80-3・vsロクロ首~真奈の正体バレ

-優麗高-


 既に察知をしていた美穂と麻由が、校舎の屋上で待ち構えていた!美穂の誘導に従って、Dラピュセルがしがみついたユニコーンが屋上に着地!麻由が、梓弓を召喚して、追ってきたロクロ首に向かって光の矢を射る!理力が込められた矢が飛んで、ロクロ首の肩に着弾!ダメージを受けて体勢を崩したロクロ首が屋上の床を転がった!その間にDラピュセルが変身を解除して、真奈とジャンヌに分離をする。


「美穂さん、麻由ちゃん、(ロクロ首を)任せても良いよね!?」

「了解!サッサとヤボ用を済ませてこい!」


 美穂は「生身でも戦場に飛び込んでくる真奈が、戦線離脱を希望するなんて何か意図がある」と判断して、理由を聞かずに送り出す。


「ジャンヌは、引き続き、真奈の護衛をしてくれ!」

「承知した!」


 真奈とジャンヌは、塔屋に飛び込み階段を駆け下りていった。

 ロクロ首が後を追おうとするが、麻由が前に立って進路を塞ぎ、上空に向けて理力を込めた矢を放つ!天の曼荼羅発動!ただし、豪雨の如く光の衝撃波が降り注ぐ法雨ではなく、強烈な光が屋上を照らした!

 ロクロ首は、光で灼かれてダメージを受け、悲鳴を上げて屋上の床に伏す!全身から闇が上がり蒸発をしていく!時折、半透明化をして、中に捕らわれていた矢吹南が見え隠れする!

 美穂は、日増しに強くなっていく麻由に感心しつつ、上空で輝く光を眺めながら、麻由に寄って行った。


「麻由、この光は一体?」

「法雨の派生技です!

 浄化の光を発するだけなので、妖怪にはダメージを与えますが、

 妖怪以外には害はありません!」


 中級妖怪を倒して、中に捕らわれた依り代を救うのに、アクセル発動+手数など必要無い。技のイメージと研磨を続ける麻由らしい戦い方だ。実にアッサリとした戦局に、美穂はやや拍子抜けをしてしまうが、これで、妖怪は浄化をされて事件は解決する。・・・と思ったら。


「・・・うぎぁぁぁっっっっっっ」

〈イヤだ・・・この力を失ったら私は・・・〉


 依り代の意思が、ロクロ首の受けたダメージを回復させていく。これまで戦った妖怪は、依り代が弱い心に付け入られて利用されていた。だがロクロ首は違う。依り代が妖怪にしがみついている。矢吹南が、妖怪を祓われることを拒んでいる。南が憑かれることを望んでいるので、今の光では、妖怪を弱体化をできても、倒すことができない。ロクロ首を消滅させる為には、もっと強い光で灼かなければならない。


〈イヤだ・・・イヤだ・・・イヤだ・・・

 力を失ったら・・・何も無くなっちゃう!〉

「矢吹さん・・・やはり、アナタは?」


 麻由の予想は当たっていた。矢吹南は妖怪の力を借りてテストに臨んでいたのだ。それは許されることではない。実力以外でテストを受けるなんて認められるわけがない。だが、麻由には何かに縋り付こうとする南の気持ちが理解出来てしまう。


「・・・くっ!・・・私には。」


 妖怪にしか縋れなくなった矢吹南から、妖怪を奪うことはできない。それをやってしまったら、南は、もっと縋ってはならない物にしがみつくかもしれない。以前の麻由のように。

 戸惑いながら上空の光球に向かって気合いを放つ麻由。激しく照りつけていた光が消え、床に這い蹲っていたロクロ首が立ち上がる。依り代の発する念と、周囲に漂う念を、闇に変えて吸収してダメージが回復してしまった。


「なんのつもりだ、麻由!?」

「よ、妖怪だけを灼いても、根本解決にはなりません。」

「また、悪いクセかよ?・・・ったく!」


 麻由の言い分は理解出来るが、妖怪を野放しにして良い事にはならない。長丁場を覚悟した美穂は、異獣サマナーネメシスに変身をする。真奈が、ワザワザ学校まで戻ってきた目的と、戦線離脱をした理由は、何となく察しが付いており、麻由が討伐拒否したので、確信に変わった。


「真奈にも、麻由の‘悪い癖’が伝染しているみたいだな!

 要は・・・真奈が戻ってくるまで時間を稼げば良いって事だろ!」

「はい!」

「フィニッシャーをする気は無くても、変身くらいはしておけ!

 牽制はできるんだろ!?」


 ネメシスに煽られた麻由が聖幻ファイターセラフに変身!まだ校内には生徒が残っている時間帯だから、妖怪を彷徨かせるわけにはいかない!2人がかりで、ロクロ首を屋上から脱出させないように牽制をする!



