80-2・天狗暗躍&ロクロ出現~無免許の真奈
-体育用具室(軽音部)-
生徒会長と裏番長(?)、優麗高を表と裏で牛耳るトップ2に詰め寄られた軽音部員達は、隠し通すことができなくて、これまでの経緯を説明してくれた。豊沢愛は「優しさのつもりで言ったのに勘違いされた」と自己防衛をしたが、中井聡&日山陽に「アレは嫌味にしか聞こえない」「南が可哀想だった」と指摘をされて、恥ずかしそうに「ついカッとなって皮肉を言った」と反省をする。聡&陽も、「南に残って欲しくて、折衷案を提示することができなかった」と認めた。
そして、翌日から、南が露骨に避けるようになったので、声を掛けることができず、絶縁状態のまま今に至ること、南がトップを取ったのが悔しくて、更に遠い存在に感じるようになってしまったことを話す。
「進学という将来を考えれば、矢吹さんの選択は、正しいのでしょうね。」
「だけど、そればっかじゃない。
あたし達は‘進学をする為’だけに高校生をやっているワケじゃない。
秋までは続けたいって言う中井達の考え方の理解出来る。」
麻由は南寄り、美穂は他の軽音部寄りだが、互いの考えが理解出来てしまう。今まで、仲良しグループだったからこそ、「言葉は無くても皆が同じ考え」と勘違いをしてしまった結果なのだ。
「価値観の違いですね。・・・難しい問題です。」
「そうか?確かにややこしいけど、あたしは、どうにかなると思う。
まぁ、生徒会長のオマエや、勝手に番長扱いされてるあたしが、
力業でどうにかできる問題じゃないけどさ。」
美穂は、スマホを取り出して、ポチポチと操作を始める。
-矢吹家-
真奈のテレパシーが発動されて、南の昂ぶっている意識が流入してくる。意思の疎通不足から、裏切られた気持ちになって、急激な絶縁になってしまったこと。自分の選択は間違えていないと見返したかったのに、中間テストでは結果が出せなかったこと。
そして、唐突に出現をした天道顕仁と名乗るイケメン少年のヴィジョン。最初は、南が好意を持っている異性かと思ったが、南の意思は少年への好意を示していない。
〈誰だい?僕を覗き見するなんて、随分と失礼なヤツだな。〉
南の記憶を見ているだけ、南の記憶の中に存在する少年の姿を見ただけのはず。それなのに、何故か、その少年の真奈の視線が交わる。
「!!?何、こいつ!!?」
何が起きたのか解らない。だけど、南に記憶をされているだけの少年のヴィジョンに話しかけられた気がした。
途端に、真奈の全身に寒気が走って、流入するヴィジョンでオーバーフローをしそうになり、南を掴んでいた手を離す。真奈には、直感的に、少年の笑顔と雰囲気が「酷く不気味な存在」に感じられた。少年が、笑顔の奥に隠した狂気の眼で、真奈を睨み付けているような錯覚をした。
「馴れ馴れしくしないで!友達だからって干渉して欲しくないこともあるの!」
硬直してしまった真奈を突き飛ばし、玄関ドアを閉める南。我に返った真奈は、南の名を呼びながら扉を開けようとするが、鍵をかけられてしまったので開けることができない。しばらくは扉を叩いて呼ぶが反応は無し。話を再開してくれる気配は無さそうだ。真奈の作戦は失敗。諦めて、紅葉と共に退却をすることにした。
「あっ!美穂さんから連絡が入っていた。」
真奈が「玉砕」を報告する為にスマホを取り出したら、美穂から「軽音部が話し合う場を作れ」「真奈の立場ならできる」とメッセージが入っていた。だが、手遅れだった。真奈は、大きな溜息をついて、紅葉にメッセージを伝えた後、「追い返された」「聞く耳を持ってもらえない」と返信をする。
一方、南は、2階の自室に戻り、閉められたカーテンの隙間から、帰宅をする紅葉と真奈を見つめる。頭では真奈の言い分を理解できるが、心が反発をする。間違っているのは解るが、不思議な力を利用してトップを取り続け、自分を要らない子にした軽音部を見下してやりたい衝動に駆られる。
〈迷うことなんて何も無い。君は、その力を使い続ければ良いのさ。〉
「きゃっ!!」
不思議に感じて視線を上げる南。自分しか映っていないはずの窓ガラスに、南と重なるようにして天道顕仁が映っている。
「ひぃっ・・・ど、どうして?」
〈誰かに見られた気がしてね。それでここに来てみたんだ。
原因は解ったよ。さっきまで君の家の前に居た子(真奈)、
確か、ヘルのお気に入りの子だね。
ただの小娘かと思っていたけど、ヘルが選ぶだけのことはあって、
それなりの能力は持っているんだな。〉
「えっ?えっ?」
南は、「何故、顕仁が窓ガラスにしか映っていないのか?」を聞いたつもりだったが、顕仁は「ガラスの中にしか存在しないこと」など当然で、「何故、ここに出現したのか?」について説明をしている。
〈また覗かれたら面倒臭いなぁ・・・。
僕が君にあげた‘頭が良くなるおまじない’を解除すれば、
彼女(真奈)は、君経由で僕を覗けなくなるんだけど、
君は、そうなるのはイヤでしょ?
