「憂神の塔」の死神
eighten
第1章 死神ルナ
あったのに、なくなる塔
花も咲いていないどこまでも続く草原。背が低い茶色の草が生え揃い、時折、近くの山から下りてきた風が吹き通り、その風たちがくるくると踊る丘。
ここに今にも倒れそうな高い塔が建っていた。
灰色のコンクリートブロックでできたその塔は、ただ穴を空けただけの窓がいくつかしかなく、地面から見上げてもてっぺんが雲に隠れて見えないほどの高さ。
そして、異様な空気を漂わせていた。
人が住むものではない。見張り台のようなものだろうか。
「入口がないな」
塔の側で呟いたその男は、塔に入り口がないことを不思議に思い、二十数歩しかない塔の周りをゆっくり歩いて塔を見上げた。
「それにしても高いな」
空に届いているのではないかと思わせる高さだ。塔が建っている丘に風が吹くと、窓を通り抜けながら不気味な音を響かせている。
男は近くの国の兵士。塔が建つ場所はどの国のものでもない場所だ。兵士は鉛色の鎧を身に着けており、少し離れた場所には馬がいて、足元の草を頬張りながら彼を待っている。
塔に入り口がないことから、入るのを諦めた兵士はその場を去ろうと彼を待つ馬の方へ足を向けた。しかし、兵士の足は塔から数歩離れたところで止まり、彼は意味もなく感じ取った異変に塔の方を振り返った。
「なにもないな」
確かに異変を感じ取ったのに、塔に特に変りはない。それを確認した兵士は、ゆっくり馬の方へ再び歩き出した。首を傾げながらも彼は馬に跨り、自国へと帰って行った。
自国へ戻った兵士は、仲間の兵士に巡回の途中で異様な塔を見つけたと話して聞かせた。兵士は日に何度も巡回をしている。あの丘も何度も行った場所なのに、初めてあのような塔に気がついたと言った。
「あの塔には近付くな。近づくと喰われるぞ」
「私は触れると倒壊すると聞いたが」
「塔は実在するのか?噂には聞いていたが・・・」
それぞれが、塔について知っていることを次々に口にした。
兵士には普通に見えていたあの塔は、誰にでも見えるものではないようだ。
それに塔に喰われるやら、触れたら壊れるなどありえない話だ。
兵士は仲間の話を真剣に聞かず、皆がふざけているだけだと思った。
しかし翌日、同じ場所に向かった兵士は、あの塔を見つけることはできなかった。
今まで感じた事のない恐怖を纏った不思議な感覚に、兵士は肩をすくめ、身震いをして、急いでその場を離れた。
兵士に見つかってしまったその塔は、確実にその場所に存在している。
二日目に兵士が来る少し前、遠くから大きな鳥のような何かが塔に近づくと、地上からは見えない塔の一番上にあるバルコニーに降り立った。
黒い衣服に、黒い靴、漆黒の立派な翼を携えたそれは死神のルナ。
ルナはバルコニーの入り口から塔の中に入って行った。
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