80-4・軽音部の呼掛~ロクロ首討伐~ハーゲン敗北
「いつまでもビビってんな!
コイツ(ロクロ首)は、オマエ等の大切なダチだろうに!」
「アナタ達への攻撃は私が防ぎます!
だから、アナタ達は、矢吹さんに声を届けてっ!」
「怖いのは解るけど頑張れっ!!」
ネメシスとセラフが何者なのかは解らないけど、怖い人とは思えない。むしろ、Dラピュセル(真奈)の接し方を見ていると、知っている人のような気がする。そして、3人が「自分達の声で南を取り戻せ」と言っている。信じがたいが、これが「自分達の知らないところで、ずっと発生をしていた現実」なんだろう。
愛は俯いたままだが、聡&陽&彩は、それぞれを見廻して頷き合い腹を括る。
「独りぼっちにしてごめん!」
「南は、これからもずっと友達だよ!」
「いつもの南先輩に戻ってください!」
「おぉぉぉぉっっっっ!!!」 〈・・・サト・・・ハル・・・アヤ・・・〉
軽音部員達の呼び掛けによって、ロクロ首の虚像が揺らぐ!しかし、その程度で、矢吹南は、しがみついてしまった妖怪の力を手放さない!
「南が軽音部を続けるかどうかなんて、どうでも良い!!」
「でも、南が私達の大切な友達って事に代わりはないっ!!」
「今までも、これからも、バンドをやめたとしても、私達はずっと仲間です!!」
〈イヤだ・・・イヤだ・・・イヤだ・・・
この力が無くなったら、何も無くなっちゃう!〉
ネメシス(美穂)が召喚したキグナスターに弾き飛ばされるロクロ首!しかし、首だけを伸ばして、妖気を吐き出しながら軽音部員達に迫る!
「矢吹さんは、焦りと罪悪感を妖怪に付け込まれ、孤独に耐えきれず、
その力にしがみついてしまいました!」
再び、セラフ(麻由)が光の障壁を張って、ロクロ首を妨害する!
「でも、それは、しがみついちゃダメな場所!
南ちゃんが、ホントはどこにしがみつきたいのか、
皆なら・・・愛ちゃんなら解るよね!?」
クサビとなる一言を言ってしまった愛を名指しするDラピュセル!それまで俯いていた愛が、Dラピュセル(真奈)の言葉に反応して、眼に涙を浮かべて、顔を上げてロクロ首を睨み付ける!
「返せ・・・南を返せ。私達の大切な仲間を返せ!」
「おぉぉぉぉっっっっ!!!」 〈・・・アイ〉
「ごめん、南。ずっと言わなきゃって思っていたのに言えなかった。
『代わりはいる』って言っちゃったの、本心じゃないの。」
「おぉぉぉぉっっっっ!!!」 〈・・・愛!〉
「南は要らない子なんかじゃない。ずっと、私には必要な子。
ホントは南に残って欲しかったけど、止められないって解って、
南に置いて行かれるみたいな気がして、
ついカッとなっちゃって・・・本当にごめん!
私、こんな酷い子だけど、南が許してくれるなら、まだ南とは友達を続けたい!」
「おぉぉぉぉおぉぉ・・・・トモ・・・ダチ。」
形が乱れ、移動速度が大幅に鈍るロクロ首!Dラピュセルが、武器をオラクルフラッグに持ち替えて突進をする!
「やるよ、ジャンヌさん!」
〈準備は出来ている!〉
「やぁぁっっっっ!!!テュエ・ディユ・セルパン!!!」×2
Dラピュセルが突き出したオラクルフラッグの先端から光蛇が放出され、ロクロ首に向かって伸びていく!
「だからお願い!戻ってきてっっ!!」
〈愛っ!聡っ!陽っ!彩っ!〉
妖怪の中で意識を朦朧とさせていた矢吹南が、我に返り「皆の所に戻りたい」と手を伸ばす!この力は、求めていた力とは違う!ずっと解っていたのに、怖くて手放せなかった!実力とは違う力を見せつけても、何の意味も無い!自分の中身から発揮される力で見せつけなきゃ価値は無い!