だったらさ、2度と君に近付く気になれないように追い払ってくれる?
・・・もちろん、良いよね。〉
「???」
〈十把一絡げの中級妖怪なんだけどさ、
僕が育ててあげたから、上級クラスの戦闘能力はあるよ。〉
窓ガラスの中で、笑顔で南を見つめる顕仁。南と合わせた眼が不気味に輝く。途端に、南の意識が遠退き、全身から闇が放出されて、南を飲み込んでいく!
-矢吹家の近所-
「んぁっっっ!!?」
自転車で陸上競技場に向かっていた紅葉が、妖怪の出現を感知して、急ブレーキで止まる。続けて、並走をしていた真奈もつられて自転車を止める。
「ヨーカイ出たっ!ろくろ首っ!」
「えっ!?どこ?近いの?」
「メッチャ近い!・・・ってゆか、ヤブキさんのおうちっ!」
「南ちゃんの!?」
「動いたっ!早いっ!こっちに来るっ!!」
「えっ?えっ?どういうこと?」
敵意剥き出しの妖怪が、紅葉&真奈に向かって一直線に飛んでくる!Yスマホを取り出して構える紅葉!だが、紅葉が変身の体勢を整えるより先に、青白い顔をした和装の女が空中から降ってきて、紅葉&真奈の眼前に着地!その顔には矢吹南の面影がある!妖気感知ができない真奈でも、「南が妖怪に憑かれてしまった」と把握をした!
「南ちゃんっ!」
「マナ、ダメっ!近付かないでっ!!」
真奈は接触をしようとしたが、「敵意が真奈に向いている」と察知した紅葉が止める!だが、ロクロ首の行動の方が早かった!首を伸ばして真奈に絡み付かせ、伸ばした手で掴み、東に向かって飛び上がる!
「マナっっ!!!」
ロクロ首と、捕らわれた真奈を追って駆け出す紅葉。紅葉が感知しているロクロ首は、間違いなく中級妖怪だ。紅葉には「自分は充分に強くなっている」って自負がある。今更、中級クラス程度に遅れを取ることはない。だけど、まんまと接近されて、真奈を拉致されてしまった。通常の中級妖怪とは、何かが違う。
「紅葉ちゃんっ!!助け・・・・うわぁっっっ!あぐぅっっっ!」
真奈は藻掻いて脱出をしようとするが、ロクロ首の長い首に締め上げられて自由を奪われる!強い力で全身を締め付けられ骨がきしみ、苦しくなって悲鳴を上げる!このままでは骨が砕かれてしまいそうだ!
「め、命令権発動!ジャンヌさん召喚!私と融合をしてっ!!」
-ヘブンズパレス穂登華-
「マナッ!」
麻由の自宅マンションで寝転がってテレビを見ていたジャンヌが、真奈の声を聞いて素早く立ち上がりベランダに駆け出した!真奈の意思に呼応して精神を集中させると、全身が輝いて光球に変化!南東に向かって高速で飛んでいく!
-山頭野川の西側河川敷-
空中を移動するロクロ首と、締め上げられながら連れ去られる真奈!北西から光が飛んで来て、真奈と融合!真奈の全身が光り輝いて、ジャンヌの姿に変化をした!
「マスクドチェンジ!!」
全身から魔力が発せられて青銀の甲冑が装着され、マスクドウォーリア・ラピュセル、変身完了!力業でロクロ首から脱出をして、地面に着地をする!続けて、ロクロ首が伸ばした首を定位置に戻して着地!
