06 ラリマー:心の安らぎ
美夜の家庭の人間関係が、全く理解できない方が大勢だろう。今から、そんな複雑な家族関係を紹介しようと思う。
まずはこの家の解説から。美夜の家は【白原生物研究所】という、ただの一軒家である。研究所とあるが、地下に研究室がある以外は何の変哲もない家だ。何か特徴があるとすれば、そこに住む研究員は【常軌を逸した人】の管理を任されている事くらいか。
ここにいる研究員は一人、電脳ロボこと『白原 璃沙』。彼女はロボットであるが、人の心を持ち研究員をしていたりと割と人間味がある。上記にあるそれらの人々は、璃沙が管理を任されている。
そしてその研究所に居候をしているのがもう一人の研究員『奈江島 綺瑠』。彼は璃沙の管理する生物達の【父】代わりとして、世話をする為にわざわざ璃沙の家に転がり込んでいる変わり者だ。そんな彼であるが、研究所の中ではかなり偉い地位なんだとか。
次にこの研究所に住む【常軌を逸した人】を紹介しよう。
この家で長女として暮らしている『白原 美夜』。美夜には本当の親がいたが、数年前に亡くなってしまい璃沙に引き取られたのだという。生まれながらに『超能力』を得る病気を抱えており、そのせいで短命。
こういったなんとも不可思議な人の管理を行うのが、この生物研究所のお仕事…というわけだ。
次に来るのはこの双子、『白原 広也』と『白原 進也』だ。二人とも美夜と同じ病気を持っており、彼等も美夜と同じく優れた能力を持つ。若いと言えど、普段はその能力を隠しながら生活をしている。
以上の五人が、この研究所に住む【家族】だ。彼等の殆どは血の繋がりがないとの事だが、彼等は本物の家族のように生活をしている。
晩の食卓を囲む美夜、広也、進也、璃沙にビデオカメラが回される。
進也はカメラに興味津々なのか、カメラを見ながら食事している。美夜も気になっているのか、たまにチラチラとカメラの様子を伺った。対し広也と璃沙は全くの無関心。ちなみに璃沙はロボットなので食事をしない。エプロンを着たままみんなの食事を眺めているだけだ。しかし暫くして璃沙はカメラが鬱陶しく思ったのか言った。
「綺瑠、食事中にカメラ回すな。」
すると綺瑠はカメラを下ろしてニッコリ。
「いいじゃない、たまには食事をしてるみんなを撮っても。」
「お前はコイツ等の親かっての。」
「親だよ~」
綺瑠は嬉しそうに言った。感情表現の豊かな表情、どうやらこの綺瑠は裏の綺瑠ではない様だ。すると進也は笑顔でカメラに向かってピース。綺瑠は素早く進也にカメラを向けるとニッコリ笑った。
「おっ!いいよいいよ進也!もっと笑ってー?」
次に広也に向ける。
「ほらほら広也も!こっち向いて?」
広也は進也と違ってはしゃぐ様子が全くなく、視線だけ送ると綺瑠はグッドサイン。そして次に美夜に向けた。
「美夜もこっちこっち~!」
美夜は控えめに微笑むと、小さく手を振った。綺瑠は頷くと、最後に璃沙に向ける。
「璃沙、こっち向いてよ!」
璃沙は向いてくれないので、綺瑠は一度カメラから顔を離す。口をへの字に曲げて璃沙を見ていたが、綺瑠は再びカメラを構えて言った。
「今月はボーナスつけてあげる。」
すると璃沙は素早く顔を上げてカメラを見た。それを見た広也は無表情のまま言う。
「相変わらず金ばっかだな璃沙は」
四人を撮ると、綺瑠は満足した顔。それを見た璃沙は腑に落ちないのか小さく息をつくと、綺瑠のカメラを奪った。綺瑠は慌てた様子になる。
「あわわ!僕のカメラ!」
すると璃沙は綺瑠にカメラを向けた。突然カメラを向けられ綺瑠は目を丸くすると、璃沙は綺瑠から視線を逸らす。
「家族全員撮るんなら、綺瑠も映ってなきゃ不公平だろ。」
綺瑠は盲点だったのか暫く瞬乾をし、美夜は璃沙の言葉に深く頷き共感を示した。すると進也も笑顔で言った。
「綺瑠も映るっすよ!」
「ん」
と広也も返事をした。綺瑠は一同の反応を見ると、心から嬉しいのか目を輝かせる。その姿はまるで、家族に囲まれて喜ぶ小さな子供のよう。
「確かにそう!ありがと璃沙!」
そう言って綺瑠は癖なのか、食事中にも関わらず璃沙に抱きついた。璃沙は驚いて赤面し、美夜は妬けたのか膨れっ面を見せる。
「だからくっつく癖直せ!!」
璃沙はそう叱ったが、次に反応したのは進也だった。進也は璃沙が羨ましく感じたのか、駄々を捏ねる様に言う。
「璃沙や美夜ばっかずるいっす!俺もギュってして欲しいっすよ!」
「はいはーい!」
綺瑠は璃沙から離れると、進也にも抱きついて頭を撫で始めた。進也は無邪気に笑うと、広也は呆れた顔。
「あーあー 子供って困るなぁ」
美夜は進也に抱きついても妬けるのか、その嫉妬が表に出ないように耐えていた。しかし我に戻ったのか、広也に言葉を返した。
「いいじゃない。綺瑠さんは家族みんなが大好きなんですもの。」
「血ィ繋がってねぇのに…よくもまぁここまで懐くもんだ お互いな」