南が力を拒んだ途端にロクロ首との繋がりが曖昧になり、全身から闇が蒸発していく!Dラピュセルが発動させた光蛇が着弾!ロクロ首は、闇を撒き散らしながら上空に押し上げられていく!
「麻由ちゃん、お願いっ!!」
ロクロ首は大ダメージを受けた!そして、依り代との繋がりは希薄になっている!今ならば浄化を出来る!梓弓を召喚して構え、光の矢に理力を貯めるセラフ!
「んぁぁっっっ!!任せてっ!!トドメゎァタシがっっ!!!」
「紅葉っっ!!?」
ゲンジ(紅葉)が勢い良く塔屋から飛び出してきた!
「だいぶ遅れちゃったけど、やっと到着!
出番無しで終了では格好悪すぎるから、最後くらいは活躍するっ!
(・・・てゆ~か、ロクロ首を倒して使役すれば、成績を上げられるぢゃん!
こんなスゲー妖怪のフィニッシャーゎ、マユにゎ渡せないっ!)」
ゲンジが、清めのハリセンを装備して気合いを発しながら、空中に弾き飛ばされたロクロ首に向かって飛び上がる!
「んぉぉぉぉっっっっっっ!!!アクセルッッ!!!!」
≪AXL!≫
「んぇぇっっ!?」
Yスマホのディスプレイに‘AXL’の文字が表示される直前に、ゲンジの背後で‘AXL’の電子音声が鳴り響いた!ネメシス&セラフ&Dラピュセル&軽音部員達の動きが1/100に鈍り、ゲンジの真横を疾風が駆け抜ける!
そして、Yスマホのディスプレイに‘AXL’の文字が表示され、ゲンジがアクセルの世界に飛び込んだ時には、一足早くアクセルを発動させていたハーゲンが、ロクロ首に向かって、峰を返した日本刀を振り上げていた!
「んぁぁっっっっっ!!!?なんでハーゲンがここにいるのぉっ!?」
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!!はぁっっっっっっっっっっっ!!!!」
ハーゲンの乱打がロクロ首に炸裂!大量の闇を撒き散らしながら、屋上に墜落するロクロ首!手応えを感じたハーゲンは、アクセルが解除して通常のスピードに戻り、屋上に着地と同時にもう一度飛び上がって、素早く戦場から離脱をする!
「んぇぇっ!?なんでハーゲンが邪魔すんのっ!?
せっかく、テストで良い点取れるヨーカイをゲットするチャンスだったのにっ!」
直後に、アクセルを発動したのに何も出来なかったゲンジが、手摺りに向かって駆けて、獲物の横取りをしたハーゲンを探すが、その姿は何処にも無い。
「こんにゃろぉぉっっっっ!!ハーゲンどこにったぁっっ!!?
ハイエナだぁ~!!ドロボーだぁ~!!サギだぁ~!!」
セラフは、ハーゲンの姿を視認することは出来なかったが、アクセルの干渉は感じていた。「楽をしてテストに挑むつもりだった紅葉」の魂胆と、「至極真っ当に、それを妨害した母親」の思惑を想像して溜息をつく。セラフも同じスタンス。カンニングをする為に妖怪のフィニッシャーを得ようとして失敗したゲンジに同情をする気は無い。怒っているゲンジの背中を眺めつつ、ポツリと独り言を呟く。
「お母様に見抜かれたんでしょうね。
ハイエナ行為と言えば否定は出来ないんでしょうけど、泥棒や詐欺は違います。」
ネメシス&Dラピュセル&軽音部員達は、刹那の瞬間に何が起きたのか全く理解できていない。気が付いたら、実体を維持できなくなったロクロ首が、屋上の床に伏せていた。浄化の致命打を喰らったので、全身から大量の闇が蒸発をしている。徐々に闇が晴れて、体中に捕らわれていた矢吹南が出現をした。
「南ちゃん!」
Dラピュセルがセラフをチラ見すると、セラフは「大丈夫」の頷いてくれたので、安心をして変身を解除。真奈は、ジャンヌと分離をして、「行こう」と軽音部員達に呼び掛けてから、意識を朦朧とさせている矢吹南の所に駆け寄っていく。軽音部員達は、セラフとジャンヌに、遠慮がちに会釈をしてから、真奈の後に続く。
