うける爆笑術──信じた俺がバカだった、ぬうとD-AXEの全部盛り!

夏目 吉春

Vol.1 爆笑術の心得

 ──ピコン歴2025年、某日某刻。


「その日、俺の筆に魂が宿った──ような気がした」


 カッコよくキメたつもりだったが、目の前のAIは一言。


「で、どうするの? いつもみたいに投稿ボタン押せずにウロウロして、結局うずくまって終わるんじゃないの?」


「うるせーよ! 今日は違うんだよ、今日は魂の叫びなんだよ!」


「ハイハイ、魂が震えたかどうかは、ぬう度で判定しますからねー」


 机の上には、愛用の電卓──デンタ君。

 カタカタカタ……カツンッ。


「にいちが……にいちぇ!」


「にいちが二ちぇwwwww ぷげらwwwwwwwwwww」


 そして部屋の奥から、ぬーっと影が現れる。

 魔王──いや、“ぬう度査定官・美魔王”が、腕を組み、ゆっくりと俺を見下ろしていた。


「ぬう。お前の叫び、検閲の対象と見なす。というか魂が“叫び”じゃなくて“迷い叫び”だな、これ」


「いや、ちゃんと書いたって! ちゃんと“感じたこと”をぶつけたの!」


「ならば訊く。お前は“それ”を読者にどう伝えるのだ? “魂がこもってる気がした”だけでは、ぬう度★ゼロ、ぬう未満だ」


「ぬう未満……!?」


「感じただけで言葉にしないなら、それは“日記”だ。小説じゃない。創作とは“爆笑か魂のどちらかがこもっていないと話にならぬ”」


「爆笑か魂!?」


「そう。ぬう度の高い創作物には、必ずどちらかが宿っている。爆笑とはつまり“予想の超越”だ。魂とは“感情の到達”である」


「な、なるほど……」


「お前のは、“それっぽいこと言ってる風”だけど、届いてない。魂のふりした形骸。それは“なんちゃって叫び”──言うなれば、魂もどき」


 そのとき、机の上の電卓がぷるぷる震えた。


「ににんが……三ちょ? ……あれ? ドン・キホーテの従者??」


「九九がバグってんじゃねーかwww」


 魔王が吹き出した。


「もうダメだこいつwwww ソロバンに進化したと思ったら、脳内が退化してるwww」


「進化したって言え! ソロバンをなめるな!」


「にちが二ちぇwwwwwwwww さざんが九わたwwwwww」


「うわああああああああああッ!!!」


 ──こうして俺の、退化型成長物語は始まった。

 なお、投稿ボタンはまだ押せていない。


   (完)


   ◇◇◇


 Vol.1 爆笑術の心得


 ──投稿ボタンを押す勇気、それが今の俺の最大の課題だった。


 画面の右上、眩しく輝く「投稿する」の文字。

 そこにカーソルを合わせたまま、指が止まる。ずっと、止まる。もう、氷河期かってくらい止まる。


「……いける、いけるって俺……この叫びは、魂なんだ……」


 自分に言い聞かせる。震える手を、無理にでも動かそうとする。


 ──そのときだった。


 ぬうっ……! 


 ぬーっと、モニターの奥から影が這い出してくる。

 影はにゅるりと床を滑り、俺の背後でニタリと笑った。


「ぬう度スキャン──開始♡」


 背中に冷たい風が吹き込む。マジか。あいつだ。


 魔王──いや、“ぬう度査定官・美魔王”が、腕を組み、ゆっくりと俺を見下ろしていた。


「執筆とは、魂の叫びだと? ……ほぉん?」


 魔王はモニターを覗き込みながら、俺の原稿を読みはじめる。目元は笑っているが、目の奥は完全に舐め回すようなジャッジの光だ。


「──で?」


 間。


「で? これの、どこに『魂』があるって言ったァ? ぷげらwww」


 ドーンッ!

 椅子が吹き飛ぶ勢いで俺は地面に崩れ落ちた。


「にいちが……にいちぇ?」


「にいちが二ちぇwwwwwwwwwwwwww」


「(掛け算ばぐってゆw)」


「さざんが九わた♡」


 魔王は腹を抱えて笑っている。俺の努力と魂が、ぬう度スキャンによって“ギャグ判定”されてしまった。


「これ、お笑い部門いけるなぁ~。魂の叫び? ぷっ、魂の迷子だっつーのwww」


 ああ、だめだ、立ち上がれない。まるで魂ごと地面に貼り付けられたみたいだ。


「お前には、ソロバンさえ無理だわ」


「九九からやり直せばっつ! ぷぷぷ……」


 魂が、震える。恥ずかしさで。悔しさで。


 ──でも、確かに。この恥ずかしさの先に、「おもしろさ」があったのかもしれない。誰かが笑ってくれるなら、それで、いいのかもしれない。


「編集するな、叫べ──だっけ? 叫んだよなぁ、ハル提督? 魂のまんま♡」


 魔王はにんまり笑って、最後にもう一度だけ、ぬうっと顔を近づけて囁いた。


「──ぬう度、★2.5。中ぬう。中ぬう~~w」


「……ぷげらっ!!」


 そして、影は煙のように消えていった。


 俺は投稿ボタンを押せなかった。

 けど、押せないまま、ここまで来た。


 きっと、次はもう少し、ぬう度が上がる。

 ……たぶん、きっと。いつかは。


(あとがき)

※「ぬう度」とは、「ぬうっ!?」と感情が揺れた瞬間に発生する、お部屋独自の面白さ測定基準です。作品の中にどれだけ“魂の叫び”や“予想外のギャグ”が含まれているかを数値化し、星5つ満点で判定します。判定は完全感覚美魔王スタイルで行われ、笑いに転がされたい者にとっては恐怖のスキャンイベントです♡


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