塔に触れた者

この日もまた誰かが塔に触れた。

それを察知した三人は任務中ではあったものの、急ぎ塔を目指した。


一番に戻って来たタナは不思議な光景を目にして、塔には入れず空からその触れた者を見ていた。

そこに遅れてルナ、イナが戻って来た。


「イナ、なんだ?あれは」

「ルナがわからないなら、僕にもわからないよ」

「タナ、なぜ塔に入らないんだ?」

「なんとなく」


塔に触れて、壁によじ登り、窓を目指していたのは小さな少年だった。

年は五歳か六歳くらいだろうか、所々に穴が開いたボロボロのTシャツ、長さが揃っていない長ズボン、靴は履いていない。

今、三人のうち誰かが塔に入ると、塔が消えてしまうため、少年は確実に怪我をする。

しかし、放ってはおけない。なんせ、もうすぐ窓に手が届きそうだから。


チッと小さく舌打ちしたルナが、仕方なく地上に降り立ち、少年の背中に向かって人差し指を向けると、その指をくるっと円を描くように回した。

すると少年の身体はフワリと壁から離れて浮き上がり、ゆっくり地面へと降ろされた。

ルナは少年に見つからないように、空中で待つ二人に合図した。

その合図を見たタナとイナが塔に入ると、人間の視界から塔は消えた。


「少年」


ルナが少年に声をかけると、少年はルナを見上げてから辺りを見回し、塔がなくなっていることに気がついたようだ。


「お兄さん誰?」

「何をしていた?」

「僕のこと、知ってるの?」

「お母さんはどうした?」


お互いに質問しかせず会話にならない。

少年は一体なぜ、指先に血を滲ませてまでも必死に塔に登っていたのだろうか。

不思議に思いながらも、ルナは深入りするべきではないと思い、少年が視線を外した隙に空へと飛び立ち、塔の中へ入った。


生きている人間が死神に会った場合、その記憶は自動的に消されるシステムになっている。

少年の記憶もまたすでにないはずだ。


一度、塔の中に入ったルナだったが、やりかけの任務を思い出して再び空へと羽ばたいた。

塔から飛び立った瞬間、塔の足元にいた少年が遠ざかって行っているのが見えた。

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