第六十話:星の道と、調律師の末裔
俺が差し出した手を取り、シルヴァもまた、俺が通り抜けてきた、岩の壁を、すり抜ける。
彼女は、まるで、狐につままれたような顔で、先ほどまで自分たちの行く手を阻んでいた、頑強な岩壁を振り返っていた。彼女が触れると、そこは、もう、ただの固い岩だ。
「…お前の手に触れている間だけ、私も、この結界を通り抜けられる、というわけか」
「たぶん、そうなんだろうな。俺の持つ【鍵】の定義が、あんたにも、一時的に共有されてるんだ」
「…本当に、むちゃくちゃな力だな、お前のは」
シルヴァは、呆れと、感嘆が入り混じった、複雑な表情で、そうつぶやいた。
俺たちが、結界の試練を乗り越えた先。
そこに広がっていたのは、もはや、砂漠の光景ではなかった。
俺たちの目の前には、まるで、天の川を切り取って、地上に敷き詰めたかのような、一本の、光り輝く道が、まっすぐに、地平線の彼方へと続いていたのだ。
道の両脇は、まだ砂漠のはずなのに、不思議と、夜の冷気も、乾いた風も、感じられない。
それどころか、どこからか、心地よい、清らかな鈴の音のようなものが、聞こえてくる気さえした。
「…ここは、一体…」
シルヴァが、息を呑む。
俺の目には、この光の道が、純粋な【秩序】と【清浄】の概念で、構成されているのが視えていた。
「たぶん、この道そのものが、結界なんだ。星見の民が暮らす『聖域』と、外の世界とを隔てる、境界線のようなものだ」
俺たちは、その光の道を、一歩、また、一歩と、進んでいく。
不思議と、疲れは感じなかった。むしろ、歩けば歩くほど、この道から発せられる清らかな概念が、俺たちの旅の疲れを、癒していくようだった。
どれほどの時間、歩いただろうか。
やがて、光の道の先に、巨大な、山脈のような影が見えてきた。
そして、その山脈の中心が、まるで、巨大な宝石のように、内側から、淡い光を放っていることに、俺たちは気づいた。
俺たちが、その光の麓にたどり着いた時、その正体を、ようやく、理解した。
そこにあったのは、山肌をくり抜いて作られた、巨大な、水晶のドーム都市だった。
家々は、全てが、様々な色合いの水晶を削り出して作られており、その一つ一つが、夜空の星々を反射して、あるいは、自らが、星のように、キラキラと輝いている。
都市の中心には、巨大な泉があり、その水面には、まるで、鏡のように、満天の星空が、寸分違わず、映し出されていた。
あまりにも、幻想的な光景。
俺とシルヴァは、言葉を失い、ただ、その光景に、立ち尽くしていた。
その時だった。
都市の入り口から、一人の、フードを目深にかぶった人物が、静かに、俺たちの元へと、歩み寄ってきた。
その人物は、俺たちの目の前で立ち止まると、ゆっくりと、そのフードを外した。
現れたのは、長い、銀色の髪を持つ、穏やかな笑みを浮かべた、老婆だった。その瞳は、まるで、夜空そのものを、閉じ込めたかのように、どこまでも、深く、そして、澄み切っていた。
シルヴァが、咄嗟に、俺の前に出て、警戒するように、レイピアの柄に、手をかける。
「我々は、アークライト王国からの使者だ。あなた方は、この地の…?」
だが、老婆は、シルヴァには、一瞥もくれなかった。
その、星空のような瞳は、ただ、まっすぐに、俺だけを、見つめていた。
そして、彼女は、まるで、長い間、待ちわびていた、大切な客人を迎えるかのように、その場に、深く、深く、頭を下げた。
「――お待ちしておりました。“鍵”を携えし、迷い人よ」
その声は、穏やかで、しかし、世界の真理を知る者だけが持つ、不思議な響きがあった。
老婆は、ゆっくりと顔を上げると、俺に向かって、こう続けた。
「我らは、星を読む者。…そして、貴方様のような力を持つ方を、我々は、遥か古の時から、こう呼びます」
彼女は、俺の魂の、その最も深い部分に、語り掛けるように、言った。
「――ようこそ、お帰りなさいませ、最後の**“調律師”**様」
追放された俺の力は【万物定義(コンセプト・コール)】。あらゆる“概念”をその身に宿し、世界最強の魔法剣士へ成り上がる @Qseityo
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