広也はそう言いながら微かに笑った様子で綺瑠と進也が戯れ合う様子を見ていた。璃沙はカメラを下ろすと呆れた様子を見せる。
「さっさと飯食え、遊んでないで。」
「ごめんごめん!」
綺瑠はそう言って席に着くと、夕御飯を食べた。一口一口幸せそうに食べる綺瑠。そんな綺瑠を、美夜と璃沙が眺めていた。それも手を止めて眺めているので、そんな二人を見た広也は何やら事情を知っているのか軽く溜息。
進也は不思議に思って聞いた。
「兄貴、璃沙と美夜はどうして綺瑠を見てるっすか?」
それが聞こえた璃沙はギクッと反応をするが、広也は言った。
「さぁな」
璃沙が安堵の溜息をつくと、美夜も聞こえていたのか微笑む。
「だって綺瑠さんが可愛いんですもの。好きな人の顔は、ずっと眺めていても飽きないわ。」
「そうなんすね!」
進也は目を丸くして言っていた。この顔は多分、何も分かっていないだろう。
みんなが夕食を終えた頃、食器は全て片付けてはいるものの一同はリビングのテーブルに座りっぱなしだった。
どうやら綺瑠はみんなに話があるようで、美夜から聞いた未来について話をしていた。家族の話だからか、全員が真面目に話を聞いている。
「それでね、美夜から聞いた話なんだけど、未来の結婚式で僕と美夜は殺されちゃうらしいんだ。」
その言葉に広也は眉を潜め、進也は理解出来ないのか目を丸くする。
「どうしてっすか?式場には俺も璃沙も来てるはずっすよ。俺の【力】と璃沙の力さえあれば、どんな凶悪な殺人鬼も押さえつける事が可能っす!」
進也は腕には相当自信があるのだろう、進也は笑顔で言うと綺瑠は頷いた。
「そうだね、僕もそれを不思議に思っている所なんだ。たった二人で、進也の相手をするのも難しいと僕は思っている。だから僕はね、犯人は複数人なんじゃないかって考えているんだ。」
すると璃沙は神妙な顔を見せる。
「それだけじゃないぞ、それが三度あったんだろ?会場に爆発物を仕掛ける辺りも、会場の事をよく知っている人物だ。もしかしたら式に参加している人間で、もっと言えば身内に犯人がいるかもしれないな。」
そう言われると、綺瑠は眉を困らせた。
「身内…!?ぼ、僕の家族が協力したって事!?」
「それも有り得る。それとは別に美夜の友達の中に混ざってた線も考えられる。家族が大好きなお前にゃ信じられない話だろうけど…その可能性も考えた方がいい。」
例え可能性であろうとも、綺瑠は考えたくないのか俯いてしまう。璃沙はそんな綺瑠に弱いのか、思わず「うっ…」と耐え難い表情をした。遂に負けたのか、璃沙はぶっきらぼうにも続けた。
「馬鹿!可能性だって言ったろ!と言うかお前の家族のどこに、お前や美夜を恨む奴がいるんだ?いないだろ!」
綺瑠はそれでも考えた様子で黙っていた。しかし顔を上げ、真摯な様子を見せる。
「ごめん…考えたくなかった。でも璃沙の言う通り、その可能性も考慮しないと。」
「お、おう…」
綺瑠が気落ちしていない事を確認し璃沙が安堵すると、広也は淡々とした様子で言った。
「おう もしかしたらオレと進也が裏切ってる可能性もあるしな」
そんな事は嘘でも言って欲しくないのか、綺瑠はショックを受ける。
「冗談でもやめて…!」
綺瑠が真っ青になって言うと、広也は否定もせずに鼻で息をつくだけ。しかし進也は笑顔になって言った。
「冗談っすよ!兄貴の下手な嘘に騙されちゃダメっすよ綺瑠!」
広也はそれを聴くと怒り顔。
「アァン? 誰が下手な嘘だってぇ?」
「兄貴っす!」
進也は始終笑顔。綺瑠は二人の掛け合いを聴くと、困った表情のまま微笑んだ。
「ありがとう、進也。広也は、お父さんを困らせる様な事を言わない。」
綺瑠が優しく言うと広也は溜息。その溜息は「わかってないな」と言いた気である。それから綺瑠に言った。
「バーカ お前を裏切ったらその後 誰がオレ達を養うってんだ 璃沙に恨まれて追放されちまうぞオレ達 そのくらい頭で考えたらわかんだろ」
「そうかな…?」
続いて進也は真剣な表情を見せた。
「美夜や綺瑠がギュッとしてくれなくなるっす!それは絶対に嫌っすよ!」
「そっかぁ」
冷たい発言をする広也とは対照に、素直で温かい言葉を発する進也。二人の言葉を聞いて綺瑠がやっと緊張が解れた様子で笑うと、部屋は賑やかな雰囲気になった。調子を取り戻しつつある様子に美夜は微笑んだ。
(いつもの日常…)
しかし胸に突っかかるように結婚式の時を思い出す。それを思い出すと、美夜の表情は優れなくなるのだ。美夜は胸に手を当てる。
(……私達の幸せ…、また壊されちゃうのかな…?)
美夜は悲しい気持ちになると、そのまま俯いてしまった。それが視界に入った璃沙は美夜に言う。
「大丈夫か?」
美夜は気づくと、無理に笑みを見せた。
「え、ええ。」
「後で二人で話すか。」
璃沙からの提案に美夜は目を丸くしてから、気を使ってくれた事に微笑みで返した。
「ありがとうございます…。」
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