白き花嫁は夢を見ず

予知夢の一族に生まれながら、一度も“未来”を視たことのない綾小路すみれ。
二十五歳、異能も縁談もなく、本家で女中として静かに暮らす彼女は、それでも今を誠実に生きていた。
だが、当主である兄夫婦の急死により、一族の均衡が崩れる。
後継者を巡る混乱の中、すみれに突きつけられたのは“屋敷からの追放”。
そのとき手を差し伸べたのは、分家筋の少年・神崎桐矢。——一族最強の予知能力者だった。

「僕と結婚をしてほしい。形式だけでいい」

未来が視えることで人を拒絶してきた少年と、未来を持たないことで今を選び続けた女性。
二人の“仮初の夫婦生活”は、やがて心の距離を縮めていく。
しかし、未来に囚われた一族は再び牙をむき、すみれに危機が迫る。