別紙7-①
へえ、面白いっすねこういうの。
うん、初めて見た。電気屋とか、網走に行かないと無いし。うん、ゲームとかはあんまりやらないし、イヤホンについてるマイクだったらわかるかなってくらい。
うん、それで、はい。校則の話と、あとは石塔に供えてる煙草の話。
どちらかっていうと後者の方を聞きたいんじゃないの、柿本先生。
うーん、まあ、とりあえず、校則の方先で良いかな。てか、同時に石塔の話もできるやつあるけど、その方が需要ありそう。あ、いいね、おっけーです。
うちの中学で変な校則と言えば、過失で四足動物を殺した場合の決まりかな。ほら、二〇個くらいに切り分けて町に埋めろってやつ。
あれ、うちの家が発端ね。
あ、言ってませんでしたっけ。うちね、傘ジジイの親戚。あの爺さんが住んでた家、今うちの畑になってるよ。カボチャやってる。良い土なんだよ。カルシウムが豊富らしいですよ、理科の先生が言ってましたけど。
それで、話を戻しますけど、あの切り分けて埋めるやつな。あれ、まあ、大体分かってると思うけど、生贄というか、代替品としての役割だよね。身代わりって言うの。
あれ、柿本先生、そういうの調べに来てたんじゃないんですか。だってそうでしょ。そういう顔してる。
アンタみたいな若くて、教育学部でもないのに熱心にこういう研究ごっこしてる奴なんざ、本気で校則のこと考えて周りに訴えかけようって気持ちで中学生坊主にインタビューなんかしに来ないだろ。もしも本気だとしたら、真面目に校則について考察して何か教育の研究をしたいなんて思ってる奴だとしたら、学生同士での居場所がないか何かでしょ。教育実習の時自分で言ってたじゃん。水産の学生ですって。だから理科の担当ですって。で、アンタ今、四年生だろ。なんで四年生のくせに水産の卒研ほっぽり出してるんだい。
つまりは、アンタ、水産の方に飽きてるか、結果が出なくて教職の講師か何かに泣きついたんだろう。
うん、いや、もしくは、四年になってもまだ遊び足りなくて、この辺のことを嗅ぎ回って、何処かインターネットか何かででも発表しようとしている。
もしくは、話を面白半分に加工でもして、創作物として発表しようとしている。
図星かな。どれだろ。全部だったりして。
ごめんごめん。揶揄いすぎた。
うん、それで、身代わりの死体の話だ。アンタ、こういう話好きだろ。ついでに●●の話もしてやる。そうすりゃ研究資料としては丁度良い案配なんじゃないかい。それで、気が向いたら●●にもう一度会ってくれや。まあ、今のところはまだどうにかなるぜ、アイツ。
で、何故二〇にも分けて町の中に満遍なく埋葬する必要があると思う。校則だとしても、こいつだけ異質すぎるってのは、アンタもわかっているところだろう。
傘を持ち歩くのはまだわかる。服装だって、都会にも行き過ぎた校則ってんで、似てようなものが存在はしている。犬を気にかけろってのも、動物愛護が行き過ぎてる名残みたいなもんだと思って目を潰れる。
だが、生き物に関する校則だけが異様だ。二〇に切り分けて、町の中に埋めろという。わざわざうちの中学にいたっては、人間のことも込みとして扱っている。つまり、生徒が人間を殺してしまう場合を想定しているってわけだ。
で、もう一つ、おかしな点がある。人間を含む以前に、四足動物に限定しているという点だ。メダカの生き埋めにしたってそうさ。この校則は、全て骨を持つ生き物を対象としている。
要するに、必要があるのは、生き物の骨を町の中にばらまくことなのさ。そして、メダカのような小動物を校庭に埋めるのは、ある程度各学校に濃度勾配をつけることで、安全性を高めるため。
うちの校舎裏の石塔はその最たるものだろう。よく目立つものだから、いつもあそこで殺しているよ。■姉ちゃんもよく考えたものだね。
あれ、気付かなかった。姉ちゃん、うちの家の人だよ。
なんだい、アンタ、俺達の家のこと、わかってて来たんじゃないのかい。
面白みのねえ奴だな。まだ溝口先生の方が色々楽しいぜ。会話が成り立つからな。
あー、永井のとこのあの女は駄目だ。あのおばさんは話にならない。自分の形作った神様だとかそういうものを、どうしても神聖なものとして扱いたいだけさ。地元愛などと宣っちゃいるが、要するに、断片を掬い上げて切り貼りして作ったわたしのさいきょうのかみさまを、世に残したいってだけだよ。だから老人達と、子ども達と、万能感に浸る学生に目を付けた。概ね、世界の真実ってやつに酔いしれることが出来るタイプの世代だ。自分の考えを刷り込める相手を選んでいるわけだ。どうせアンタもその被害者だろ。何だ、今初めて気付いたみたいな顔しやがって。だから馬鹿にされるんだよ、俺みたいなのに。
うん、うん、まあ、歴史に纏わる文書を編纂するということは、そういう側面もあるさ。今更気に病みなさんな。
あ。うん。
そりゃね、俺だって伊達に齢○じゃございませんよ。あ、笑ったな。うるせえくそ。十年と少ししか生きてない奴にこんだけ馬鹿にされてる大学四年生よりはマシだろう。
中二病などと言われちゃおしまいだがね。なら、やめるかい、この話。
うん、良いっすね。じゃあクリームソーダ追加で注文して良いですかね。
(呼び鈴を鳴らす音)
すみません、クリームソーダとココナッツサブレください。
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