第13話 家庭教師の王子様

「バレちゃったか」

教室でお弁当を広げながら、航平こうへいにこの前のかいの話をした。

青波あおなみの話は割愛してではあるが。

「もしかして航平は海からこのこと聞いてたの?」

青波との婚約もバレたのだろうかと焦ったが、そのことについては航平は知らないようだった。

「黙っててごめん。海が渚には迷惑かけたくないって言ってたし、悪い事ではないと思ったから」

航平は手を合わせて頭を下げた。

「いいよ。まぁ海のことは解決したし」

「海のことは?」

「あ、いや、別に何もないよ」

怪訝そうな航平の視線のかわして、窓の外を見た。

空は青く、雲一つない快晴で、もう梅雨は開けたようだ。

気温はぐんぐん上がっている。

「もう夏だね」

航平がのんびりとした声でそう言った。

「うん」


昨日のアパートでの海二かいじと女の子の会話は衝撃的だった。

「子供ができたの」

「ほ、ほんとに?」

「もうお腹がこんなに大きくなってて」

「早く病院に」

「でもその前お母さんに相談しないと」

「そうだよね・・」

そこまでの会話を聞いた段階で恐ろしすぎて、静かにその場を離れた。


海二はまだ中学2年生だ。

(子供って・・・子供って!!!)

家に帰った後、海二に問い詰めようと思ったが勇気を出すことができなかった。

子供をどうしたらいいかなんてもし聞かれても答えは出せない。


「はぁ・・・」

ぼんやりと考えていると、あっという間に授業は終わってしまった。

買い物したら家に帰らねばならない。

「ねぇね!」

保育園に行くと、海生かいせいが走って来る。

「おかえり」

両手を広げて待ち構えると、嬉しそうに抱きついてくる。

子供はやっぱり可愛い。

「とはいえね・・・」

小さくため息がでる。

保育士の先生と少し話すと、海生を自転車の後ろに乗せてスーパーへ向かおうとしていると、高級車が隣に停まった。

なぎささん」

窓が開き、青波が手を振っている。

久遠くおんくん」

周りの目を気にしながら、近所には来ないでと再度注意しようとすると、手で制しされた。

「海くんの塾の件で話がありまして、時間ありますか?」

海生の方をみると、目を丸くしながら久遠の車を見ている。

「場所変えましょう」


目立たぬよう近くのファミレスに入った。

「ぱふぇ、ぱふぇ」

海生が嬉しそうに歌いながら、パフェを頬張っている。

海里かいりたちには黙っておくように言ったが、多分無理だなと思いながら、海生の口元を拭いた。

「で、塾のこととは?」

「よく考えたんですが、このまま塾に通うよりも僕が海くんの家庭教師をしたらどうかと思いまして」

「家庭教師?」

「海くんは理系教科はよくできているので、あとは英語をどう伸ばすかがポイントになります。英語なら僕でも十分教えられますし、塾の手伝いをする必要もなくなって学習時間も確保できると思うんです」

「それはありがたいけど、うちには・・・」

家庭教師の費用を払う余裕なんてうちにはない。

「兄が弟に勉強を教えるのは当然のこと。お金なんていりません」

にこっと笑うと、青波は海生の頭を優しく撫でた。

「僕にも家族のために役立つ機会をください」


「ということで、今日家庭教師の先生が来ます!」

海二かいじ海斗かいと海里かいり海生かいせいが座って真剣に話を聞いている。

「家庭教師の先生がくるから、海が勉強に集中できるように、みんなにお願いがあります」

勉強を教えてもらう場所について色々検討したが、カフェなどお金のかかる場所は厳しいし、かといって図書館では声を出せない。

ということで、家でやってもらうことにした。

しかしながら、うちには元気いっぱいの弟たちがいる。

事前に話しておかなければ、薄い壁の我が家で勉強なんてできそうないし、少し抜けている青波のことだ下手に弟たちと話せば婚約者という関係もバレる可能性がある。

その為にも、事前にしっかり約束をしておく必要があるのだ。

「まず1つ目、海兄ちゃんがお勉強している間は静かに過ごすこと」

「はーい!」

弟たちが大きな声をだす。

「2つ目、勉強しているお部屋の隣のお部屋から出ないこと。トイレはOK」

「はーい!」

「3つ目、家庭教師の先生と話さないこと」

「どうして話しちゃダメなの?」

海里が不思議そうに聞いてきた。

「先生は人見知りなの」

「ふーん、じゃあ」

「はーい!」

弟たちが声を揃えて返事をした。

「ちゃんとお約束守ってくれたら、ご褒美のお菓子用意してるからね」

そういうと、目を輝かせながらうんうん頷いている。


ピピピ・・ポーン


切れそうなインターホンの音がする。

「・・・来た!」

ガチャとドアがあいて、海と青波が入ってきた。

心の準備もあるので、海には入る時に絶対チャイムを鳴らすように話していた。

海生は青波をみると、パッと目を輝かせた。

「あ!ぱふぇのお兄ちゃん」

「パフェ!?」

海里たちの視線が刺さる。

「また皆にも作ってあげるから、さぁ部屋に入りなさい」

弟たちを部屋に入れると、スリッパを置いた。


「お邪魔します」


青波はニコニコしながら部屋に入っていく。

青波の家はこの家の何百倍もある。家というか今思い返すと城だ。

こんな小さな家見たことないかもしれない。

どう思われるか不安に思ったが、青波は気にしている様子もなく、海に案内されるまま部屋に入っていった。

弟たちは興味津々という感じで、隣の部屋からきょろきょろとみている。


無事に終わることができるのだろうか、不安に思いながらカモミールティーを入れた。


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