【03】ジャングル商店街

 あゆきちと一緒に商店街に向かう。

 アーケードつきの商店街の入り口――七十周年記念モニュメントの前に到着したとき、異様なものが目に入った。

 わたしとあゆきちは、思わず目を剥いた。

 モニュメントの周りに、もっさりと木が生えていたのだ。さらに、もさもさの茂みは、商店街の入り口をすっかり塞いでしまっていた。なんだか、ちょっとした熱帯雨林みたいになっている。

「ええっ、何これ! どこのアマゾンやねん!」

 エセ関西弁でつっこむあゆきち。

 わたしも茫然自失としつつ、ぼそりとあゆきちにたずねる。

「……これでも、プリクラ撮るの? 撮るんだったら、こん中に入っていかなきゃいけないよね……?」

「うーん」

 あゆきちは首を少しだけひねると、

「まあ、いいんじゃない、ちょっとした冒険だと思えば。ジョーンズ博士的な、ドリトル先生的な、そういう感じのノリで」

 などと、実にいい加減なことをいった。

 まったく、あゆきちというヤツは……わたしは、心の中で溜息(でもまあ、あゆきちのこういうところが好きだから、仲良くしてるんだけどね)。

「じゃあ、早速いってみるか。中、どうなってるか判んないけど」

「中もジャングルみたいになってるんじゃない? たぶん」

「そうかなあ」

 わたしはそういうと、テールグリーンの葉っぱの群れを両手でかき分けて、商店街の中へと、一歩足を踏み入れた。

 あゆきちも、ルーズソックスをはいている足をけんめいに動かして、わたしに続く。

 なんとか中に入って、きょろきょろと辺りを見回す。

 すると、商店街の内部はあゆきちの予想通りで、見たこともない南国っぽい植物で溢れかえっていた。

 おまけに、コガネムシみたいなてかてかした虫まで飛んでいるという始末。

 コガネムシを横目で見やりながら、耳を澄ませてみると、遠くから「ふぉっふぉっふぉっ」という何かの鳴き声が聞こえた。サルとか鳥とか、そんなところかもしれない。

 このごった返す生き物たちのそばを、このぺこぺこのスニーカーで歩いていかなければならないのだ。すこし、いやかなり、心もとない。

 わたしはすこし絶望しながら、あゆきちにきく。

「……ゲームセンターまで、どのくらいかかるっけ」

「歩いて七分くらい、だと思う」

「七分……」

 と、ぼやくと、わたしの頭の中に某元サッカー選手が飛び出してきて、「七分ぬぁぬぁふん!」とエネルギッシュに叫んだ。

 わたしとあゆきちは、緑に覆われた建物の前を進んだ。あゆきちは辺りをきょろきょろ眺めながら、「あれは占いの館でしょ。あれは八百屋さんかな?」とかいって、ひとりでクイズを楽しんでいる。

 楽しそうなので、わたしも参加してみる。

「あれパン屋さんかな?」

「え、違うでしょ。あれは理髪店コバヤシだって」

「いやいや、パン屋と理髪店間違えることなくない?」

「あー!」

 あ、話そらした。

「見てあれ、ゲーセンじゃない? ほら、点滅してるとこ」

 あゆきちが指で示す先には、微妙に発光している茂みがあった。白、赤、青、と光は時間の経過とともに色を変えていっている。植物に埋もれているものの、どうやら、ゲームセンターの照明でまちがいないようだ。

 わたしたちはゲームセンター(と思しき植物まみれのお店)に駆け寄った。

 植物と額をぶつけそうな距離まで近づきながら、あゆきちがいう。

「……これ、やってるの?」

「やって……るんじゃないかな。まあ、入ってみないと判んないよ」

「うむ、それもそうだな」

 あゆきちがわたしのことばに頷いて、植物をざっとかき分けて、ゲームセンター(と、思しき……以下略!)の中に入っていく。わたしも彼女の後を追う。

 ゲームセンターに入ると、中は思ったよりクーラーが利いていて涼しかった。全身の汗がすうっと引いていく。流石は文明の利器、というべきか。

 店員さんはいないのに、ゲーム機は依然として動き続けていた。

「お、ストファイあるじゃん。ゆみてぃ、やる?」

 といいつつ、あゆきちはいつもみたいに、ストリートファイターのゲームの筐体の前に座って、お財布から硬貨を取り出している。めちゃくちゃやる気に満ち溢れているようだ。

 わたしはというと、ちょっと渋った。

「え~、いいのかな、やっても。人いないじゃん」

「お金入れたらだいじょうぶなんじゃない?」

 確かに、それもそうだ。

 わたしはあゆきちの誘いに乗って、ストリートファイターで遊ぶことにした。

 ……結果は、わたしの圧勝。

「あゆきち、相変わらずストファイ下手だよね……」

「まあまあまあ、今度から本気出すから、ってか道草食ってる場合じゃないよ。プリクラ撮ろ、ねっ」

 ……「道草いらんかね?」と道草を食うことを進めてきたのは、あゆきちなんだけどな……と、わたしは心の中でちょっとつっこむ。

 わたしとあゆきちは、プリクラ機の前でじゃんけん。

 プリクラの一回分の価格は五〇〇円。だから、二人で楽しむときは、どちらかが三〇〇円、もう片方が二〇〇円負担する、という形を取らなければならない。

「じゃん負けが三〇〇円ね」

「どんとこい!」

「「最初はぐーっ、じゃんけん、」」

 大きく腕をふりかぶる。

 さあ、何を出そうか。よし、決めた。わたしはグーが好きだから、グーを出そう。

「「ぽん!」」

 わたしは、グー。

 あゆきちは、パー。

 勝負の結果を見たわたしは、「ぬ~!」と頭を抱えた。

 というわけで、わたしが三〇〇円、あゆきちが二〇〇円をプリクラ機に投入。早速プリクラ撮影が始まった。

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