気でやっている。

 彼女のお蔭で、今の俺は前を向いて生きていけるのだ。

 だから今この人生は、過去のことなど忘れて、この娘と共に歩んで行こうと思う。






 人気ギャル雑誌の【次来るギャル総選挙】第1位に選ばれた、この娘と。

 去年【じぎぃすたぁだすと】(三年前の田中先輩の誘いを断ったカリスマギャル。最近改名)さんに紹介してもらった、この娘と。

 俺の映画趣味を理解してくれた、心優しいこの娘と。






 そう思って、俺は彼女の名を呼んだ。

 もちろん、今の彼女のアイデンティティたる、ギャルとしての通称で。












「【もじょじょっじょぽきぽきぽきらららもーじぬぬぬまーじろろぼっぼごごにゃっにゃきゃるきゃるきゃるーびってぃこんこんるじんじんむむむむむむむむなむむむむむむむやまちゃんはがきのつかいをやめへんでーるぽぽっぽるぽぽっぽまんでゅーまんでゅーむっくりむっくりぞっこんぞっこんおおこうちでんじろうにどろっぷきっくされたうえにあらしかんじゅろうにじゃーまんすーぷれっくすされるんるん】ちゃん!」

「うんっ!」





◆   ◆   ◆




 ヴー……ヴー……




「あ、電話だ。ごめんね【もじょじょっじょぽきぽきぽきらららもーじぬぬぬまーじろろぼっぼごごにゃっにゃきゃるきゃるきゃるーびってぃこんこんるじんじんむむむむむむむむなむむむむむむむやまちゃんはがきのつかいをやめへんでーるぽぽっぽるぽぽっぽまんでゅーまんでゅーむっくりむっくりぞっこんぞっこんおおこうちでんじろうにどろっぷきっくされたうえにあらしかんじゅろうにじゃーまんすーぷれっくすされるんるん】ちゃん、ちょっと待ってて」

「うん」




 ピ。




「はい、東京名物とうきょうめいぶつ大神本舗おおがみほんぽ大紅蓮氷輪丸だいぐれんひょうりんまる体脂肪率たいしぼうりつ一割八分九厘いちわりはちぶくりん齊齊哈爾齊齊哈爾だぶるちちはる津々浦々つつうらうら仕舞弘法しまいこうぼう伴淳ばんじゅん羅門光三之らもんこうざぶの足四字固あしよんのじがため成龍元彪洪金寶ごーるでんとりお一日一本養命酒いちにちいっぽんようめいしゅ勉強引越べんきょうひっこしさかい奈良健康庭園ならけんこうらんど旅館新淡路ほてるにゅーあわじ全員円竹本洋琴みんなまるくたけもとぴあの尾鞠曰甲子園無駐車場こうしえんにちゅうしゃじょうはありまへん阪神電車最善はんしんでんしゃがいちばんやばいおまりー雪之丞闇太郎ゆきのじょうやみたろうざきれんですけどー?」

「……」




◆   ◆   ◆




「はい。はい、どうもー………ピッ………おまたせ、【もじょじょっじょぽきぽきぽきらららもーじぬぬぬまーじろろぼっぼごごにゃっにゃきゃるきゃるきゃるーびってぃこんこんるじんじんむむむむむむむむなむむむむむむむやまちゃんはがきのつかいをやめへんでーるぽぽっぽるぽぽっぽまんでゅーまんでゅーむっくりむっくりぞっこんぞっこんおおこうちでんじろうにどろっぷきっくされたうえにあらしかんじゅろうにじゃーまんすーぷれっくすされるんるん】ちゃん。……何? 何か気になる?」

「……レン君の本名、ヘンなのー」

「……そうかな? 同じ苗字の奴ゼミに六人いるけど」

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