-体育用具室-


 真奈は、美穂から来たメッセージ「軽音部が話し合う場を作れ」を実行する為に行動している。清姫事件を経て、依り代に届く言葉なら、依り代を救って妖怪を弱体化できると知った。


「たのもぉー!おひかえなすって!」

「愛ちゃん!聡ちゃん!陽ちゃん!彩ちゃん!お願い!今すぐに一緒に来て!!」


 軽音部は演奏中だったが、飛び込んできた真奈は、お構い無しに大声を張り上げた。演奏を止め、「何事か?」と真奈を見つめる軽音部員達。ジャンヌが中腰になって手の平を上に向けて、「おひかえなすって」のポーズをしているけど、ツッコミを入れてる余裕が無いのでスルーする。ちなみに、この場合「おひかえなすって」はダメなりに正解だけど、「たのもう」は不正解。


「どういうこと?」

「説明はあとでするっ!もし、今でも南ちゃんを友達と思っているなら助けて!」

「えっ!?」


 南の名を聞いた途端に、豊沢愛&中井聡&日山陽&野中彩が動揺をする。そして、「南に何か不測の事態が発生しているのだ」と推測する。皆、今は疎遠になっているが、南を嫌いになったわけではない。むしろ、南に避けられても、ずっと気になっていた。愛に至っては、「謝らなければならない」と思っていた。


「来てっ!」

「うんっ!」×4


 体育用具室から飛び出していく真奈とジャンヌ。愛&聡&陽&彩は、真奈を追って走り出す。



-校舎の屋上-


ロクロ首は真奈を追いたいが、ネメシス(美穂)とセラフ(麻由)に阻まれて先に進むことができない!伸ばした首を振り回して、口から闇を吐き散らした!セラフは光の衣(障壁)を発して阻むが、しばらく攻撃を防ぎ続けた光の衣は、防御力を失って消える!中級妖怪とは思えない高い攻撃力だ!


〈どいて!どいて!どいて!私は真奈ちゃんを追わなければならないの!〉

「真奈を追ってどうするつもりなんだ!?」

〈解らない!解らない!解らない!でも、追わなければならない!〉

「ダメです、美穂さん!精神が暴走状態なので、説得は通じません!」

「こっちは、そんな暴走したヤツを相手してんのに、中身を傷付けないように、

 丁寧に戦わなきゃなんだから、面倒臭いったらありゃしない!

 無事にクリアしたら、飯おごれよ!!」

「なんで私が!?」

「気が利かね~な!こんな時くらいは、『はい解りました』と即答しろ!

 ワザワザ、オマエの要求通りに、面倒な戦い方に付き合ってやってるんだぞ!」


 ロクロ首は空に飛び上がって戦場を離脱しようとするが、ネメシスが召喚した白鳥型モンスター=キグナスターに邪魔をされ、更に宙を舞うネメシスに攻撃をされて屋上床に落ちる!


「尤も、真奈が機転を利かせた行動をしていなかったら、

 こんな甘っちょろい戦いに付き合ったりはしないけどな。

 ・・・オマエの‘悪い癖’が伝染した真奈が来たみたいだぞ!」


 幾つもの足音が塔屋に鳴り響く!騒々しい足音が屋上に向かって近付いてきた!


「麻由!珍客達に掠り傷1つ許すなよ

 甘い考えを通したいなら、これから来るゲスト共を、死ぬ気で守れ!」

「はいっ!当然ですっ!」


 真奈とジャンヌが塔屋から飛び出してきた!


「美穂さん、麻由ちゃん、お待たせっ!」


 続けて、豊沢愛&中井聡&日山陽&野中彩が屋上に出て来た!その眼前には、白い騎士&黄色い武者と、昨日の、和装で首の長い幽霊みたいな女。軽音部員達はフリーズする。


「ぎゃぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっっ!!!!!」×4


 真奈に言われるままに付いて来たら、そこには人外だらけ。数秒のフリーズの後、青ざめて悲鳴を上げながら塔屋の中に逃げ込む軽音部達。我先にと慌てて階段を駆け下りようとするが、真奈が大声を上げて呼び止めた!


「待って、みんな!白い騎士と、黄色い武者は怖い人じゃないよ!」


 足を止めて、恐る恐る振り返る軽音部メンバー達。真奈の発言に応えて、ネメシスとセラフが軽音部員を見つめ、「私達に害は無い」と伝えるように頷く。


「・・・どういう事?」

「まさか、こんなところで、ヒーローショーをしているってわけじゃないよね?」

「うん・・・これはショーなんかじゃない。

 昨日、言ったよね。あとで説明するって。

 愛ちゃん達が考えてるより、ずっと怖いことなんだけど、

 無関係じゃないから良く見てね。」


 真奈は、隣に立っているジャンヌに向けて手を翳す。


「熊谷真奈の名において、命令権を発動するよ。

 ジャンヌさん・・・私に力を貸して。」

「良いのか、マスター?」

「うん!みんなに、目の前で起きている事を信じて欲しいから。」

「承知した!」


 真奈の意思に応じて精神を統一するジャンヌ。全身が輝いて青い光に変化をして真奈に融合。


「・・・マスクドチェンジ!」


 真奈から発せられていた青い光が紫色に変化!深紫色の甲冑に覆われて、マスクドウォーリア・Dラピュセル登場!軽音部員達は、「何が起きたのか理解出来ない」って目で眺めている。


