別紙6

 ■さんの石塔。はい、あぁ、ありますね。学校の裏に。

 でもあれ、確か、■さんが成人してから建てたんですよ。動物供養の石塔です。ほら、馬頭観音っていうの。

 あははは。ごめん、ため口で良いかな。こういうの慣れないわ。うん、はい、インタビューね。わかってる。校則とか、そういうのの。で、うん、●●さんの話を聞いて、私に。うんうん。わかってる。

 そうだよね。■さんのこと、柿本くんも知ってるよね。今、元気にしてるかな。一応、フェイスブックは更新してて、たまにイベントの告知とかしてるけど。本当に活動できなヒトだよ。東京の大学に行って、色々知見を広げられたってお礼言われたことがあったけど、私は何もしてないしねえ。今度帰省したら、お酒飲もうって言っておいてよ。

 ごめん、話逸れたね。そうそう。石塔の話と、あの校則ね。メダカを生き埋めにするやつ。

 え、あ、うん、●●さんのこと。そうねえ、良い子よ。凄く良い子。お母さんもとても熱心な方でね。

 うん、わかるでしょ。私達が言う熱心な方って意味。うん。そういうタイプ。まあ、あの親にしてあの子ありってところかな。

 悪いとは言わない。だって、そういう子がバランサーになってくれているのは確かだから。でも、限度というものがあるのよ。

 ○くんの煙草だってね、本人が吸っているのは確かよ。でも、ふざけているわけじゃないの。だってあの子、【不明】の子だから。しょうがないでしょって、●●さんにも言ってるんだけどね。でもわかってくれないの。

 【不明】は確かに、宗教よ。紛うとなき宗教。政教分離に則ったら、確かに私達は○くんを止める必要があるのよ。でも、ほら、指導要領にもあるでしょう。その地域の事情を含んだものであるべきだって。その事情の一つなのだから、仕方が無いと思うのね。

 それに、●●さんも、あんまりねえ。あの子のお母さん、このあたりの出身ではないし。あ、そうそう。●●さんの家、この辺りの家じゃないわ。お母さんのご意向で小学校から移住してきて。そう、あーうん。その、あまり言いようがないけれど。はい。そうね、そういうこともやらかしてるタイプ。あの子の家、あの、山の中頃にあるのね。で、あそこの畑、見たことある。あれ、●●さんの家のやつなんだけど。ね、雑草ぼうぼうだったでしょう。虫も酷いし。堆肥を使うのは良いけれど、農薬を使わないものだから、病気も出してるみたいで。あの辺りに住んでる牧場の、他のクラスの子とか、その親とか、結構クレーム入れてるみたい。私の方にはまだ来ていないから、分別つけてくれてる。うん、地域の人みんな、わかってくれてるわ。どうしてもね、移住政策なんかとったら、ああなるのはわかってるじゃない。

 ああごめんなさい。●●さんを悪く言いたいわけじゃないの。彼女も彼女なりにこの町に馴染もうとしているのよ。東京の大学に行きたいとか言っているけれど、無理なのは本人も薄々気付いているんじゃないかしら。うん、その。えぇ。学力がね、ちょっと。まあ、この辺りの高校になら、推薦でいかせてあげられると思うのよ。だからクラス委員にも推薦したの。あまりにクラスで立場がないものだから、その、ね。

 こういうのも、クラス運営には必要な判断よ。わかってるわ、あまり良い判断じゃないのは。でも、誰か一人のための最善を選び続けることは出来ないでしょう。○くんも、なんで●●さんに怒られているのか、わかってるし。

 【不明】の教義は校則と似てるでしょ。だから、なんとか上手く馴染めると思ったんだけどね。

 ■さんが建てた石塔の管理をしてるのは【不明】だから、○くんがお供えをしてくれているのよ。うん、お線香でも良いんだけどね。でも、どうも【不明】的には、煙草じゃないとだめみたい。煙草の煙が必要なんだって。

 うん、本当だったら先生がやるべきだと思う。でも、【不明】の宗教ごとを教員がやるわけにもいかないし。それに、○くんが、あまり吸い込んではいないというから、火を点けるために吸ってるくらいで。今度、理科室の吸気筒を貸すつもり。○くんもそれで納得してるっぽいし。

 うん、●●さんがこれ以上暴走しないようにするのは、私の仕事だから。えぇ。でも、彼女みたいな子、他にもいっぱいいるからね。

 どうしても、ああいう校則があると、守る子と守らない子がハッキリしてくるのよ。でも、守りたくても守れない子っていうのもいて。だから、●●さんみたいなタイプの子が、○くんとか、他の緩めの子に強く当たるのね。まあ、●●さんの場合は、少し事情が違うけど。で、ああいう世代って、緩めの方が多数派になるわけよ。だから、こう、●●さんみたいな子が、孤立していくのね。でも、少数派の子達って団結しちゃって、自分達が正しいんだって考えを崩さなくなるの。それは、柿本くんも知ってるでしょ。

 だから、どうしても●●さんもどんどん頑なになっていって。はあ。まあ、どうしようもないんだけどね。

 こっちとしては、学校でちゃんと勉強して、高校に無事上がってくれればそれで良いのよ。

 別に、誰に聞かれても良いのよ。どうせこの辺りの先生達は皆思っていることだから。

 ほら、貴方も聞いたことない。溝口先生から。

 この辺りの子どもって、他の地域に比べて成人する前に亡くなることが多いでしょう。と言っても、割合にしたら一〇パーセントくらいらしいけど。

 だから、まあ、元気にしていてくれれば良いのよ。●●さんも、○くんも。

 そういうことだから、○くんには、少し我慢してもらうしかないわね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る