別紙7-③
魔除け、という意味では、小学校の方に多い校則があるだろう。ほら、犬の話さ。あとは、中学の方にある梅干しの話。梅干しの方が中学にしかないのは、小学校では給食が出るからだな。一度、調べてみると良い。あの手この手で給食に必ず梅干しが入っているというのは、すぐにわかるはずだ。
これは俺が別の人間に聞いたことだが、酸味のあるものは魔除けになるらしいね。それと犬もまた魔除けだ。これに限っては【不明】の考えではないが、どうも手当たり次第に魔除けになるものを取り入れた連中がいるらしい。傘ジジイが引き入れたのか、それとも別の人間かは俺の知ったことじゃない。
ただ、どうも、少し。こんなに校則ばかりだというのも変な気がしているんだ、俺も。
言っただろ、俺だって別に全部の校則について由来を知っているわけじゃない。ごくごく少し。最初の方にあったものばかりだ。俺は【不明】のとこの出だから、それ以外についてはとんと教わっていない。実際、違う考え方の連中がいるのは事実だろうし、今でもおそらくこの町に住んでいるだろうことは、何となく知っている。
だからと言って関わり合いにはなりたくないね。面倒だ。
何が面倒だって。うん、まあ、信仰が違うってのは会話が噛み合わないってことと同義だからね。成立しない会話ほど苦痛なものはない。ならば最初から近寄らない方が健全というものだろう。
あちらさんだって同じ考えだろうぜ。じゃなければ、傘ジジイに便乗して密やかに理不尽な校則を紛れ込ませるなんてことしやしない。
まあ、あちらさんと言ってはいるが、一つとは限らないし。
人間が住んでいると言うことはそういうことだ。この辺りなんか、特に開拓地の類いだろう。色んな背景の人間が集まっている。結果として、今の状態があって、とりあえず、辛うじて、なんとか大きい人死には出ていないのだから、まあ、良いんだよ。良いんだ。
アンタもあんまり気にしすぎないことだ。状態が保てている、ということは、ある程度の余裕があるということだ。
校則が理不尽だとか、変えようとか考えていられる間は、平和だということ。
必要性が知れ渡ったときこそ、それは、あってはいけないことが降りかかっているということだ。
うん、うん。俺は俺のしないといけないことをするだけだよ。
それで、うん。まあ、それのせいで●●は確かにうざったいけどさ、良いんじゃないか。アイツ、東京の大学に行きたいんだろう。殊勝なことだ。まあ偏差値だとか気にしなければ、東京にも沢山学校はあるんだろ。俺は東京なんかに出る気は無いよ。精々札幌か、東北の何処かかな。うん、いややりたいことがあれば東京にも行くけどさ。今のところそういうのはないよ。●●は向上心があるだけ良いよ。頭がついていってないけど、まあ周りより少し遅いだけだろ。俺は母ちゃんがこう、喋るような人だからさ。俺もこうやって喋っちまうってだけ。あと婆ちゃんもね。
傘ジジイのせいかな。大人びた言葉を使いなさい、大人のように語りなさいと言われて矯正されたところはあると思う。
うーん。やっぱり子どもであるのはあまり好ましくない。
たとえ子どもであることだけが理由じゃなかったとしても、要素としてそれを要するのであれば、掻き消していく方が良い。
背伸びをするくらいが丁度良い。だが、ルールは守るべきだ。敷かれたルールを守っていれば、何も考えずとも身は守れる。ルールから逸脱するのであれば、自分の身は自分で守るのだという責任が伴う。そういうものだろ。
●●みたいなのは、悪くないんだ。そのうち大人になるよ。頭もね。身体だけ大人であれば良いというモノでもない。
ほら、何だったかな。去年か一昨年。どっかの小学校に旦那と一緒に乗りこんだ母親。あれ、海で死んだだろう。窒息死ということになっているやつ。うん、何だ、もう話聞いてるのか。
なあ、あれ、なんで窒息死だと思う。溺死じゃないんだ、窒息死。
あんた理科の免許とるんだろう。じゃあわかるだろ。
あ、鰓呼吸の話しか知らねえか、水産の学生だもんな。
息を吸ってみろ。深呼吸だ。肺を空気で満たせ。
では、その肺を膨らませるのは、一体なんだ。何が動いて肺が動く。
骨がなくなるということは、そういうことだ。
知っているか。骨の無い生き物のぶよぶよになった脂質タンパク質の塊は、なんというか、捨てられた着ぐるみみたいで、ちょっと気色悪いんだぜ。
あははははは。まあ、そういうもんさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます