第2話
ゴールデンウィークも終盤。私は誕生日を迎えた。
パパはケーキとプレゼント携えて帰宅し、私のためのささやかな誕生日会が始まる。
夕食を終え、家族が囲むリビングテーブルにホールケーキが載せられた。真っ白な生クリームに赤いイチゴ。中央には「お誕生日おめでとう」と書かれたチョコレートのプレートがある。
私の誕生日ケーキだ。
「誕生日おめでとう、理央」
パパが穏やかな笑顔で言う。私は「パパありがとう」と笑顔で返した。
なんて愛されているんだろう。愛だけで今の私を満たしている。嬉しくてたまらない。
「理央、蝋燭立てる? もう十四歳だから年の分立てると、ちょっと多いけど……」
ママはテーブルに蝋燭を持って来ていた。十四本分の可愛らしい小さな蝋燭。
「やりたい。私は何歳になってもやるよ?」
「そう? それなら……」
ケーキに蝋燭を刺していく。さすがに十四本ともなると中々多い。そこへパパが火を点けて行った。
「電気消すわよー」
リビングの電気を消すと、ぼうっとケーキが浮かび上がる。
「さあ、理央。出番だぞ」
「うん!」
まるで小学生のように私は返事し、目一杯に蝋燭に息を吹きかける。何本も一気に消えた後、残ったものを一つずつ丁寧に消していった。
ママがまた電気を点けると、パパが丁寧にカットしていく。
「――ねえ、パパ、ママ」
隣に座っている大地が窺うようにパパとママを見ていた。そういえば今日はまだ話していない。ずっと大人しい。
チラチラと私を見ながら大地が言う。
「変じゃない?」
「なにが変なんだ?」
パパは切り分けたケーキをみんな配りながら大地に訊いた。ママは大地の質問に首を傾げる。私も同じ思いだ。ここの所、大地の様子はおかしかったが、とうとう変になってしまったのだろうか。
大地はケーキに手を付けず、静かに告げる。
「うちに『お姉ちゃん』なんていないよね?」
リビングが静まる。あまりに荒唐無稽で、私は呆れを通り越して笑ってしまった。
「なに言ってるのー、大地。お姉ちゃんはここにいるじゃん。私が見えないの?」
「ち、違うよ。見えてるけど、僕には『お姉ちゃん』なんていない。それなのに、この前、急に家の中に出て来て……。誰なの?」
まだ言うか。ここまで来ると、子供の戯言にしても度が過ぎる。
「大地、言って良いことと悪いことがあるわよ?」
ママが嗜めるように言う。
「そうだぞ? 二人ともパパとママの子供なんだから。間違っても『お姉ちゃん』がいないなんて言うんじゃない」
「パパもママもなに言ってるの? 『お姉ちゃん』なんていないって! 思い出してよ!」
駄目だ、完全におかしくなっている。なんでだろう。私、大地になにかしただろうか。
「大地? ……
パパの呼び掛けにママは無反応だった。ただ、一心に私を見ている。なにかを見通そうとしている。
「舞?」
「ママ……?」
「違う……、あなた、誰?」
「え?」
「そうよ、なんで気付かなかったのよ。私の子供は一人だけ。大地だけなのに、なんで……」
「お、おい、舞まで何言い出すんだ。しっかりしてくれ」
ママの肩を掴む。
「よく考えて、俊くん。私達の家に『理央』なんて子供のものは一つもないわ」
「なに言ってるんだ、そんなはず……、いや……」
パパは黙り込んだ。そして、私を見る。
「……なんで何も言わないの?」
「理央……、りお?」
いやだ、怖い。私はパパとママの子供で、大地のお姉ちゃんなのに。それ以外の何者でもないはずだ。
なんでそんな恐ろしいものを見るような目で私を見るの?
「いやだ、いやだいやだ!」
大声を出した瞬間、電気が切れるように突然目の前が真っ暗になった。
ぶつん。
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