第12話 海の秘密の真相

「どういうことか説明してもらおうかな?」


私がそういうと、怒られている子供のように青波あおばが上目づかいで「実は・・・」と話し始めた。


青波は渚から話を聞いた後、早速調査を始めた。

何事にもお金をかけてはいけないと渚から言われていたので、誰かに依頼するのではなく自分の足でかいを探そうと、学校終わりに海の通う中学校へ向かった。

しばらくすると、海が校門から出てきたので後をつけた。

会ったことはなかったが、渚を調べた時に一通り家族も調べていたので、写真で顔は覚えていた。

しばらく歩いて駅前までくると、建物に入っていく。

建物に近づいてみると、『後藤塾』と看板が出ている。


(塾に通うとは感心だな)


一瞬そう思ったが、調査書には塾に通っているなんて書いてなかったし、経済状況を考えると塾に通っているとは考えにくい。

塾の中に入って事実を確認したいが、なんと説明したらいいのだろう。

渚と約束があるので姉の婚約者とは伝えられない。

家族でないと個人情報も答えてもらえないに違いない。

どうにか上手い言い訳はできないかと考えていると、塾の自動ドアが開いた。

「あの、もしかして講師アルバイト希望の方?」

「・・・え、あ、はい」

「履歴書は?」

「えっと・・・忘れました」

「まぁいいわ。次持ってきてね」

受付の女性に案内され、学力をはかるテストを受け、面接を受けた。

「採用で。イケメンだし」

最後にはそう言われて、次回出勤日が決められた。


「それで塾の講師を?」

私が呆れたような声を出すと、青波は「そうです・・・」と小さな声で答えた。

「本当は海くんのことを聞いたら断ろうと思っていたんですが、事情を聞いたらそう言うわけにもいかなくなってしまって」

「事情?」

「・・・はい、実は」


「海くんが塾の運営のお手伝いをしてるんですか?」

塾長から事情を聞いて、青波は少しびっくりしてしまった。

「えぇ。とはいえ、中学生を働かせるわけにはいかないですから、掃除とか簡単なお手伝いをする代わりに授業を受けさせることにしたんですよ」

塾長は穏やかな顔でそう言った。

「1週間ほど前に塾の前で海くんがうろうろしてましてね、声をかけたんですよ。そしたら行きたい高校があるがこのままだと勉強が間に合いそうにない。塾に行きたいけどお金がないと本当に困った様子で・・・自分の子供のころを見ているようで、ほっておくなんてできなくてね。手伝いをしてくれたら、勉強を教えてあげるよと言ったんだ。本当は手伝いなんてせずとも教えてあげたかったけど、手伝いの代わりにした方が気を遣わずに勉強できるかと思ってね」

「そうだったんですね。じゃあその塾代を僕が・・・」

渚が言っていた言葉が頭の中に響いた。


“「お金を使わなくても、プレゼントしなくても、相手を喜ばす方法なんていくらでもあるんですよ?むしろ、そっちの方が価値があります」”


「海くんは中学生ですし、帰ってくるのが遅くてご家族が心配しています。なので、僕が講師としてお手伝いする代わりに授業を受けさせてあげるというのはどうでしょう?」


「それでこうなったということ?」

「・・・はい」

私は頭が痛くなった。

海のせいで久遠グループの御曹司に迷惑をかけてしまった。

生活費や学費だけでもかなり助けてもらってるというのに、その上こんなことまで何をお返しすればいいのかわからない。

「本当にごめんなさい」

「いえ、この前言った通り、海くんは僕の家族でもありますから」

「海には話したの?その…私と久遠くんの関係を」

「どうしてそこまで助けてくれるのかと海くんに聞かれた時に、上手く理由が思いつかなくて、お姉さんの婚約者だと言ってしまいました」

青波はすぐに「約束を破り、申し訳ありません」と深く頭を下げた。

「・・・いえ、海のためにしてくれたことだし、すごく感謝してます。それに私が原因でもあるし」

「どうして渚さんに原因が?」

「最近海に注意して怒ってばかりだったから、・・・そんな私だからきっと塾のこととか話しづらかったんだろうなって思って。親代わり失格ですよね」

話をしているうちに涙がでそうで恥ずかしくて、青波に背を向けた。

「それは違います!海くん言ってました」

私の肩をつかむと、青波は自分の方へ向けた。

「お姉ちゃんにいつも迷惑かけて申し訳ない、お姉ちゃんなのに母親代わりをさせて、自分は何もしていない、せめて高校は良いところに行っていいところに就職して、お姉ちゃんを楽にさせたい、そう言ってました」

「海がそんなことを・・・?」

「ちゃんと渚さんの愛情は伝わってます」

「海・・・」

ポロポロ涙が溢れてくる。

海はやっぱり優しくて昔と変わらない。

不器用なだけなのだ。


「姉ちゃん!?」


振り返ると、海が驚いた顔で立っている。

「海!もう・・・!」

海の方まで駆け寄ると、ぎゅっと抱きしめた。

昔は小さかったのに、今はもう私より10センチ以上も背が高い。

どんどん大人になっていっている、体も心も―

「心配かけないでよ」

「ったく、なんだよ」

照れくさそうにしながら、海は「ふん」と鼻を鳴らした。


塾からでると、雨はもう止んでいる。

空を見上げると、薄っすらと三日月が見えていた。

「さ、早く帰ろう。海二たちが心配してるだろうし」

海の方をみると、深刻そうな顔でこちらを見ている。

「海?」

「姉ちゃん、確認があるんだけど」

「確認?」

海はニヤっと笑った。

「久遠さんと婚約ってどういうこと?」

「そ、それは・・・」

御曹司との婚約は周りにどんな影響があるかわからない。

海二かいじは中学生、海里かいり海斗かいとは小学生だ。

噂になるといじめにあったり、逆にちやほやされて変に影響を受けるかもしれない。

「そのことはまたちゃんと説明する。でも海二達にはまだ・・・」

「・・・わかった。黙っとくよ」

「うん、ありがと」

「久遠さんいい人だよな」

青波は天然なところはあるけど、私のアドバイスをしっかり聞いて、海のために一生懸命になってくれた。

「いい人よね」

小さくつぶやいた。


海と歩いて、アパートが見えてきた時、「俺、トイレ」と先に走って帰って行った。

「まったくせわしない」

今日は海のことが解決して少し気分がいい。

明日は海の大好物を夕食にしようかな、そう思いながらアパートの階段を上がろうとした時、なんだか声が聞こえてくる。

女の子と男の子が話しているようだ。男の子の方は、聞き覚えのある声だ。


「・・・海二?」

なんとなくこっそり近づいていくと、会話が聞こえてくる。


「子供ができたの」


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