第26話 詰問
将吾が警察に連行されていく姿を見送った後、私はホテルの一室で深い疲労感に包まれていた。
遥の死の真相を解き明かすことに集中していた間は感じなかった体の重みが、今、一気に押し寄せている。
しかし、私の心には、まだ拭えない疑問が残っていた。
将吾の心をそこまで蝕んだ「闇」の正体。
そして、「ナイトロード」という謎の人物。
ルーマニア警察は、私たちの提供した証拠に基づいて、将吾の犯行をほぼ断定した。
彼らは、凶器のブックマークから採取された微量の血液が遥のものと一致したこと、そして将吾のスマホの位置情報やホテル内の防犯カメラの映像が、彼の虚偽のアリバイを完全に暴いたことを告げた。
事件は、一見すると「吸血鬼伝説に心酔した少年による計画殺人」として、解決に向かっているように見えた。
しかし、将吾の取り調べは難航していると聞いた。
彼は、自らが犯人であることは否定しないものの、その動機や犯行に至る経緯について、まるで作り話のように語り続けているというのだ。
「私は、ドラキュラ伯爵の命により、穢れた魂を浄化したのです」
「彼女の血は、私を目覚めさせるための聖なる贄でした」
将吾の言葉は、まるで自分が本当に「ドラキュラに取り憑かれている」かのような、現実離れしたものだった。
彼の精神状態は、すでに正常な判断力を失っているかのようだった。
警察も、彼の言動に困惑しているという。
私は、拓海とイアナとともに、警察に面会を要請した。
将吾の真意を、直接彼から聞き出すために。警察は最初は渋ったが、私たちが事件解決に貢献したことを考慮し、短時間の面会を許可してくれた。
面会室で向かい合った将吾は、連行された時よりもさらに憔悴しているように見えた。
しかし、その瞳の奥に宿る狂気めいた光は、変わっていなかった。
「将吾くん、遥さんのことを、なぜ殺したの?」
私が問いかけると、将吾はゆっくりと顔を上げた。
「なぜ…?それは、ドラキュラ伯爵の御意思…」
彼の声は抑揚がなく、まるで誰かの言葉を復唱しているかのようだった。
「ドラキュラなんていない!あなたは、遥さんがあなたの妄想を馬鹿にしたから、怒って殺したんでしょ!?」
私は、彼の目を真っ直ぐに見つめ、感情的に問い詰めた。将吾の表情が、微かに揺らいだように見えた。しかし、すぐに彼は目をそらし、再び虚ろな表情に戻った。
「…無知な者は、真実を理解できない。彼女は、我が主の聖なる計画を妨げようとした。だから、私は、彼女を『浄化』したのです」
将吾は、私たちが突き止めた凶器のトリックや、アリバイの偽装については一切触れず、ひたすら「ドラキュラ」という言葉を繰り返した。
まるで、自分が本当にその存在の意志に従っていると信じ込んでいるかのようだった。
「将吾くん…あなたの言ってる『ドラキュラ』は、あなたの心の中にいる、あなた自身の弱さじゃないの?」
私がそう言うと、将吾の体が微かに震えた。
彼の視線が、一瞬だけ、虚ろなものから、何か深い苦痛を宿したものへと変わったように見えた。
「弱さ…?違う…私は、選ばれた者…」
彼の言葉は途切れ途切れで、まるで何かに抵抗しているかのようだった。
その時、私は確信した。
将吾は、本当に「ドラキュラに取り憑かれている」と信じ込んでいる。
しかし、それは彼自身の妄想だけが原因ではない。
「ナイトロード」という存在が、彼の心の弱さにつけ込み、巧みに彼を洗脳し、操っていたのだ。
「将吾くん、あなたは、誰かに操られているんじゃないの?『ナイトロード』って知ってる?彼が、あなたをこんな風にしたんじゃないの!?」
私が「ナイトロード」の名前を口にした瞬間、将吾の体が大きく痙攣した。
彼の瞳が、激しい恐怖と混乱に満ち、顔色をさらに悪くする。
「ナイト…ロード…?」
将吾の声は、恐怖に歪んでいた。
その反応は、彼が「ナイトロード」を知っていること、そしてその存在が彼にとって非常に恐ろしいものであることを示唆していた。
彼の狂気は、自らの妄想だけでは説明できない、外部からの影響を受けている。
真の闇は、まだ将吾の背後に潜んでいるのだ。
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