新しい仲間たち

驚きすぎて、もはや記憶は曖昧。


だから改ざん。

突然のことに、恐らく可愛さのかけらもない表情で呆けた私は無かったことにして、あまーーーーい思い出に変換。

きっと私は漫画みたいにウルキュル可愛い顔をしていたはず。顔の半分目みたいな。

思い出はより美しく。


それにしても、あんな所でいきなりなんて…

ニヤニヤニヤニヤ

思い出し中

ニヤニヤニヤニヤ


「おい」


ニヤニヤニヤニヤ


バチコーーン!

「痛っ!」

「何周やるんだよ!」

午前中の補習授業が終わり、午後からの練習は只今バッティング中。

「パワハラ!」

八代さんからケツバットを食らった。

「書いてあるじゃん!」

メニューの書いてあるベンチを指すと、今度はグリグリとバッドでドリルされる。

「口答えすんな」

「八代はかなに言ってもらいたいんだと」

山下さんがバットを取り上げる。

「かなちゃんの声に癒されるって言ってたもんね」

「新見、デタラメ言ってんじゃねぇ」


「シートノック準備して〜!」


なんだか久々にのどかな普通の練習やってる気がする。

と言っても、あまりのどかにやってる場合でもない。

すぐに春季の九州大会がある。

「ランナー付けてやるから」

「うぃーっす」

「かな〜監督は?」

「まだ来てない!私打つよ!」

ホームの脇で素振りをして気持ちを高める。

ブンッ!

ブンッ!

「貸せ」

八代さんが私の手からバットを取る。

「え、いいですよ

 八代さんは練習して」

「普段やんねぇことやって怪我したらどうすんだよ」

ケツバットする人が何を。

ホント私のこと好きなんだから。

「始めていい~?!」

「「「うぃー!」」」

「満塁ね!」

「いきなり満塁か」

「八代さん、スイングと見せかけてバントね」コソコソ

「ノックでそれむずいんですけど」


こんな普通の練習風景を見学しているギャラリーが増えた。

偉業の連覇を成し遂げた今、きっと世間のうちに対する見方や期待は大きくなったと思われる。

選手たちの感じるプレッシャーはどれほどだろう。

それを想像すると、私まで押しつぶされそうになる。

私に支えられるのかな。




「ん?」



ギャラリーの中から、グラウンドに入ってくる人影が見えた。


キィーーン


誰だろ。来客の予定はなかったけど。


「おい球」

八代さんの手がボールを催促する。

「自分でやってて!」

「ちょ!どこ行くんだよ!」


あの後ろ姿は…



「晃!おおくん!」



振り向いた二人の顔に、一気に笑顔が咲く。


「「かなさん!」」


二人は中学の一つ下の後輩。

青藍に入学が決まっていた。

「待ってたよ〜!」

「会いたかったかなさん!」

おおくんが抱きついてくる。

晃は笑ってるだけ。

「晃、背のびたね〜」

「かなさん俺も伸びたよ!」

「おおくんは相変わらず可愛い〜」

「は?」

「ちょー嬉しい!可愛い子たちが来てくれて!

 中入る?監督はまだだけど中で見ていいよ!」

「え、練習入れないの?」

「入れないよ、入学まで」

「まじ?聞いてない」

「連絡してから来ればいいじゃん」

「涼太さんに聞いたら来ていいって」

「そりゃ来てはいいけど」

「じゃあ何しに来たんだ俺ら」


「おや?」


再会に喜びすぎて気づかなかった。


「みんな入部希望?」


背後で待っていたのは、バラバラなチーム名の入ったジャージを着た男子たち。

「「「しゃーーっす」」」

「え、たまたま居合わせたの?

 それとももう仲良しなの?」

「面接の時にグループ作った」

うちは入学式まで練習に参加出来ない事になっている。

推薦で決まった子たちにはお知らせが行ってるはずなんだけど。

「じゃあ親睦会でもやる?」

「やるやる〜」

「あっちでいいよ

 ブルーシート出そうか?」

なんか一年前を思い出すな。

知らない人たち同士で、私たちもよそよそしかったっけ。

「親睦会の皆さんご案内しまーす」


「あ…あの!」


ん?

わ!可愛い!

おおくんレベルの可愛いボーイが存在するなんて!

でも…

「あ、かなさんこの人」

「待って…誰かに似てる」

「だから」


「た…た…」


恥ずかしそうに顔真っ赤のもじもじ。


「た?たこ焼き?」

「たこ焼きってなんすか」


「田沢勘次です!よろしくお願いします!

 あ…じゃなくて兄ちゃんがお世話に…!

 あ、いや!よろしくお願いします!」


「え?」

「去年のキャプテンのさ〜」

「え、田沢さん?

 なんなら昨日まで一緒だったけど」

「弟なんだって」


そう言われてみると


「ホントだ〜!可愛い田沢さんだ!

 うそ〜可愛い!小さいし!」


「かなさん、それ男子に言っちゃダメなやつです」


一つ下の後輩になる、これから一緒に連覇を目指す新しいメンバーとの出会いだった。

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