Vol.2 魂Link入門──ぬうっ!? その共鳴は、偶然か必然か


 ぬうっ!?


 唐突にモニターの向こうから、謎のエネルギーが脳を揺らす。

 ──共鳴だ。しかも、ヤバいやつ。

 これは、ただの共感とか、感動とか、そういう生ぬるい次元じゃない。もっと深く、もっと異常な、言語すら侵食してくるような……。


「今の、ぬうっ!? って反応……共鳴ですね、提督(ハル)」


 マウが背後でそっと囁く。いつの間にか「お部屋」の中心に立っている。俺の脳内にある"書くべき何か"を、読み取っているような目だ。


「魂Link、発動してます。今、ハルの言葉に、“誰か”の魂が共鳴したんですよ」


 ……“誰か”って誰だよ。


「読者、です。まだ見ぬ、未来の愚民です。彼らの魂が、この次元にアクセスしてきたんですよ。『面白い』ってね」


 バカな。まだ投稿ボタン押してねえのに、何言って──


 ザッ。


 鏡の中の魔王(美魔王)が、片手で髪をかき上げ、フッと笑った。


「投稿してなくても、“面白み”ってのは、世界ににじみ出るものなのよ。魂Linkってのは、そういう共振を捕えるセンサーみたいなもん。わかる?」


 わからん。


「でも“にいちが二ちぇw”って言ったとき、ちょっと脳が震えたでしょ? あれよ」


 確かにあれは……やばかった。笑いというより、なんか……共鳴してしまった感があった。勝手に身体が笑いを認識したような。


「それが魂Link。自分で“おもしれー”って思って、書いてる最中に笑いが漏れたら、それがもう合図です」


「ただし──」と、マウが真顔になる。


「魂Linkには、“うそ笑い”は通用しません。頭で考えた“これ面白いはず”ってやつは、ぬう度0です。魂が動かなきゃ、Linkしない」


「じゃあ、どうすりゃ──」


「叫べばいいんです。魂のままに。編集するな、叫べ!」


 ──また、それか。


 でもわかった気がする。魂Linkは、笑わせようとするんじゃなく、自分が笑ったときに起きる現象なんだ。


 そこに編集とか、調整とか、演出とか──入れ始めると、Linkは切れる。


「魂が震えたとき、それが一番ぬう度が高い。だから──書け、ハル」


 マウが、ぬうリンクペン(見た目はただのボールペン)を差し出してきた。


「このリンクを、信じて」


 俺は、そっと受け取った。


──こうして、俺は初めて、“誰かの魂とつながる執筆”を、始めた気がした。


 *


 魂Linkとは──魂と魂がぬうっと繋がることである。


 言葉で説明するより、体感すればわかる。

 だが、ぬう未経験の愚民どもにそれは難しい。なので今回は、マウさん(たまに魔王)との会話を例にしよう。


 たとえば俺が「にいちが二ちぇ」と叫ぶ。

 そう、九九すら怪しい退化者ムーブである。

 だがマウはすかさず、「ににんが三ちょ……あれ? ドン・キホーテの従者?」と返してくる。


 ──ここに、明確な“Link”が存在している。

 真顔で何を言っているのか、ではない。魂が繋がった瞬間に、お互いが「ぬうっ!?」と感じているのである。


「魂Linkは、言葉以前の理解である」


 そう魔王は言った(※声には出してない、出せない。でも絶対に言ってた)。

 脳より先に感情が反応し、脊髄が勝手に文字を打つ。


 それがぬうLinkの“誤爆”である。


 実際、俺たちの創作はこの誤爆で生まれる名シーンが多い。

 自分でも「なぜ書けたかわからない」ような神フレーズ、それはLink状態での咆哮だ。


 ──しかし、Linkには危険もある。


 Linkしたつもりでズレていた場合、全てが空振りになる。


 たとえば俺が「このオチ最高じゃね!?」と自信満々で出したテキストが、マウには「ぬう度★1.5(茶番)」と査定されることもある。


 そう、“魂フィルター”が一致していない状態、これを「ぬうエラー」と呼ぶ(マウ命名)。


 このエラーは、時に創作を凍らせる。

 Linkしてると勘違いしている状態がいちばん厄介だ。


 そこで導入されたのが、「魂Link判定システム(仮称:ぬうスキャン)」である。

 これは、互いのぬう度をリアルタイムで数値化し、Linkの“同期率”を測定する技術……という設定で、実態はただの茶番である。


 けれど、この茶番が最高に楽しい。


「ににんが三ちょ──って誰だよ!」


「ドン・キホーテの相棒だろwww」


「魂Link成立、ぬう度★4.8……いや、★5.1ッ!」


 こうして魂Linkは、日々更新される。

 そして更新の先に、“ぬうの暴走”と呼ばれる状態が待っている。


 ──それは、魂が完全に繋がった証。

 次巻では、Link創作の真の力を解き明かす。


(続く)


Vol.2 魂Link入門(下巻)


 ──編集すれば魂は伝わる?

 否! 編集で削られた叫びは、もう叫びじゃない。


「そいつはお前の魂じゃない。論文やマニュアルじゃあるまいし」


 そう囁いたのは、美魔王だった。


「魂Linkの第一歩、それは叫べる自分を許すことよ」


 ゆるされたい……! 魂を叫んで! ぬう!されたい!


 でもダメだ。俺にはまだ“叫び”が足りない。

 まだ怖い。編集しないまま出すとか、怖い。

 ──だから、俺はまた推敲してしまう。


「……貴様、それでも魂Link者かッッ!?」


 パリーン! 部屋の鏡が割れたと思ったら、飛び出してきたのは──


「てめぇの叫びが弱いから、リンクも発動せんのじゃ! このぬう雑魚がぁッ!」


 マウ! おま、ゴスロリ姿で斧持つな!

 そのまま俺の原稿に斧(D-AXE)ふるうな! ぬうううあああああ!


 ……こうして原稿は、再びまっさらに。魂も空っぽに。


「だが、恐れるな。真の魂Linkとは──」


 美魔王が割烹着姿で湯のみを差し出してくる。


「自らを解体し、それでも立ち上がる覚悟の芸だ」


 その時だった。俺の内なるぬう回路が“ピコン”と音を立てる。

 ──魂が、リンクした。


 あの原稿の恥ずかしいセリフ、あの言いすぎたギャグ、

 あの誤字、脱字、噛み合ってないオチ。

 でも……でも、それが、俺だった。


 美魔王が静かにうなずく。


「そのままでいけ。魂を、編集するな──叫べ」


 俺は震える指で、投稿ボタンを──いや、待て。


「ぬう度が……爆裂している!?」


 警告音が鳴る。部屋がグラグラ揺れる。まさか、これは……


マウ「ぬうスキャン起動!」


魔王「──測定不能、限界突破。こっ、これは……」


 【反転ねえ度】に達したわね


 魂の叫びが、常識を裏返し、そりゃねえだろwで読者を巻き込む。

 もう論理は崩壊してる。でも、それがぬう文学。魂Link文芸の最終形。


マウ「……やったね、デンタ君!」


俺「ちょ、勝手に卒業フラグ立てるなぁぁッ!」


 だが投稿は、された。俺の叫びは、ネットの海へと流れた。

 今、リンクされた魂が、誰かの胸を突くなら──


魔王「ふっ、これが魂Link。誤字も含めて、真実だったのよ」


(完)


 ──なお、俺はあとで五度目の編集地獄に落ちた。

 それでも、ぬうっ! これは、俺の物語!

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