一方の南は、自分の周りを覆っている闇の霧を振り祓う。ロクロ首の残骸が南を掴んで自分の中に戻そうとするが、「仲間達との信頼」を思い出した南を掴むことが出来ない。軽音部員達に向かって駆け出す南の背後で、ロクロ首は蒸発をして消えた。
「南ちゃん!」 「南!」 「南先輩!」
「みんなっ!!」
「ごめんね、南。」
「私の方こそ、ごめん。」
素直になれば簡単に言えるはずなのに、今まで言えなかった言葉を交わして、南と愛&聡&陽&彩が輪になって抱き合う。
「引退したからって、南が軽音部OGなのは変わらないんだよ。」
「お勉強の合間で良いからさ、気分転換に遊びに来てよね。」
「え?いいの?」
「もちろんだよ!」
「ありがとう、みんなっ!」
南は軽音部に戻ることは無い。そんな半端な気持ちで引退したわけではない。一方の愛達は、秋の優麗祭までは軽音部を続ける。南のスタンスは理解するけど、追随する気は無い。今までベッタリだった‘仲良しグループ’は形を変える。
だけど、友情が終わったわけではない。「バンドという共通の行動目的」が無くなった程度で繋がりが切れるような友情を育んだつもりは無い。それを確かめ合うことができた。
妖怪の力を手放した南は、次のテストでトップを取ることはできないだろう。でも、罪悪感と迷いが無くなり、自分が決めたことに専念をできるようになった南は、少しずつ成績を上げることになる。今度は、自分だけの力で、努力が自分を裏切らないことを確かめるようにして。
「ありがとう、真奈ちゃん。全部、真奈ちゃんのおかげだよ。」
「えへへっ!私は、足立さんの依頼を受けただけ。良い後輩が出来たみたいだね。
それに、皆が仲良しに戻れたのは、皆が勇気を持ったからだよ。」
最後に真奈が「ちょっと上から目線」のスタンスで、皆を包むように抱きしめる。
屋上にいるのは、真奈と、軽音部員5人だけ。いつの間にか、ゲンジ&ネメシス&セラフ&ジャンヌの姿は無かった。
-体育館裏-
まだ怒っている紅葉を、麻由とジャンヌが宥め、美穂は「うるせー」と思いながらガン無視していた。成績が上がり始めて、努力の楽しさを知った美穂からすれば、カンニングスキルを獲得し損なってイライラしている紅葉が滑稽に見えてしまう。
「さて・・・
中井達に『真奈の変身』を見せてしまったことが、どう影響してくるかな?」
「私も同じ事を考えていました。
(・・・だから、実は、気になってしまって紅葉を宥める気分にはなれません。)」
「だが、あの状況では、マスターの行動が最善なのは、納得できる。」
美穂と麻由も、真奈が一般人の前で変身をした行為には驚いた。だけど、非日常を目の当たりにした軽音部員達を落ち着かせ、ロクロ首=南と解らせる為には、言葉だけでゴチャゴチャと説明するよりも手っ取り早い。同時に、真奈が「私は軽音部員達を信頼しているから変身を見せた」「だから自分のことも信用して欲しい」と納得をさせる効果もある。
「今は、『中井達が言い触らさない』と信じるしかないな。」
「んっ!」 「そうですね。」
一般人に正体を知られてしまった不安はある。もし、軽音部員達がDラピュセルの正体を公言したら、真奈は周りから好奇の目で見られるようになる。だから、紅葉&美穂&麻由は、その場での上手な判断ができなくて、軽音部の前では変身を解除せず、何も言わずに去ったのだ。
-西側河川敷-
「全く、あの子は・・・。」
紅葉の母・源川有紀が、川の流れを眺めながら思案をしていた。ハーゲン(有紀)がゲンジの妨害をした理由は、紅葉の妖怪使役スキルを発動させないため・・・と言いたいが、それ以上に、紅葉がカンニングスキルを得る為にロクロ首のフィニッシャーになろうとしたから。
美穂は「自分自身の能力とは関係の無い力など無意味」と考えていた。真奈は「ロクロ首の力は中身が伴わない」と依り代に気付かせた。矢吹南は「価値の無い力」と理解して拒否した。そして麻由は「表面的な虚無の力と、中身を輝かせるための自己研磨の違い」を知ってから、著しい成長を始めた。
