第3話
あれ? 私なにしていたんだっけ?
目を開けると、目の前にはカットした誕生日ケーキがあった。まだ、一口も食べていない。
視線を上げるとパパとママ、そして二人の間に大地がいた。三人は私の顔を不安そうに見ている。
「どうしたの?」
思わず尋ねてから思い出す。私が家族であることを否定した目の前の三人を。
あれは夢だと思うとしても、中々頭から消えてくれない。
「……理央、さ、ケーキを食べよう」
「そうよ、せっかくパパが買ってきてくれたんだから」
「お姉ちゃん、食べよ」
何事も無かったようにいう三人。さっきまでのは何だったんだろう。
「うん……」
三人はケーキを食べ始める。私も一口ケーキを口に運んだ。
ほのかに広がる甘ったるい生クリームの味。おいしいけどおいしくない。私が三人に目を向けると、全員がさっと笑顔になる。
「ねえ、……おかしくない? 私になんか隠してる?」
「なにがだ、理央。なにもおかしいことなんかないぞ?」
「そうだよ、お姉ちゃん」
「私にも分からないわ」
やっぱりおかしい。
みんなの目と口からは私に愛を感じない。ずっと警戒されてる。
「変な事聞くんだけどさ……」
イチゴを頬張る。甘酸っぱい味が口内に広がった。
「私は大地のお姉ちゃんだよね?」
「当たり前じゃないか」
「そうだよ」
「どうしたの、理央。当たり前でしょ?」
気味が悪い。本人達は気が付いていないかもしれないが、言葉に感情が乗っていない気がする。つまり嘘っぽい。
一体、なんなのだ。
「なんか、嫌だな……」
ぶつん。
ハッとして顔を上げると、全員が私を見ていた。満面の笑顔だ。でも、目が笑っていない。
一体、なんなのだ。今日は私の誕生日なのに、なんでこんな変な事ばかり起こるんだろう。
「三人ともどうしたの?」
「……どうもしてないぞ? ……理央、愛してる」
「僕も」
「私も」
微動だにしないまま三人は言う。
一体なんなの。まるでロボットだ。私が愛した家族はこんなんじゃない。
私を愛してくれていた人達じゃないよっ。
ぶつん。
変だ。おかしい。嫌だっ。
ぶつん。
まただ。こんなの私の家族じゃないっ。
ぶつん。
時間が途切れる。みんなおかしいが、私も変だ。なんでこんなに何回も意識が途切れるみたいな感じになるんだろう。
その度に、パパもママも大地もおかしくなっていっている気がする。
気持ちが悪い。
ぶつん。
なんなんだ今日は。何度も時間が途切れる。頭が霞がかってて重い。
「うあ……?」
呂律が上手く回らない。ぐらぐらする頭を持ち上げると、パパにママ、大地が私を見ていた。その目は血走っており、家族に向けるものではない。
「みんな?」
そう呟いた時だった。パパがテーブルにあったケーキを切るためのナイフを素早く手に取る。
さらにテーブルを乗り越えて、私目掛けてナイフを振り下ろしてきた。
私は椅子から転げ落ち、なんとか回避する。
「くそっ!」
パパは椅子を蹴り飛ばした。さらに襲って来ようとするパパから逃れようとする。
しかし、横から来たママと大地に腕や足を抑えられ、床に縫い付けられてしまった。
「なんでっ、なんでこんなことするの!」
私が必死に叫んでも誰も答えない。
パパが私に馬乗りになり、ナイフを振り上げる。
なんでこんなことになってるの? みんな私を愛していたんじゃないの。どうして。
いやだ……。私を愛してくれない家族なんて嫌い。
こんな家族いらないっ。
「消えちゃえ!」
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