別紙7-②

 うん、それで。はい。身代わりの話ね。というか、途中から気付かなかったのかい、アンタ。

 あぁ、いや、気がついてはいたんだね。だからこれを題材に選んだわけだ。

 骨。骨の話だ。あれは骨を欲しがっている。主に、子どもの、弱い生き物の骨だ。

 子どもが、うんいや俺も餓鬼だけども。来年にはもう範疇にならなくなるから、良いんだよ。

 子どもの骨を奪われないための、決まりのようなものが、昔から【不明】にあった。

 つってもな、ここ数十年らしいんだよ、そういうのは。そもそも【不明】は仏教だか密教だかの独自宗派ということになっている。元々は違うらしいけどな。いや知らねえよ。俺が作ったわけでもなし。まあ、話くらいは聞いてるけどね。

 と言うのもだ。昔はこの辺りに人間は少なかったわけだし、それに、生活に必要な狩猟と儀式があった。わかるかい、骨を供物にする別の儀式があったんだ。それが理にかなっていた、と言うべきか、それか、それがあったから辛うじてこの辺りで少なくも人間が生きていられたと思うべきか。そのどちらであろうか、というのは、■姉ちゃんが色々言ってたっけ。何処かで会う機会があったら聞いてみてくれよ。

 だがこの百年、生活が変わっただろう。屠殺漁獲はあれどもその骨を奉り流す儀式はとっくに廃れている。

 すると、餓えたらしい。何がとは言わないよ。俺も知らねえもん。名前をつけていないのか、それとも呼ぶべきではないのか、名を掻き消そうとしている最中なのか。わからないが、良い、わからなくて良いンだと思う。

 それで、まあ、餓えた生き物がどんな手に出るかは、柿本先生も北海道に住んでいる人間なんだからわかるだろ。熊と同じさ。今まで手を付けていなかったものに手を付け始める。もう少し言い方を変えるのであれば、今まではリスクが高いと思って対象外だった存在を、繰り上げて捕食の対象にし始めるわけだ。

 すると、どうだ。手を出してみたら、無抵抗で、一回でそれなりの量がある、素晴らしい食料だったわけだ。

 アイツはもうこっちを一番良い飯だと思っているらしい。厄介なのは熊と違って、奴は駆除出来ないってところだ。しかも頭が良い。大人に手を出すよりも子どもの方がよっぽど無抵抗で芋づる式に腹に放り込める奴はいないとわかってしまった。

 子どもが集まるところと言えば何処だ。そうだ学校だよ。奴、学校を狙って食事場所にしている。それでも時々零れたやつを拾い上げて腹に入れることもある。そういうことだよ。

 でもまあ、その学校という施設を管理するのは所詮教員だ。大人なんだ。しかも、学校というものには、法律とは別の、子ども達のためと言えばいくらでも書き換えることが出来る規則がある。

 傘ジジイは上手くやったよ。学校に集まる子どもを狙うのなら、その学校で奴への儀式を日常的にやらせれば良い。

 それがあの校則達、ということらしい。まあ色々と変わっちまってる部分もあるがな。根幹は同じ。

 子どもの骨に手を出される前に、別の要らない骨を口に放り込んでやって、腹を満たしてやる。それが身代わりという意味だ。

 四足動物、傘、メダカ。理解出来ない程あんたも馬鹿じゃ在るまい。

 他は俺もわからねえし知らねえよ。どうも、あの人が作った以外の校則が混じってる。似たような考え方だろうけど、だが決定的に違うから。

 でも全部あの人のせいにすれば良い。死んでる人間のことくらい上手く利用してやれば良いさ。あの人もそれが本望だろう。

 で、アンタはそれを掘り返そうってわけだけど、どうする。続けるか、この話。

 これからまた儀式は変遷していくぞ。アンタが隠そうが外に出そうが何も変わらない。変わる必要がないからだ。俺の言葉をそのまま外に出したところで餓鬼の戯言か、フィクションか何かだと思われるのがオチだよ。だってそうだろ、俺は流暢に、あけすけに話しすぎている。まるで考えられた台詞をべらべらと喋らせているように、そう見えるんじゃないか。まあ実際どうかは、録音したやつを聞いてみれば良い。だが、ヒト前にそういうものとしてお出しするものとしては、このマイクは上等すぎるな。

 はは、それで、石塔の煙草の話をしてやろうか。研究としてはこっちを語っておいた方がカッコウがつくというものだろう。

 一応言っておくけど俺だってあんな臭いもん好きで吸ってるわけじゃねえよ。本当だったら、先生の誰かがやるべきなんだ。でもまあ、そういうの出来るヒトがいなくなっちまったからさ。

 下手にそういう話囓っていれば、煙草の煙が何のために捧げられるかはわかるだろう。線香でも良いと思う奴らもいるだろう。良いんだよ、あれが死人に向けたものであればな。だが奴さんは死んじゃいない。死んだ者でないものに、線香など手向けて何になる。煙だからと言って全てが追悼のそれだと思っているならお勉強が足りないというものだ。

 まあ、要するに、魔除けなんだよ、あれ。少なくとも、ちらほら見える細かい奴らが横取りしないようにするためのな。

 学校で決められているモノの中には、魔除けとしての機能もある。それこそ理不尽だと思うモノの殆どはそういうものだ。ポニーテールが、とか、スカート丈が、とか。あとは中途半端に悪ぶって履く柄物の靴下とか、ピアスとかな。ああいうちょっとはみ出してみましたみたいなやつは、本当にヤバい奴には良い鴨の印だ。だから校則は魔除けなんだ。守っていればとりあえず、少なくとも、本当にやべーのは近づいてこない。問題なのは、中途半端に守ったり破ったり反抗することだ。自分は周りが見えていませんと物語っているようなモノだからな。

 ん、いや。これは俺の考えじゃねえよ。■姉ちゃんの考え。あははは。

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