「これで解った?私も、白い騎士(ネメシス)と黄色い武者(セラフ)と同じなの。

 だから怖くないんだよ。」

「・・・う、うん」

「それからね。」


 Dラピュセルが、ロクロ首を指さす。


「そこの、妖怪・・・みんなは、見たことあるはずだよ!」


 軽音部員達は、Dラピュセルにつられて和装で首の長い女を眺めた。先程は一見して「怖い」と思ったが、改めて確認をして、愛&聡&陽&彩は我が目を疑った。変わり果てて幽霊のように青白いだが見覚えがある。


「・・・南?」


 軽音部員達は「信じられない」と言いたげな表情でDラピュセルに視線を移した。Dラピュセルは深く頷く。


「なんで?」

「どういう事なの、真奈ちゃん?」

「落ち着いて聞いてね。・・・アレは南ちゃんなの。

 去年の優麗祭の頃、巨大な狐の怪物(火車)が暴れた事件は知っているよね?

 それより少し前に、学校の火災事件があったことは覚えているよね?」

「う、うん・・・それがどうしたの?」

「私も、知らないことが沢山あったけど、

 同じような事件に巻き込まれたのがキッカケで知ることが出来た。

 今ね、南ちゃんには、その時の事件と同じ事が起きているの。」

「アレが・・・南なの?」

「うん。皆と距離を空けてしまった罪悪感と焦りを、

 悪い奴(妖怪)に付け込まれちゃったの。

 愛ちゃんや、聡ちゃんや、陽ちゃんだって、いつ同じになっちゃうか解らない。

 だから、お願い。皆で南ちゃんを・・・・・・」


 軽音部メンバーを睨み付けるロクロ首!


「オォォォォォォォォッッッッッ!!!!」


 彼女が天狗(天道顕仁)に与えられた命令は、真奈を排除することだが、罪悪と焦燥の対象を見た瞬間から、意識が更なる暴走をして、天狗の命令より自身の劣等を優先させ、軽音部員達に飛び掛かった!


「きゃぁぁぁっっっっっっっっっっっ!!!」

「はぁぁぁっっっっっっっっ!!!」


 セラフが手を翳すと、軽音部員達の前に光の障壁が出現して、ロクロ首の突進を防ぐ!軽音部員達の眼前で、光の壁に阻まれたロクロ首が恨みの雄叫びを上げる!怯えて萎縮する軽音部員達!


「愛ちゃんや、聡ちゃんや、陽ちゃん、彩ちゃん!南ちゃんを正気に戻して!!」

「ど、どうやって!?」 「無理だって!」 「こ、怖い!」


 軽音部員達に呼び掛けるDラピュセル!しかし、何をどうすれば良いのか、軽音部員達には解らない!


「矢吹さんに、皆さんの声を聞かせて下さい!

 矢吹さんが闇に捕らわれた原因は、アナタ達への罪悪感です!

 アナタ達の声しか、妖怪に捕らわれた矢吹さんには届かないのです!」


 セラフ(麻由)は、過去に「絡新婦に憑かれて暴走し、紅葉の声が届いて我に返って脱出をした」経験があるから解る。矢吹南の劣等の原因になった軽音部員達の声ならば、ロクロ首のコアに届くと判断したのだ。

 ロクロ首を倒すのは容易だけど、それでは依り代の心を救えない。だが、軽音部員が南に呼び掛けて寄り添えば、根本を解決することが出来るかもしれない。


「その為の苦労ならば・・・苦労とは思いません!」


 セラフが気合いを発すると、光の壁が厚くなり、ロクロ首が押し戻され、軽音部との距離が開く!ロクロ首は闇を吐き出すが、厚い壁に阻まれて軽音部には届かない!


「皆で南ちゃんに声をかけて!私も頑張るから、皆も頑張って!!」


 Dラピュセルは、フィエルボワソードを装備してロクロ首に突進をする!下手くそな大振りの剣技ではロクロ首には全く当たらない!

 主導権をジャンヌに譲渡した方が強いのは解りきっている。だが、真奈は、自分の力で、この戦いに臨みたかった。それが、「友人(軽音部員)達を危険に晒す代償」と決めて、稚拙な剣を振り回しながら妖怪に挑む。


「心構えだけは良いんだけどさ!

 あたし達が手を貸さなきゃどうにもならんのは、少し考えろ!」


 ロクロ首の死角に回り込んだネメシスが、ハルバードの強打をロクロ首に叩き付けた!


「美穂さん達をアテにしているのは大前提だよ!」

「だったら、(事件が)解決したら、飯おごれよな!」

「もちろんです!」


 体勢を崩したロクロ首に、Dラピュセルの袈裟斬りが叩き込まれる。マスクの下で笑顔を浮かべ、ネメシスを見つめるDラピュセル。一方のネメシスは、小声で「やれやれ」と呟いてから、軽音部員達に視線を向ける。セラフとDラピュセルも、軽音部員達を見つめる。


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