「無事か、マスター!」
〈ありがとうジャンヌさん!来てくれたんだね!〉
「マナっ!ジャンヌっ!」
後を追っていた紅葉が合流をして、Yスマホを翳して変身!妖幻ファイターゲンジ登場!ラピュセルと並んで構えた!見れば見るほど、ロクロ首には、矢吹南の面影が感じられて、戦意が鈍ってしまう!
〈紅葉ちゃん!あの妖怪の依り代って?〉
「たぶん、ヤブキさんだよっ!乗っ取られているっぽいっ!」
〈や、やっぱり南ちゃんがっ!〉
昨日とは違って、依り代がコアにされている!つまり、コアにダメージを与えるような一撃必殺の奥義は使えない!小技&手数で矢吹南を覆っている妖気を剥がなければならないのだ!
〈・・・紅葉ちゃん、妖怪は任せても良い?〉
「んぁっ?ど~したの?」
〈ジャンヌさん、学校に行きたいの!メインを交代してもらって良い?〉
「何か策があるのだな、マスター?」
〈作戦っていうほど立派なものじゃないけどね。チョット考えがあってさ。〉
ジャンヌの同意でラピュセルのメイン人格変更。プロテクターが紫色に変化して、主人格が真奈のDラピュセルにフォームチェンジをする。続けてユニコーンバイク召喚!Dラピュセルは、‘いつもジャンヌがやる’のを真似てバイクに跨がり、優麗高に向けてアクセルを捻った。
「マナっ!?」 〈それは無謀だ、マスター!〉
「わぁぁぁぁっっっっっ!!!」
外見は同じだけど中身が違うDラピュセルに、バイク操作のスキルなど無い。満足に操作出来ないモンスターバイクに振り回されて河川敷を突っ走り、堤防斜面に突っ込みかけたところで、サブ人格のジャンヌがDラピュセルを無理矢理操作して、ユニコーンバイクのハンドルの付いたスイッチを押した!途端にバイクは馬モードに変形をして、堤防斜面を駆け上がってから空高く飛び上がる!
〈何がやりたいのだマスター!?これが貴殿の策なのか!?〉
「・・・ご、ごめんなさぁい。」
〈学校へ行けば良いのだな?ユニコーンの操作は私がやる。
マスターは、振り落とされないようにしがみついていてください。〉
「・・・う、うん。」
ジャンヌのように格好良くはいかない。必死になって馬体にしがみついたDラピュセルが、優麗高に向かって飛んで行く。
「ふぇ~~・・・カッコ悪っ!
学校までジャンヌに連れて行ってもらって、
到着してから交代すれば良かったのに・・・。」
しばらくDラピュセルの行く末を眺めていたゲンジだったが、真奈にロクロ首を任されていたので、改めて構え・・・ようと思ったら、ロクロ首がいなかった。妖気の気配を追って空を見上げたら、ロクロ首は、Dラピュセルを追って空を飛んいた。
「・・・げっ!ヤベー!!任されたのに、1秒も引き付けられてね~っ!」
慌てて☆マシン綺羅綺羅☆(妖力で召喚したモトコンポ)を召喚して、Dラピュセル&ロクロ首を追う。
-陸上競技場-
アップをしていた響希が妖気を察知。ジョギングを中断して、百萌音先生の所に寄っていく。
「あら、どうしたの響希ちゃん?」
「また、ロクロ首が出現しました!今度こそ、チーム獣騎将、出陣します!」
「放置して良いわ。ロクロ首は、源川さん達に任せましょう。」
「・・・えっ?またですか?」
「響希ちゃんだって、源川さんや葛城さんの強さは解っているでしょ?
諸先輩方が苦戦をするような妖怪だと思うの?」
「お、思いませんけど・・・」
百萌音は、天狗の監視下にある戦闘で動いて、ワザワザ手の内を見せるつもりはない。
「旦那ちゃまは、天狗くんがウロチョロしていることに気付いているのかしらね?」
「えっ?百萌音先生、何か言いましたか?」
「うぅん、独り言よ。」
北の空を見上げる百萌音。手札を見せたくないのは酒呑童子も同じはず。傍観を決めた百萌音とは違って、酒呑童子の派閥は既に動いている。このまま手札を晒すつもりなのか見物だ。天狗の監視下では、ゲンジではなくセラフをフィニッシャーにするべき。しかし、セラフには、ゲンジほど割り切った戦闘ができない。
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