塔の秘密
塔の中は外側の姿からは想像できないほど煌びやかで、まるでどこかのお城のようだった。
赤いカーペットが敷かれた階段が上へ下へと伸びていて、壁には大小の絵画がいくつも飾ってあり、吹き抜けの天井からは豪華なシャンデリアまで。
ルナはゆっくり階段を下ると左に進み、広い食堂のような部屋に入った。
十数人座れそうな大きな食卓と椅子。そのダイニングセットの端から二番目の椅子にルナが座ると、瞬時にどこからともなく豪華な食事が現れた。
湯気の立つスープ、焼き立てのパン、採れたての野菜で作ったサラダ。
ルナはまずはコップ一杯の水を飲みほしてから食事を始めた。
「おかえり、ルナ」
「タナ、いたのか。イナは?」
「出かけてる」
「一緒に食うか?」
「いや、さっき食べた」
憂神の塔に住む死神は三人。長兄のルナ、次兄のタナ、末っ子のイナだ。
三人は同じ死神ではあるが、血がつながった兄弟ではない。
ルナは死神になって五百年程経った。タナは百五十年余り。イナに限ってはまだ数十年しか経っていない。
彼らの仕事は「死者のお迎え」などという緩いものではなく、死後昇天せずに現世に残り悪霊となった死者の回収だ。
問題なくスムーズに回収できる時もあれば、危険を伴う時もあるが、彼らに仕事を選ぶ権利はない。
毎朝届く”伝令”により任務を遂行している。
ルナ、タナ、イナの三人が同時に不在になると、なぜか塔の姿が人間に見える。
逆に言えば、誰か一人でも塔の中にいると、塔は目につかなくなってしまう。
そのためあったり、なかったりする塔なのだ。
この不思議な塔、神界では「
人間を憂い、神々の
入り口がないのは単純に人間の侵入を防ぐためだ。なんせ塔の中は冥界だから。
生きた人間が一歩踏み入れてしまえば死んでしまう。無駄な死者を生まないための対策なのだ。
しかし、ごく稀にそれでも侵入しようと試みる人間がいる。
壁をよじ登り、地上から数メートルの場所にある窓から。
生きた人間が無駄に死者にならないようにするため、人間が塔に触れるとルナたち死神にそれが伝わる仕組みになっている。
察知した死神が急いで塔に戻ると、塔は姿を消し、人間は地面に落ちるしかなくなる。
数百人に一人程度だが、死神が間に合わず死者になってしまった人間がいるため、触れると喰われるといった噂が囁かれるようになった。
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