それに引き替え、紅葉の体たらく。我が子ながら、その短絡ぶりには頭が痛くなる。
「・・・さて、もう一仕事ね。」
紅葉のお粗末っぷりは悩みの種だが、目下の処理案件は別のこと。一般人に妖怪の存在を認識され、しかも真奈&ジャンヌが目の前で正体バレをしてしまった。軽音部全員が、忘却処理の対象だ。巨大ハンマー(忘却ハンマー)を手にして、優麗高に戻ろうとする。
「君、何者なの?彼女達の仲間?」
「!!!?」
有紀は‘声の主’に尾行されたことだけでなく、接近されたことにすら全く気付かなかった。それくらい‘それ’の気配の消し方は見事だった。有紀自身が、日常的に(紅葉をストーキングする為に)気配を消しているので、即座に格の違いを理解した。
「い、いつの間に?」
有紀の眼前、地上から5mほど上空で、翼を広げた少年が見下ろしている。その者は天狗なのだが、気配の消しからが見事なので、有紀には何者なのか判別が出来ない。それでいて、威圧的で、底が深く、途轍もなく恐ろしい者に感じられる。
「この地には特殊能力を持つヤツが沢山居るみたいだけど、
その中で、君から一番感じたよ。
酒呑童子の妖気をね!!」
「!!!!!!!!!!」
「君が扱っている力って、酒呑童子の力だよね?
どうやって、その力を借りてるの?
君が酒呑の依り代とは思えないし、最上級妖怪なら依り代なんて必要無いから、
ちょっと不思議なんだよね。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あれ?教える気無し?
まぁいいや。なら、ちょっと相談なんだけどさ。
君を捕らえて人質にして、酒呑童子を誘き出すのと、
君を亡き者にして、酒呑童子を怒らせて誘き出すのと、
君はどっちの方が有効だと思う?」
愉悦の笑みを浮かべる少年。その笑顔と相談内容からは残虐性が滲み出ている。
「・・・くっ!」
歯向かってどうにかなる相手ではない!有紀は威圧感に潰されそうになりながら、反対方向(川側)にダッシュ!ハーゲンに変身をして、翼の生えた少年との距離を視認!何の予備動作もせずに、いきなり逃走を選択したので、虚を突かれた少年との距離は充分に空いている!
更にスタータースイッチ(ストップウオッチ型ツール)を装備してアクセルを緊急起動!100倍速のアクセルワールドに突入!通常体のハーゲンでは山頭野川を飛び越えるのは不可能だが、100倍速の世界なら、中州を経由すれば充分に飛び越えられる!
「・・・え!?」
ハーゲンは我が目を疑った!いつの間にか、周りに妖気を帯びた無数の羽根が散りばめられている!
「アクセルワールドに入り込んできた!?
それとも、ハナから逃走経路を予測して、羽根を仕掛けていた!?
拙い、このままではっ!!」
知らぬ間に追い詰められていたことを理解するハーゲン。しかし、打開策を打ち出す余裕なんて一切与えられなかった。囲んでいる羽根が、一斉に押し寄せてくる!
「うわぁぁっっっっっっっっっっっ!!!」
着弾と同時に、全身から無数の小爆発が起こる!小爆発に囲まれながら墜落をするハーゲン!山頭野川に落ちて、大きな水飛沫が上がる!
「あ~あ・・・聞く耳を持ってくれれば、人質にしてあげるつもりだったけど、
『亡き者にされて、酒呑童子が怒って誘き出される』を選んじゃった。
でも、まぁ、いいや。楽しみだな~。
アレ(有紀)が、僕の予想通り、酒呑童子の関係者だったら、
彼はちゃんと怒ってくれるかな?」
愉悦の笑みを浮かべて眺める天狗。変身が強制解除されて意識を失った有紀が、山頭野川を流されていく。
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